ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第6章 みんなで強化しよう!

40 昼食直前の侵入者

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 朝9時30分の目覚ましで、綾瀬は起きてくれた。
 そして一度綾瀬は部屋に戻り、お互い歯磨きとかして午前10時ちょうどに再合流。

 さて、靴を履いて外に出て綾瀬に尋ねる。

「行く場所や順番は俺が決めていいか」

「佐貫に任せる。楽しみ」

 まずは八王子の街中の路地に移動。
 駐車場の陰になる部分に出現し、ちょっと歩くと真っ赤な壁があるパン屋に辿り着く。
 開店後、まだそれほど時間が経っていない筈なのに、もう結構客がいた。

「お勧めは」

「ブランとフリュイ。あとは任せた」

「承知!」

 トングと籠を持った綾瀬が、探検の旅に出た。
 俺は俺はイートインに近い方の、人が少なめの場所で待機する。
 まもなく一通り漁り終わった綾瀬が、レジに並んだので合流。

「次の店の会計は払うから、ここはお願い」

 本当は次の店の方が、間違いなく会計が高くなる。
 でも面倒なので綾瀬にそう告げて、綾瀬が頷いたのを確認して店の外へ出て待つ。

 わりとすんなり会計が済んだようで、すぐに綾瀬が出てきた。

「どうだった」

 綾瀬は大きく頷く。
 その手にはわんさかパンが詰まった袋。

「まだあと1軒は回っても大丈夫だよな」

 もう一回大きく頷くのを確認して、俺は時計を見る。
 現在の時間は10時35分。

「次の店の開店が11時だからまだ20分以上あるけど、寮に一回帰るか?」

 綾瀬は首を横に振った。

「ちょっと行きたい処、ある」

「いいよ」

 風景が変わった。
 前は砂浜の海。堤防から扇状に広がった、砂浜に降りる階段の上にいる。
 左側にキャンプファイアー用の場所や、炊事場のような建物が見える。

 音が聞こえないから、普通の世界とちょっとずれた空間なんだろう。
 でも波が打ち寄せているのは見える。

「ここ、何処……」

 そう聞こうとして、そして俺は声を引っ込めた。
 綾瀬の様子がおかしい。
 妙に真剣に周りを見まわしている。
 何かを確認するかのように。

 そして、ふっと息をついた。

「やっぱり、もう大丈夫」

 何だろう。
 綾瀬はもう一度海を睨みつけるように見て、そして小さく頷いた。

「ここは、私が今の私になったきっかけの場所」

 綾瀬は呟くような小さな声で、語りだす。

「小学校高学年の時、ここで体験学習で地引網をやった。網の中に、正体不明な魚のひれみたいなものが入っていた。地引網担当の漁師はそれを捨てたけど、男子の一人がそれを拾って、調理する魚の中に入れていた。そこの調理場で児童で分担した料理の中に、そのひれが紛れていた。それを口にして私は今の体質になった」

 そこで一息ついて、綾瀬は続ける。

「私はこんな体質になったのを認めたくなかった。だからずっとこの場所が嫌いだった。嫌いというより忌避していた。海という場所すら忌避していた。でもこの前合宿で海に行った時、今まで海を忌避していた筈なのに不思議なほど嫌な感じが無かった。むしろ楽しかった。だからもう一度ここへ来て確かめたかった。もうここへ来ても平気になったのか確認してみたかった。でも一人で来るのはやっぱり怖かった。でも」

 綾瀬は俺の方を一回見て、また海の方へ視線をやる。

「佐貫が一緒で時間が余ったから、ここへ来て確認したくなった。そしてわかった。あれ程忌避していた場所なのに、今はそれを感じない。きっと私は、今の私であることを、やっと受け入れることが出来たんだと思う」

 彼女は小さく頷いて、そして俺の方を見た。

「ありがとう。もう大丈夫。そろそろ11時だ。パン屋が待ってる」

 俺は頷いて、次の場所へと移動した。
 
 別格クラスに美味いけれど、高価たかいことでも有名な世田谷公園近くの半地下のパン屋。
 ここでもハード系を中心にパンを買い込み、俺と綾瀬は綾瀬の部屋に帰還する。

 本当は他にもパン屋をピックアップしていたのだ。
 でも既に、2人でも土日では食べきれない位のパンを買い込んでしまった。

 なので本日のお買い物は終了。
 後は少しおかずも作って、2人でパンの食べ比べをしようと思っていたのだが。

 買い込んだパンを食卓に並べて、さて料理をしようかと綾瀬が台所に向かいかけた瞬間、綾瀬の部屋のドアチャイムが鳴る。
 とっさに俺は玄関から見えない陰に隠れた。
 しかし。

「おはようございます」

「おはよー」

「おはよーです」

 玄関扉の外から、とても聞き覚えのある3人の声。

「美味しいパンがあると聞いてやって来たのです!」

 誰も鍵を開けた気配が無いのに、早くも上がり込んでくる。
 このタイミングでこいつらがここに来るのは、間違いなく偶然じゃない。

 多分綾瀬との買い物も、海へ行ったのも、全て監視してやがったのだろう。
 そしてその直接的な当事者は。

「第一容疑者は守谷で間違いないな」

「情報をくれたのはユーノです」

「私は美久に直接聞いただけよ」

 うん、面倒だから全員共犯だ。

 そして委員長が更なる真相を語る。

「ん、みらいの実況監視能力凄かった。移動しようと異空間だろうと、実況映像付きで小さな声まで完全に拾って中継できるんだよ」

「なかなかいい雰囲気だったのです。海でもう少し時間があれば、面白い映像になった可能性も高いのです」

 よし。状況は全て読めた!

「綾瀬、このストーカーと除き魔にパンも料理も必要ないぞ」

 有罪! 判決は喰うなの刑!

「ええっ、横暴なのです食事を要求するのです」

「それにこんなに大量のパン、2人では食べきれないでしょ」

「ん、私もそう思う。まあパン代も払うしさ。皆で食べよ!」

 向こう側、台所寄りで綾瀬が苦笑しているのが見える。
 綾瀬が許すなら仕方ないか。

 松戸が手伝いに台所に向かい、そしてしばらくして食事会が始まる。
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