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第7章 勝ち抜け、武闘大会!

45 そんなつもりは(俺には)無い!

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「今の試合、六町さんはどう見ましたか」

 放送部の実況中継が聞こえる。

「これはおそらく、混合術式研究会の示威行為デモンストレーションでしょうね」

「と言いますと」

「あの非戦闘型だった指揮所のみらいちゃんでもこれだけ戦えるんだぞという示威行為でしょう。今回一切攻撃に参加しなかった柏選手の行動からもそれが伺えます。
 柏選手は中学部大会個人戦で優勝していますが、その時は徹底して術式をかけまくって有利な舞台を作り上げ、その上で間合いの有利な薙刀で戦うというのがパターンでした。それが今回何も術式を使っていない。正確には岩間選手から離れる時だけ異空間移動を使いましたが、これも使えることを見せるためにわざわざ異空間移動を使ったように見えます」

「つまり一年生のみで構成の出来たばかりの研究会だけど、甘く見るなよと」

「それだと挑発になってしまいますが、それも含まれているかもしれませんね」

 そんなつもりは俺達には全くない。少なくとも守谷以外には。

 ここで守谷の強さを見せ、今後彼女が集中的に狙われることが無いようにしよう。
 それが守谷以外に明かした松戸の策だった。

 だがどうも思ってもみない方向に取られたようだ。

「失敗したかな?」

 松戸も同じことを思っていたようだ。
 委員長と守谷がこっちに帰ってくる。

「お疲れ~」

「お疲れ様」

「ん、ありがとう」

「うーん、もっと恰好良く戦いたかったです」

 反省が必要な人間1名発見。

 不意に松戸が視線を動かした。

「理由は後、移動するね」

 風景が変わる。
 いつものエアストリームの中だ。

「ん、ユーノどうしたの」

「新聞部に囲まれそうだったから逃げたの」

「えー、ヒーローインタビュー受けたかったです」

「今の段階でうちの色々が知られても困るでしょ。まだ3試合残っているんだし、次からは洒落にならない強豪ぞろいになるよ」

「ところで松戸、次の試合の勝者と二回戦だろ。見に行かなくていいのか」

 松戸は肩をすくめる。

「みらいがいれば現場に行かなくてもいいでしょ」

「うーん、しょうがないから中継するです」

 守谷のその台詞とともに、脳内に映像と音声が中継される。
 なかなか便利な能力だ。

「まもなく始まります第二試合。第一試合はいきなり一年生の新研究会が圧勝と言う番狂わせがあったのですが、六町さんこの試合はどう見ます」

「暗黒魔術研究会対異境冒険者連合ですが、これは残念ながら暗黒魔術研究会の圧勝ですね。異境冒険者連合の勢力では田中選手の暗黒召喚魔法を破れないでしょう」

 ちゃんと放送研究会のナレーションまで入ってくる。
 至れり尽くせりだ。
 試合開始を告げる電子音も勿論聞こえる。

「さて試合開始です。試合開始とともに田中選手が邪神の使いを召喚。既に十数体の邪神の使いが召喚されています」

 視界の中心に黒いダブダブした服を着た小太りの生徒
 その周辺に、半魚人っぽい身長2メートル位の人型が何体もうごめいている。

「あれは何です。気持ち悪いです」

「レッサー・オールド・ワン、南太平洋海中に封じられている邪神に仕える生物よ。人間より強靭で術も使えるからそれなりに強敵ね、動きは遅いけれど」

 異境冒険者連合のうち背の高い男子生徒が倒れる。

「さあ、邪神のしもべが睡眠魔法と麻痺魔法を唱えつつ迫ります。それに耐えつつ邪神の使いを倒して田中選手に手が届くでしょうか」

 異境冒険者連合の残り2名もその場で倒れる。
 麻痺か睡眠魔法に抗し得なかった様だ。

 試合終了の電子音が鳴る。

「不気味な戦いだった」

 綾瀬の感想が、ある意味全てを物語っている。

「松戸、あれって次の相手だけどどう戦うんだ」

「レッサー・オールド・ワンまでなら別に力押しでも何とかなるよ。ただそれ以上の存在を召喚出来るとすれば、ちょっと面倒ね」

