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第7章 勝ち抜け、武闘大会!

44 まずは軽く小手調べ

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 この大会は3日間で行われる。
 1日目には第一回戦を第6試合まで。
 2日目は第一回戦の残り2試合と第二回戦。
 3日目が第三回戦と決勝、三位決定戦だ。

 試合会場は学校の校庭。
 見物客は思ったより多い。中学部の生徒を含めて100人以上いる。
 そして試合会場内にいるのは委員長と守谷。

「折角だからみらいの変貌ぶりをアピールしましょうよ。だから秀美はみらいが危ないと判断した時以外は極力手を出さないで自分も防衛のみに徹して」

 そんな松戸の意見が通った結果である。
 相手の2年生の男子3人がとってもやりにくそうだが、まあ仕方ない。

「こちらは第1会場です。こちらから他会場の実況を交えながら放送致します。本日も放送研究会の3年六町と」

「同じく青井でお送りします。さて六町さん」

「はい」

「混合術式研究会はこの試合、2名だけで戦うつもりのようですね」

「どうもそのようです。しかも片方はあの指揮所のみらいちゃんです」

「これはどういう意図でしょうか」

「わかりませんね。普通に考えれば守谷選手は出来るだけ戦闘を避けて管制に集中。他の選手で守谷選手を護衛しながら戦闘するのが定石セオリーです。でもそれなら1人でも人数が多い方が有利な筈。それに柏選手の武器、今回は特殊警棒ですね。中学部大会では薙刀を使っていた筈です。果たしてこれは何を意味するのでしょうか」

「さて、試合が始まるようです」

 主審の中学部佐和先生の号令で、2人と3人が互いに礼をした。
 肉体言語研究会は3人とも男子生徒。
 1人は前の侵攻の時指揮所で見たことがある。

 いずれもいかにも強そうな面々だ。
 見た目なら。

 試合開始の甲高い電子音が鳴る。
 委員長が軽い動きで背後に下がった。

 そして守谷が短剣を両手で構えて。
「さあ、行くですよ」
 その言葉とともに強烈な速度で移動を開始。

 守谷は異空間を使い姿を瞬かせながら、一気に敵3人の背後に走り去る。
 その瞬間に3人のダメージ判定が反応。
 守谷がすり抜けざまに一撃ずつ入れたのだ。

「おおっといきなり守谷選手の先制攻撃。あのみらいちゃんがいきなり2年生の猛者3人に一撃ずつ入れた」

「明らかに異空間移動を使った攻撃ですね。肉体言語研究会側に油断もあったのでしょうが守谷選手も本気ではなかったと思われます。本気で倒しにいくなら3人に1撃ずつではなく1人に3撃入れて倒した方が効果的です」

 明らかに敵3人の動きが変わる。
 1人は委員長めがけて走り出す。
 そして太刀を構えた1人と打刀を構えた1人が守谷を狙う。

「甘いのです!」

 守谷はその言葉と同時に動き出した。
 一気に横に走って肉体言語研究会の2人より更に右へ。
 2人の男は向きを変えて守谷に対して2人で対峙する態勢を保とうとする。
 しかし追いつけない。

 今の守谷は異空間移動を最短最速移動だけではなく、時間干渉にも使っている。
 時の流れと逆方向に僅かずつではあるが移動をかけ、結果として通常の数倍の速度で動いているのだ。
 肉体の鍛錬程度では追いつける筈がない。

 右側の男が刀を落とされ胴を払われる。
 単に刀を打ち落としてそのまま胴を横に払っただけ。
 しかし速度の暴力で凄まじい威力になっている。

 一撃でダメージ判定が規定値を超え、1名が戦列外。
 だがその隙にもう1人が間合いに入って、守谷めがけて太刀を振り下ろす。

 いい攻撃だ。相手が普通の人間ならば。

 守谷は払った短剣を上げて振り下ろした太刀を後方へ払い高速で前方へと逃げる。
 追撃をかけようとした男が太刀を振りかぶりなおした。

 守谷はその隙に圧倒的な速度差で反撃し逆胴を決めてそのまま右前方へ抜ける。
 今のダメージ判定も規定値越えだ。

 一方、残った一人は委員長を相手に連続技で攻めているが有効打が全く出ない。
 委員長の動きは守谷と違い速くはない。むしろゆっくりとした動きに見える。
 しかし時に避けて時に警棒で払って、結果として一撃も受けていない。

