ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第7章 勝ち抜け、武闘大会!

43 解説担当の事前予想

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 大会一週間前に有った中間テストも何とか乗り切り、いよいよ大会前日。
 対戦カードを決めるくじ引きだ。

 体育館に設けられた特設会場の舞台では、二年生十数人に交じって緊張気味の守谷の姿がある。

「私がくじを引きたいです!」

 そんな意見に誰も反対しなかったからだ。

 なお今回出場する研究会は16団体。
 うち以外は全部2年生主体だ。
 1年生は委員長や松戸の戦闘力を身をもって知っているせいもある。

 授業では能力無し異空間無しの格闘戦練習があるが、とにかく強い委員長とどんな攻撃をしても絶対当たらない松戸の2人は別格扱いだ。
 別格過ぎて模擬戦でも俺と恐いもの知らずかつたくんくらいしか絡むことが無い。

 なお委員長対松戸で戦うと授業内では有効打が出ないまま時間切れになる。
 ちなみに俺は『普通に強い』程度。
 異空間無しの強さなら、虎男勝田君とほぼ同じ程度だ。

「さて、ついに始まりました高校部研究会対抗武芸格闘大会。実況は放送研究会の3年、六町佳奈美と」

「同じく青井香夏でお送りします」

 どうやら解説形式で放送が流れるらしい。

 なお俺達は体育館内でパイプ椅子に座って舞台の方を見ている。
 あくまで見物人でセレモニーとは関係無い。
 セレモニーとしてのくじ引きは舞台の上で粛々と進行中だ。
 暇なので放送に耳を傾ける。

「それにしても意外ですね、六町さん」

「何でしょうか」

「混合術式研究会の守谷選手、つまり指揮所のみらいちゃんです。あの人は私達と同じ解説席側にいる人だと思っていたのですが」

「噂ではどうも最近、色々な能力を開花させたようですね。念話で鼻歌を歌いながら上空をお散歩していたり異空間から大量の買い物袋を提げて寮に帰ったりする姿が目撃されていたりいます」

 おい、みらい。
 お前そんな事をしているのか。
 思わず俺は心の中で突っ込みを入れる。

「成程、もし最低限の自衛能力があるならあの管制指揮能力だけでもなかなかの脅威ですね。ところで六町さんは、今回の大会はどう予想していますか」

「本命はお散歩クラブですね。対抗馬としてはTRICKSTERSや暗黒魔術研究会がからむ展開になるかと」

「六町さんは確か去年優勝したTRICKSTERSにも所属していますが、あえてお散歩クラブが本命とした理由は何でしょうか」

「選手層のバランスの良さと内原選手の存在ですね。内原選手自身は万能型、異空間移動能力も近接攻撃能力も強力ですが注目すべきは小隊級指揮管制能力です。攻撃が届かない異世界軸の超高空から試合中の全選手を監視して味方に指示伝令できる。それに流山選手の異空間を使用した暗殺術。これを避けるのは同等以上の異空間技能を持っていないと厳しいですね」

「あとの2チームはどのような感じでしょうか」

「今年のTRICKSTERSは昨年と違い、完全な格闘戦優位型ですね。近接格闘戦に限れば校内最強の名も高い友部選手をはじめ、格闘戦や打撃戦に強い選手が揃っています。半面指揮管制系の選手がおらず術式や異空間能力にも若干の不安が残っています。もっともこれらの能力はこの大会で初めて他人に披露するという場合も多いので油断は禁物ですが。
 暗黒魔術研究会は、登録が田中選手のみという完全なワンマンチームです。基本的には邪神の手下を召喚して数で攻撃を仕掛けますが、あえて田中選手1名での登録という事は、おそらく危険な召喚も使用するつもりでしょう」

「あの怪物を大量に召喚してくる技ですね。でもルール上あんなの有りでいいのでしょうか」

「学校側の見解によると問題は無いそうです」

 うんうん、この辺の予想は委員長とほぼ同じだ。

「さて抽選会の開始です。各選手が昨年の戦績順にくじを引いていきます」

 舞台上の生徒が整列。
 くじの入った箱を持った生徒会会長がゆっくりと歩き始めた。
 守谷の順番は一番最後だ。

 何せうちは出来たばかりの研究会。
 大会での戦績が無いからしょうがない。

 守谷がくじの入った箱を片手を思い切り突っ込んで必死に漁っている。
 くじの最後の1枚がなかなか取れないらしい。
 首が箱に付くくらいに腕を入れて、やっと最後の1枚を取り出した。

 全員がくじを引いたのを確認してか、全員で番号が書かれたくじの紙を開いて見せる。
 守谷の引いたくじの番号は、2番。
 いきなり第一試合だ。
 相手は、肉体言語研究会とある。

