ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第6章 みんなで強化しよう!

35 俺はそれが綺麗だと思った

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「ひとつ、聞いていいか」

 俺は松戸に尋ねる。
 疑問に感じる事があったから。

「松戸、お前いつからその事を知っている。そしてその事に対して動いている?」

 彼女は頷き、口を開く。

「そうね。知っているのは最初から。つまり佐貫が転入してきた時点から。動いているのは私が失敗した時。あの日自分の部屋のベッドで目覚めた時からよ。綾瀬と仲良くなったのも、みらいをこの仲間に引き入れたのも最初から計算ずく。どう、これで私が嫌いになれた?」

 いや、何か違和感がある。
 松戸が言っているのは事実だ。それは俺の能力でわかる。

 しかし俺は、松戸を嫌いにはなれない。
 それが何故かは、うまく言葉には出せないけれど。

「あともう1点。他の子と違って、佐貫は私と能力をやりとりする必要は無いの。私自身は能力なんて何も無い、他から力を借りているだけの、ただの出来損ないの人形だから。だから無視しようと、逆に他の子に対する分を私にぶつけても構わない。私の正体を見せてあげる。それできっと納得できると思うわ」

 松戸はそう言うと立ち上がり、おもむろにいつもの白衣を脱いだ。
 そして白衣だけでなく、中に着ていた水色のキャミソールと濃紺のやや丈が短く太いパンツ、更にその先まで脱ごうとする。

「おいおい何を」

「いいからその目でよく見て、私の本当の姿を」

 天眼通で見ろという事か、と気づく。
 そして松戸は全部脱いで、こっちを向いた。

「隠蔽も解いたしこれで見えるでしょ、この醜い姿こそ私の本質よ」

 全裸の松戸がこっちを見る。
 一見すると美しい彼女の姿。
 長身と豊かな胸、細身、長い脚という普通に見ても恵まれた彼女の姿。

 でも天眼通で見ると、それとは違う痛々しい姿が明らかになる。
 右目、右耳は機能していない。
 左手は使える筋肉がごっそり減っている。
 内臓は、かなりの部分が機能不全を起こしているか欠損していて、術式で何とか代用している状態。

 心臓すらまともに機能していない。単なる逆流防止機能付き血管程度の機能しか動いていない。
 血液循環は何らかの術式に頼っているようだ。

 何故か腸すら短い。
 長く美しい左脚も、何かの魔術的な影響かほとんどの部分が生物的に死んでいて、様々な術式で外見を保ち動かしている状態。

 でも何故だろう。
 そんな姿なのに、俺にはそれが綺麗だなと思えた。
 美しいでも可愛いでもなく、綺麗だと。

 そして気づく。綺麗なのはきっと松戸という人間の在り方そのものだと。
 目的の為人以上の力を求めて戦い続けた松戸という意志の在り方だと。

 戦い続けたが故に、彼女の姿は傷ついてボロボロ。
 でもそれはきっと、彼女の苛烈なまでに綺麗な意志の現れ。
 だからその意志がある限り、彼女は綺麗だ。きっと。

「綺麗、って何か予想外の反応なんだけど」

 松戸がそう言って急にもじもじし始めた。
 今の俺の心の声も聞かれてしまったようだ。

 そう思ってふと俺は我に返る。
 そうなると、今のシチュエーションの異常さに気づいてしまう訳で……

「頼む、せめて服は着てくれ」

 俺は目を逸らす。

「うん、そうする」

 松戸も素直にそれに従った。
 しかし服というのは、脱ぐ時だけでなく着る時の音もエロい。
 初めて知った。

 そして松戸は俺の横に座る。
 白衣以外はちゃんと着ていた。取り敢えず一安心だ。

「それでどうする。私の場合は佐貫に全部任せるよ」

「ならば、こうする」

 俺の方針はもう決めている。
 あの傷だらけの全身を見て、決めたのだ。

 横から松戸をお姫様抱っこで抱える。思った以上に体重は軽い。
 それをベッドの中央へと横たえる。

「え、何?」

 思った以上に可愛い反応。
 いかん、これは危険だ。
 なら俺が危ない反応に陥る前に。

 上から松戸に覆い被さり、首筋に口を近づける。
 思いっきり胸の感触を感じると同時に、さっき見てしまったものを思い出した。
 でもここまでくればもう大丈夫。

 俺の中に松戸が流れ込んできた。
 同時に気づく。

 松戸の体力、思った以上に少ない。
 これでは吸血中に、あっさりあの世行き。

 なのである程度余裕を持って、途中で中断。
 文句を言いたそうな顔をした松戸の、その唇を俺の口で塞ぐ。

 さて、俺の力で松戸をどこまで治せるか。
 委員長の時と違い俺の体力は十分だ。

 しかし委員長の時以上に松戸は壊れている。
 というか、よく生きているなこの状態で。

 なので眷属化しないよう、体力と治療中心にエネルギー注入。
 3人目だからか、そんな器用な事も出来るようだ。

 うーん、やっぱり体力が限界に近づいてきた。
 意識を保つのも厳しくなってきた。

 でももう少しで、松戸の身体が完全に治る。
 だからもう少し、あと少しだけ……

 ◇◇◇

 起きると既に誰もいない。
 カーテンをめくり、外の景色を確認。

 エアストリームはもう学校へと戻ってきていた。
 そして布団には確かに、俺以外の誰かがいた香り。

 う、う、これはたまらん。
 しらふに戻るととっても危険だ。
 胸の感触とか、見てしまったもの全部を思い出してしまう。
 早い話がムラムラする。

 ふと気づいて、横に置いてあるスマホを確認。
 時間は午後6時。学校開始まであと2時間。

 まずい、取り合えず部屋に戻ろう!
 俺は瞬間移動能力を使い、寮の自室へと跳んだ。
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