 そんな委員長に向かって、2人を倒し終えた守谷が声を掛けた。

「秀美、もういいですよ」

 その言葉と同時に委員長の動く速度が一気に上がった。
 委員長は後退しつつ特殊警棒の先を手元に戻し特殊警棒を縮める。

「ん、今回の私の役目はここまでかな」

 そう言うと同時に、委員長は姿を消した。
 その一瞬後、守谷の横に委員長が出現。

「お、柏選手も異空間を使いました」

「これは今までのデータにありませんね。中学部の大会で異空間使いの石下さん相手でも使いませんでした」

「とすると守谷選手と同様、最近使えるようになったという事でしょうか。異空間移動は術としてはかなりの高難易度の筈なのですが」

「もしそうなら、混合術式研究会そのものにその秘密があるのかもしれませんね。さて、ここからは守谷選手が相手をするようです」

 守谷が前に出る。

「岩間先輩は手ごわいわよ、充分注意して」

「了解です」

 すれ違いざまに小さな声でそう交わしたのが俺には聞こえた。

 最後に残った男こと岩間先輩は正眼に刀を構えている。
 先程まで激しい連続攻撃を繰り出していたのが嘘のように静かな構えだ。

 守谷は短剣を脇下に下げて、軽く膝を曲げる。
 そしてバネで弾かれたように一気に加速した。

 そのまま全てを圧する速度で胴を突こうとする。
 だが岩間先輩は刀を持ち替え、柄の部分で守谷の剣先を軽く外へ弾いた。

 そのまま軽く後退して剣を無造作に振り下ろす。
 その先はがら空きの守谷の頭。
 当たったかと思った瞬間に守谷の姿が消えた。

「うー危なかったのです強いのです今までと違うのです」

 委員長の横に出現した守谷がそうぼやく。

「ん、岩間先輩、接近戦の腕は学内有数よ。実戦経験も豊富だし」

「わかったのです。仕方ないから本来の戦い方に切り替えるのです。恰好良くないけど仕方無いのです」

 そう言うと、再び守谷の姿が消える。

 不意に岩間先輩が左前方に飛びのく。下げた剣に打突音。
 更に岩間先輩は横に飛びのき刀を立てる。打突音。

「凄い。見えないのに避けてる」

「異空間認識が出来なくても気配を察して、自分の隙を認識していれば反応できる。見事だけどどこまで続くかな」

 俺の横で綾瀬と松戸が、傍観者よろしくそんな感想を言っている。

 守谷は軸と位相が異なる異空間に体を潜め、短剣の先だけで攻撃をしている。
 体が異空間にあっても守谷の能力で岩間先輩の挙動は全て把握されている。
 その上で岩間先輩の一番隙がある部分を短剣の先で攻撃しているのだ。

 絶対に自分が攻撃を受けず体勢を崩すこともない。
 完全無欠でとっても卑怯な攻撃だ。

 岩間先輩はよく反応している。
 だが物事には限度がある。

 連続攻撃十数回目に守谷の剣が岩間先輩の胴を薙ぐ。
 刀を持つ手を落として岩間先輩はそれを受けたが刀の手元近くで受けたので次への対応が一瞬遅れる。

 その隙に守谷の剣が岩間先輩の右肩に振り下ろされた。
 ダメージ判定が規定値を超えた。
 試合終了の甲高い電子音が鳴る。

 終わってみれば2対0。試合時間4分32秒。
 結果的には圧勝だ。
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