上 下
37 / 78
第6章 みんなで強化しよう!

37 いつも以上に気恥ずかしい相手

しおりを挟む
 さて、本日もこの時間が来てしまった。

「今日は秀美がお相手よ。優しくしてあげてね」

 松戸達はそう言い残すと、水着に着替えて釣り道具も抱えて、3人で出て行った。
 特訓と聞いていたけれど、遊びに行くようにしか見えないのは気のせいだろうか。

 まあそっち側を気にしてもしょうがない。
 問題は俺達残され組だ。
 具体的には、固定ベッドに取り残された俺と委員長。

 委員長とは、4人の間で一番付き合いが多い。
 しかも襲撃事件の時、お互い恥ずかしい台詞を色々言ってしまっている。

 なので2人と違い、俺から声をかけられない。
 何か妙に気恥ずかしい。
 やっぱり前の2人とは違う感じで。

「ん、ごめんね佐貫。何か変なことさせちゃって」

 委員長の方から声をかけてくれた。
 でも、それを言うなら……

「むしろ変なことしているのは、俺の方だろ。正直嫌じゃないか」

 委員長はちょっと考えるように間を置いて、そして口を開く。

「ん、本音を言うとね。佐貫が他の子とこういう事をしているのは、ちょっと嫌かな。彼女でもないのに嫉妬ってのも余計な事だけど」

 え、ちょっと待て。
 その言葉はどういう意味だ。

「私が佐貫に命をもらった時の事、憶えているよね」

 忘れる筈がない。最初に血を吸うきっかけになったあの事件。

「委員長が俺を助けてくれたんだろ、あの時は」

 その結果委員長は死にかけた。
 今でもその時感じた色々は忘れない。

「ん、それでもね。私は佐貫にだけは助かって欲しかったんだよ。私以上に」

 おい待て。この場でその台詞は不味い。
 委員長、ちょっと顔を赤くしている。
 きっと俺も同じだろう。
 委員長はそのまま、ちょっと窓の外に目をやってから口を開く。

「でもね、あの3人の気持ちもそれぞれ何となくわかるんだ。みんな佐貫に、それぞれの形で好意を持っている」

 おいおいちょっと待て。

「俺にそんなモエる要素なんて無いぞ」

 少なくとも俺の人生要素にモテは無かった。
 委員長は頷く。

「佐貫は意識していないだろうけれどね。その意識しないという事が、普通は出来ないんだよ。皆、この学校でも特殊過ぎる子ばかりだから」

 とんでもない話に、俺の思考が追いついていない。
 そして委員長は更に続ける。

「あの子達の気持ちも私と同じ。だからきっと同じ位わかるんだ。皆、特殊な人だけが通っているうちの学校の中でも更に特殊だから。情報収集能力と指揮能力というこの学校の中でも特殊な能力故に特別扱のみらい。普通の人間なのに、想いと意思だけで全部超えてこの学校に辿り着いたユーノ。普通の暮らしからある日突然、特殊な世界へと迷い込んでしまった美久。皆この学校の生徒にさえ馴染めずに、浮いてしまった存在。だからその辺を一切気にしない佐貫に引き寄せられたのは必然なんだよ、きっと。事件とかが起こらなかったとしてもね」

 ちょっと勘弁して下さい。
 頭と感情がいっぱいいっぱいだ。

「俺はそれほどの人間じゃ無いぞ」

 委員長は首を横に振る。
 そのせいでベッドが少し揺れた。

「ん、逆だよ。佐貫は色々能力が増えても、きっとそのまま。相手が私達であろうと、他の女の子だろうと、きっとそのまま。それでいいんだしそれがいいんだよ。だからこれからも、そんな感じで普通に接して欲しいな。でも……」

 委員長が微妙に何か、言い淀んだ。
 しかも顔色が更に赤くなっている。

「ん、でも、今だけはちょっと私を見てくれると嬉しいな」

 うわああっ。委員長が可愛い。
 いかんいかん、でも本当に可愛い。
 委員長が可愛いついでに、ちょっと前に思った事を思い出す。
 うん、このチャンスに挑戦だ。

「委員長、眼鏡取ってもらっていい」

 委員長は頷く。

「ん、佐貫にならいいよ。あと今だけは、秀美と呼んでくれると嬉しいな」

 委員長、いや秀美は眼鏡を外してベッド横に置く。

「やっぱり伊達眼鏡だったんだ」

 何となくそんな気はしていた。
 秀美は頷く。

「ん、私の能力のせいでね。私と目を合わせると思っていることを読み取られる、って噂が流れた時があったの。それでみんな目を合わせてくれなくなって。なら目をあわせなくても顔を見る、そんな基準みたいなのがあれば相手が楽かなって」

 そう言って秀美は俺の方を見る。

「佐貫は平気? そんな私で」

「何を今更。それに前も言ったよな。見られて傷つくより見えて傷つく方が苦しいだろうって」

「ん、だから佐貫とだと安心できる」

 秀美はそう言って、ちょっと体をくっつけてきた。

「さて、そろそろお願い。今の私を吸って感じて欲しいけれど、いいかな」

 間近に感じる秀美の体温。感じる女の子の香り。

 やばい、俺も秀美が欲しくてたまらない。
 委員長は目を閉じて、俺が吸いやすいように首を傾ける。
 眼鏡を取って美人度が上がった秀美にちょっとくらくらしながら、俺は首筋に口を近づける……

 ◇◇◇

 何となく意識が戻る。
 いつもと違う感覚。
 そうだ、ここはエアストリームのベッドだった。

 そして更にいつもと違う感触。
 何か温かい柔らかいものが、俺の腕にくっついている。

 まさか。
 薄目で見てみると間違いない。委員長だ。

 委員長が俺の左腕を抱き寄せて寝ている。
 左腕に感じる温かさと柔らかい感触。思い切り胸の感触だな、これは。

 しかも委員長、俺の左腕を左腕で掴んでうつ伏せで寝ていやがる。
 手を抜こうとしても動かない。
 下手に引っ張れば委員長ごと動きそうだ。
 これでは手を外せない。

 俺は悶々としつつも、必死に耐える。
 その我慢大会は体感時間で1時間。
 委員長が気づいて、慌てて腕を戻すまで続いたのだった……
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

処理中です...