「さてトーナメント表が発表になりました。どう思われますか、六町さん」

「全体的に強豪がバラけた結果になりましたね……」

 放送を聞き流しながら委員長に尋ねる。

「相手の肉体言語研究会ってどんな研究会だ」

「ん、名前の通りだよ。武術や体術等も駆使する近接格闘戦の研究会。ただ術式や能力系の技はあまり使わない。無論使うところを見せていない可能性もあるけれど」

 委員長の感じからすると、あまり心配は必要無さそうだ。

 ただ順当に行くと2回戦で暗黒魔術研究会、3回戦でTRICKSTERS。
 結構しんどいかもしれない。

 しかし委員長が真っ先にあげた内原先輩率いるお散歩クラブとは別ブロック。
 決勝までは当たらない。

 まあ、どの相手だろうと楽という事は無いんだろうな。
 そんな事を思いながら俺は舞台の方を見る。

 放送は相変わらず続いている。

「さてトーナメント表も発表になった訳ですが、ここで六町さんの注目チームを」

「私の注目しているのは2チームですね。まずは小吉クラブ」

「これはなかなか意外な名前が出てきましたね。解説の方をお願いします」

「小吉クラブは基本的には戦闘力の無い小妖怪中心の互助会的なサークルです。今回エントリーリストに名前がある5人の中にも失礼ですがそれほど強い選手はおりません。ただしその5人の中にクラブ員ではない1名が入っています。指揮所の2枚看板の1人、三郷選手です」

 お、三郷先輩の話題になっているぞ。
 注目しているのは狐先輩と狸先輩だけじゃないという訳か。

「三郷選手はご存じの方も多いと思いますが戦闘能力はありません。今回も補助歩行具を使用しての参加になります。また補助腕も使用していますが、それでも格闘戦等ではほぼ戦力にならないと思われます」

 うんうん、みらいが言う通りだな。

「それでは何故六町さんが注目されているか、御説明をお願いします」

「はい。一般的にはこの大会程度の状況ですと、三郷選手のような大隊指揮能力と小隊指揮能力の差は無いと言われています。ただし我々は三郷選手の本当の指揮能力を知りません。大隊規模でもあれだけ的確な現状把握と指揮が可能な三郷選手。それが小隊規模以下の限定領域戦闘で本気を出すとどれくらいの事が出来るのか。
 また三郷選手の指揮能力以外の能力も明らかではありません。それなりの支援能力があるようですが、今まで見せた事はありません。その三郷選手が戦力的には明らかに劣る小吉クラブと組んで出てきた。それが何を意味するのか。それぞれ非常に興味があります」

「なるほど、小吉クラブの評価は三郷選手次第という事ですね」

 いろいろ言ってはいるけれど、つまりは詳細不明という事のようだ。

「それでは注目しているもうひとつのチームはどこでしょうか」

「これは全てのチームが気にしていると思います。今回唯一の一年生チーム、混合術式研究会です」

 えっ!
 うちの名前が出てきてしまった。

「どんなチームか知らない方のために解説お願いします」

「混合術式研究会は学校移転と同時に新設された1年生5人だけの研究会です。
 主力と思われるのは柏選手。昨年TRICKSTERSを優勝に導いた柿岡選手と同じ格闘・術式どちらにも秀でたバランス型の選手です。特化型の多い今の2年生には少ないタイプで、この選手が中軸に入ればどんな戦闘にも対応できるのではないでしょうか。
 あとデータがあるのは守谷選手。皆さんお馴染み指揮所の2枚看板の1人、みらいちゃんです。この選手に自衛能力も含め戦闘能力があるのかは、皆様大変疑問だとは思います。しかし目撃情報等からすると飛行能力と異空間使用能力があるのは確実です。また三郷選手に準ずる大隊指揮能力はそれだけで驚異に値します。
 他の3名、綾瀬選手、佐貫選手、松戸選手は転入生でデータはありません。ただし学校引っ越し時に輸送協力部隊で活躍しましたので異空間能力持ちなのは確実です。
 またこの研究会の出場は昨年のお散歩クラブの際と同様、教員会議による強制との情報もあります。もしそれならこの1年生5名のチームが今回の台風の目になるかもしれません」

「昨年のお散歩クラブと同様にですね。六町さん、ありがとうございました」

 俺は小声で委員長に話しかける。

「おいおいまずくないか。これじゃ思い切りマークされかねない」

「ん、でもうち転入生主体だからマークしようが無いよ」

「でも委員長と守谷はデータあるだろ」

「秀美は完全なオールラウンダーだから付け焼刃の対策は取れないでしょうし、今のみらいなら既に予想の範囲超えているでしょ」

 松戸の台詞は説得力がある。
 確かにそうだ。
 委員長は元々術式格闘技双方を得意としている。
 更に今では飛行や異空間移動も使えて弱点が全くない。

 そして守谷は、増えた能力と追加した戦闘知識とほぼ毎日の特訓の成果で、とんでもない事になっている。
 多分戦闘能力のチート加減が一番凶悪なのが守谷だ。
 底力をまるで見せていない松戸の隠された能力を抜きにしてだけれど。
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