ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第6章 みんなで強化しよう!

42 異空間戦闘、模擬訓練

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 それにしても異常な戦い方だ、今のは。
 今の模擬戦の内容を理解できたのは、守谷が中継してくれたからだ。

 普通の場合、異空間を使った戦いはどう感じるのだろう。
 松戸に聞いてみる。

「そうね。普通は軸の違う異空間にいる敵を完全に把握するのは無理だわ。ある程度絶対距離が近ければ、気配位はわかるけれど」

 つまり基本的にはわからない、という事か。

「それじゃあ普通はどう戦うんだ」

「自分のいる場所を中心に軸を色々変えてみて、敵のいそうな空間を把握するの。みらいちゃんみたいな指揮管制能力付きがいるか、多元軸まとめて視る視界を持っていれば別だけどね」

「そうか、だから守谷を出場させる必要があるんだな」

 松戸は頷く。

「まあそれだけじゃないんだけれどね、みらいの力は。佐貫にもあの能力は取得できなかったみたいだし」

 これで出場枠の1人は、戦闘力的に最弱な守谷の指定席になった訳だ。

「それに内原先輩や田中先輩は異空間のかなりの軸を、同時に把握できて見通す能力があるわ。だからああやって異空間の色々な軸を使った戦闘訓練はやっぱり必要だと思う。次は佐貫、やってみる?」

 俺は頷く。

「そうだな。戦闘時の異空間の使い方にも慣れないとな」

「ん、大丈夫。ユーノ連戦中でしょ」

 そうだった。
 少なくとも守谷をオーバーヒートさせ、綾瀬を全身汗まみれにして、更に委員長と一戦交えているんだった。
 それでも松戸は、相変わらず涼しげな感じである。

「大丈夫よ。私の戦い方は体力がない時に覚えたやり方だから」

 俺は砂浜をちょっと歩いて、松戸と5m位の感覚で向き合った。
 取り合えず左の剣を前向き、右の剣を軽く振りかぶった姿勢で構える。

 まずは松戸の動きを観察しながら。
 基本はあくまで防御だ。

 ただ相手は太刀1本で、こっちは短剣2振。
 だからチャンスを狙えば、案外何とかなるかもしれない。

「まずは私からいくわよ」

 松戸はそう言って、下段に構えた剣を一気に跳ね上げた。
 あらゆる空間を使った最短コースで俺の首元を狙う。
 速い。

 何とか後退しつつ異空間に逃げ込み、松戸の隙を伺う。
 松戸は跳ね上げた太刀の勢いそのままに、俺の方を薙ぎ払った。

 とっさに俺はその太刀を、右の剣で軽く跳ね上げる。
 松戸の太刀は急には動きを変えられない。

 この機会に一気に松戸に接近。
 右の剣で胴を突きに行く。
 だが松戸は後退しつつ角度をつけて別の異空間に逃げ込み、太刀の向きを変えた。

 今度は太刀が、真上から降ってくる。
 速い!回避だけでは間に合わない!

 右の剣を斜めに出して太刀筋を流しつつ、俺は体をひねるように別の軸に逃れる。
 牽制で左の剣で松戸のいた場所を薙ぎ払う。
 松戸はそれを避けて後退して間合いを取った。

「うーん。初めてなのに隙がないね」

 おいおいいきなり殺す気よ、なんて思う。
 今のはかなりやばかった。俺の現在の最速の動きだったのだが、それでも間一髪。

 回避できたのは委員長の知識にあった、二天一流の知識が無意識に発動した結果。
 後は両手用の短剣を片手で振り回せる吸血鬼の腕力と、守谷による敵把握能力。

 それに短剣、両手用の重さがなければ太刀筋を流すのは無理だった。
 色々な選択がギリギリで上手く行った結果だ。
 偶然ではないが、あくまで紙一重。

「とすると、やっぱり最優先で鍛えなければならないのは……」

 皆の視線が、海辺でへたっている少女に注がれる。

「え……私もともと非戦闘要員です」

 本人、かなり焦った様子だ。

「取り合えず、異空間を使った逃げ方だけでも練習しようか。敵の位置は完全に把握できているんだから、敵と軸をずらして後退する。それが出来るようになれば大分楽よ。攻撃は他の4人で何とかするから」

 松戸が言い聞かせるように言う。
 結果、守谷は松戸に捕まりいやいや練習開始。
 それを横目で見ながら、俺は委員長に尋ねる。

「そう言えば綾瀬はどうなんだ。実力としては」

 委員長は頷いた。

「ん、美久は充分強いよ。ユーノみたいなカウンターと一撃離脱中心のタイプとは相性あんまりよくない。でも逆に私みたいな連続攻撃型には天敵かな。やってみたら」

 綾瀬が頷いて見せたので、やってみることにした。
 まさか松戸並みに恐い思いをする事は無いだろう。そう思いつつ。

 まずは距離5mから。

「いい」

 綾瀬が頷いたので軽く剣を振って、そして全力でダッシュ。
 使える全ての軸を使って最短コースで綾瀬に切りかかる。

 しかし寸前で綾瀬の姿が消えた。
 異空間に後退したというのではなく、全ての軸で綾瀬の動きが消えた。

 見えない。
 とっさの判断で軸と角度を変えて、異空間に逃げ込む。
 誰もいなかったはずの空間から俺がいた場所に短剣が一振りかざされ、消えた。

 成程。
 俺は綾瀬の特異性に気づいた。

 他の人間の異空間を使った移動はあくまで『移動』。
 しかし綾瀬のは根本的には『移動』ではない。

 普通の異空間を使った瞬間移動も、離れた場所にいきなり移動するように見える。
 でも実際は存在が消えて別の場所に現れるわけではない。
 様々な異空間を使って移動しているだけ。
 存在そのものには連続性がある。

 綾瀬の場合は違う。
 存在の連続性がない。
 本当に消えて、現れるだけ。
 これでは居場所を認識するのが困難だ。

 ならば、だ。
 俺は全方位に向って構えるような姿勢を取る。
 しかしこの姿勢、左後ろ斜めに死角がある。
 つまり誘い受けの構えだ。

 一瞬後、予想通りその左斜め後ろから迫ってきた短剣。
 俺は右方向の異空間へ体をずらすことでそれを回避し、左短剣で軽く俺の後ろの空間を薙ぐ。
 綾瀬がもう片方の短剣で、俺の短剣を受け止めた。

「成程、守谷の能力を使ってもこれは避けにくい攻撃だな」

 委員長が言った意味がよくわかった。

「でも佐貫、さすが」

「いや、今回のはただの誘い受け。松戸の知識にあったのを使っただけだ。普通はよけきれないな、あれは」

 存在の連続性が無いから位置が予測不能。
 それでいきなり攻撃が襲って来るなんて恐ろしすぎる。

 俺達は守谷の能力があるから、異空間でも敵の所在を捉え続けていられる。
 しかし守谷の能力なしで異空間で戦えば、感覚的にはこんなものかもしれない。

 そうすると鍵になるのは、やっぱり守谷。
 でもどういう種族や遺伝情報があれば、こんな指揮管制特化なんてとんでもない能力が出るんだろう。謎だ。
 そう思ったので委員長に聞いてみる。

「ん、サトリとか妖狐とか、色々な妖怪の能力が混ざってああなっているみたいだよ。三郷先輩もほぼ同じ能力。でも特異すぎるから他には見た事が無いな。小隊程度の指揮能力なら、天使系や堕天使系が持っていたりするけれどね」

 つまり特異で、おそらく他には例がないと。
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