ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第6章 みんなで強化しよう!

38 あちらこちらへお買い物

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 そしてまた、来る放課後。
 ただ今日はいつもと流れが違った。

 教室の時点で、松堂がこう宣言。

「今日は佐貫と美久は別行動ね」

 綾瀬は頷いた。
 例によって、俺以外には打ち合わせ済み事項らしい。

「ん、じゃあね佐貫」

「また今夜です」

 3人がエアストリームの方向へと消えていく。
 仕方ないので残った綾瀬に聞いた。

「今日の予定は」

「私と買物」

 多分例によって遠方へお買い物だろう。

「待ち合わせは」

「私は何時でも」

 綾瀬が持っていた教科書入りディパックが、買い物用エコバッグに変わっている。
 確かに部屋に、荷物を置くためだけに帰る必要は無いだろう。
 俺も綾瀬の真似をして部屋に授業用ショルダーバッグを置き、代わりに空のディパックを持ち出して腕を通した。

「こっちも準備OKだ」

「じゃあ行く」

 綾瀬がそう告げるとともに、風景が変化。
 下がきれいな芝生のいかにも街中の公園、って感じの場所へと到着だ。
 木や塀で陰になる部分に出たので目撃者はいない。

 ちなみにもちろん、日本国内ではないようだ。
 車が右側通行で、表示が全部英語だから。

「ここは」

「スーパー近くの公園」

 綾瀬はそう言ってとことこ歩き始めた。
 俺も一緒に並んで歩く。
 特徴的なオレンジ色の時計塔がある公園の入口を出て、交差点を対角線方向にわたり、歩道を歩いて行く。

「前に行った店と違う店?」

「同じ市内の同じチェーンだけど違う店。こっちの方が品揃えが好き」

 つまりアメリカはロサンゼルスの何処かという事のようだ。
 交差点から20m程歩くと、見覚えのある赤い楕円形の看板が目に入った。

 俺と綾瀬はそのスーパーの中へ入っていく。
 綾瀬は慣れた様子でカートを持ち出し、色々と選んでは入れ始めた。

「今日買う物は決まっているの?」

「今日の朝食と夕食。2人分と3人分」

 つまり俺と綾瀬分、委員長と松戸と守谷分だろう。
 カートを見ると入っているのは野菜類、チーズ、牛乳、ハム類等だ。

「メニューはサンドイッチ?」

「夕食はその予定」

 つまり朝食は別という事だ。
 しかし朝食のメインと思われる食材が見当たらない。
 学校期間中は、夕食より朝食の方ががっちり食べる事が多いのだが。

 その事を聞こうかちょっと迷ったが、聞かない事になる。
 綾瀬のことだ。それなりにプランはあるに違いない。

 レジで、俺のカードで支払い買った物をエコバッグに詰めてもらって、俺達はまた歩き始める。
 今度は公園に向かわず地下鉄への階段を下りる。

 踊り場のところでふっと風景が変わった。
 代わったここも階段の踊り場。
 俺は綾瀬の歩く通り、今度は階段を上がっていく。

「今度は」

「パン屋の近く」

 外に出ると、やっぱり違う場所だった。
 雰囲気は同じだけれど、こっちの方が郊外というか都会でない感じだ。

 俺達は広い通りを渡り、道路の反対側へ。
 ここは見覚えがある。

「このパン屋は前にも来たな」

「営業時間の関係。この時間も営業していて味がまあまあ」

 綾瀬はそう言って、真四角な建物の並木横の入口に入る。
 中は奥へ向かって細長い造りだ。
 右にカウンター、左にイートインスペースがある。

 カウンターには誰も並んでいなかった。
 綾瀬は店員に指差しで、パンの種類と数を指示する。
 店員があれこれ言うのに最小の言葉だけで受け答えをし、支払いだけは俺がして店を出る。

「慣れてるな」

 綾瀬は頷いた。

「この店はそこまで特別に美味しくはない。でもこの時間に確実に買えて、ここより美味しい店を知らない。だからよく買いに来る」

「なら今度の休みの日に、日本の美味しいパン屋でも行ってみるか。朝10時位開店だと思うけど」

 実は日本の美味しいパン店について、調べておいた。
 合宿時に綾瀬と松戸作『美味しいサンドイッチ』を食べたのがきっかけで、美味しいパンを食べてみたくなったからだ。
 
 調べた店のうちいくつかは、夏休み中に実際に行って食べてみた。
 ここはお勧めという店を、ある程度ピックアップ済みだ。

 八王子のあそことか、駒沢公園のあそことか。
 湯河原も捨てがたい。いっそ京都もいいな。

「何なら今日か明日」

 いきなり食いついてきた。
 まあいい。どうせ俺も暇だ。

「いいよ。俺も予定ないし」

 松戸が変な特訓の予定を入れなければ大丈夫だろう。
 多分。

「約束!」

 綾瀬はそう言って、そして次の瞬間、あたりの風景が変わった。
 俺は歩こうとした足を慌てて止める。

 今いる場所は部屋の玄関。
 レイアウト的に見覚えがある。

 ここは多分学校の、寮内の個室部分。
 俺の部屋では無いから、綾瀬の部屋だ。多分。

「入って」

 そう綾瀬が言うので、俺は靴を脱ぐ。
 前に入ったことのある松戸の部屋と家具は同じ。
 家具も飾りも最小限でシンプルだけど、テキスタイル類の柄が可愛い女の子仕様だ。
 綾瀬は冷蔵庫の中を見て何故か小さく頷き、そして俺の方を見る。

「頼みがある」

 何だろう。

「自分の部屋に戻ってお風呂入って、1時間位待って欲しい」

 1時間というのは多分、夕食を作る時間だろう。
 俺が部屋を片付けて、綾瀬が来ても大丈夫な状態にして、更に風呂に入っても何とかなる。

「夕食は期待していていい?」

 綾瀬は頷いた。
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