 松戸は少し考え込む。

「委員長、あの先輩のデータってあるか」

 委員長は頷く。

「ん、昨年の大会の決勝かな。あの時はまだお散歩クラブだけれど、お兄達と戦った時、観客や審判の先生方を巻き込む事故を起こしたの。私はたまたま別用で近くにいなかったんだけれどね。
 お兄は別として、観客も審判の先生も放送中継も皆気絶したり発狂したりして大変だったみたいよ。神立先輩すら青い顔して吐いていたらしいし。みんな馬橋先生の治療で回復したけれど。
 勝負の結果は協議の結果、色々巻き込み過ぎという事でお散歩クラブの判定負け。
 通称で産地直送事案って呼ばれているらしいけれどね。何が産地直送なのか誰も教えてくれないから、それ以上は知らないな」

「ちょっと、それって典型的な邪神遭遇事案じゃないの!」

 松戸が委員長の言葉に反応した。

「ん、そうなの?」

 松戸は頷く。

「あるタイプの邪神はね、遭遇するだけで在り方の違いと理解不能さに精神的ショックを受けて、気絶したり気が狂ったりするの。健全さsanityが失われるからSAN値直葬なんて言い方もするんだけどね。特に天眼通を使える秀美や自動的に敵を分析してしまうみらいは、間違いなく深刻な影響を受けるわ」

「召喚される寸前に異空間に逃げても駄目か」

 松戸は首を横に振る。

「出現するだけで近隣の空間に影響を及ぼすしね。どの座標軸でも5メートル位じゃあまり逃げる意味はないと思う。勿論対処方法は無い訳でもないけれど、使えそうなアイテムは一つしかあてがないしね。とすると、次の試合は私と美久の2人で戦うのが無難かな」

「ん、何で?」

「私は邪神を含む神の扱い等は慣れているし、美久は体質上邪神の影響を他の人より受けにくいしね。それに天眼通持ちや管制能力持ちだと、万が一本当に邪神を近くに召喚された場合の精神的ダメージが大きすぎるわ」

 松戸、例によって詳しすぎる。

「勝算はあるんだな」

「当然よ」

 何かこういう対象だと、毎回松戸に任せてしまって申し訳ない。
 一番知識があるので仕方ないのだけれども。

「ん、じゃあ次はそれでお願い。あと第3試合のTRICKSTERSと明日の第7試合の小吉クラブ、第8試合のお散歩クラブの試合は見ておきたいな」

 委員長がそう言った時だ。
 エアストリームのドアがノックされた。

「入ってます」

 そう言って委員長チョップを喰らうまでお約束だ。

「学校新聞です」

 松戸が眉をしかめる。

「もう日経と読売とヘラルド取っているんで大丈夫です!」

「え、あのー、取材……」

 松戸は返答とともに、有無をいわせずエアストリームを異空間へ。
 数十秒後、窓の外に毎度お馴染み南の島の風景が現れた。
 日本国外まで逃げてしまった訳だ。

「まさか記者をくっつけて来ていないよな」

「大丈夫。ちゃんと学校に置いてきたわよ」

 ちょっとだけ安心。

「ん、ところでみらい、試合の様子中継できる?」

「場所がわかっているから大丈夫です」

 みらいの中継能力はかなり強力なようだ。
 それにしても例の南の島で観戦する羽目になるとはな。

「まさか新聞記者、ここを追跡してこないよな」

「妨害術式は一応かけてあるわ。みらいや美久のような能力が無ければ追跡できないかな。三郷先輩とか高浜先輩が本気になれば危ないかもしれないけれど、まあ大丈夫でしょ」

 明日の新聞号外にどう書かれているかが大変怖いが、まあやってしまった事はしょうがない。

「ん、でもうちの学校新聞結構しつこいよ。普通に寮におしかけてくるかも」

「ここに泊まれば大丈夫でしょ。着替え位なら自分で持って来れるし」

 確かに全員異空間移動が出来るから問題は無いけれど。

「わーい合宿です魚釣るです」

 おいみらい、そんな場合か。

「ん、その前に第3試合かな」

 委員長の方が正しい。

「みらい、第3試合終わったら食事の用意するから中継お願い」

「うー、仕方ないのです」

 脳内に映像が映し出される。
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