ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第6章 みんなで強化しよう!

34 秘密特訓の内容は

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 現れた外の景色は見覚えがある。
 俺にとっては悪夢の場所だ。

 そう、あの何処か不明な南半球の無人島。
 夏休みに合宿をやった、あの場所である。

「さて、まずは特訓の前に講義から始めるよ」

 松戸がそう言って立ち上がる。
 おい、いきなり何だ。何故ここに来たんだ。そして講義とは。

 しかし誰も何も言わない。
 なので俺も、言い出せないままでいる。

「大会出場者の中で、他の組にない私達だけの武器って何でしょうか。はい佐貫君!」

 いきなり指された。しかも全く分からない。
 ただ松戸には、そんな俺の反応は予想内だったようだ。

「急に言われてもわからないよね。それに様々な答え方がある問い方だったし」

 どうやら今のは、話を進める為の無茶ぶりだったようだ。。
 松戸は更に続ける。

「私の思うところ私達だけの武器は2点。ひとつは佐貫が持っている能力。他人の能力を吸収複写する能力とそれを他人に分け与えることが出来る能力ね。例えば秀美は佐貫の体力と治癒再生能力を持っている。美久は更に秀美の格闘や術の知識も持っている。これを使えば全員が全員の能力を使うことが出来る。能力に強弱はあるけれど少なくとも弱点は限りなく少なくなる。これが私達だけの武器のひとつめ」

 どうやら松戸に、綾瀬との事までばれているようだ。
 どこまで知っているか確かめたいところだが、勿論そんな事は怖くて出来ない。
 そして松戸の説明は更に続く。

「もうひとつは、みらいの能力」

「え、私ですかあ?」

 守谷が意外そうな顔をした。
 本人だけでなく俺も同感だ。
 守谷には、攻撃能力はほとんどない。
 あるのは管制能力関連だけの筈だ。

「みらいの指揮管制能力は超一流よ。これが使いこなせれば、なまじの敵等相手じゃない。でも今の状態じゃ戦闘現場で生き残れないけれどね。さて、みらいの管制能力を鍛えるのは別とします。この2つの武器を有効に使うにはどうすればいいでしょうか」

 あ、凄く嫌な予感がする。
 俺の他人の能力を吸収複写する能力と、それを他人に分け与えることが出来る能力。
 これを有効に使う方法とは。まさか……

 不意に両側から腕をがっちり固められた。
 右側が委員長、左側が綾瀬。俺は動きが取れない。

「まさか、俺にあれをさせようと言うんじゃ……」

「この車にはクイーンサイズのベッドがついているしね。道路上とか、こたつよりはマシだと思うわ」

 松戸、やっぱり全部把握しているようだ。

「うへへへへ、成功したら空を飛んでみたいのです」

 そしてみらいまで知っている、という事は。

「ん、能力の有効活用の為にはしょうがないかな」

「同意」

 俺は悟った。この場に味方はいない。

「ごめんね。実は全員に事情を話して同意済みなの」

 松戸がにっこりと笑う。その笑顔は確かに魅力的だ。
 きっと魂の契約を迫る悪魔って、こんな感じに魅力的なんだろうな。
 そう思わせるほどに。

 異空間方面の脱出口すら、既に塞がれている。
 飛ぼうと思っても飛べないのだ。

 どうもこれは松戸の仕業らしい。
 少なくとも、俺の空間操作能力では手が出ない。

「さて、佐貫君の予定を発表します。本日は私、松戸夕乃。明日はみらい。明後日が秀美、最後は美久の予定です」

 パフパフパフ、と変な擬音をみらいが入れる。

「そんな訳で、佐貫君をベッドにご案内~」

 委員長と綾瀬に捕まったまま、横歩きで後部のベッドルームへ。
 ベッドには、ご丁寧にも洗ったばかりの白いシーツなんて掛けられている。
 おまけにベッドの横にはピンク色の花が生けてあったりする。
 やりすぎだろう、これは。

「私達は外で特訓しているです」

「ん、逃げるなよ」

「同意」

 3人が消えていき、そして俺と松戸が残された。ベッドの上に。
 まあ、まだ2人とも腰掛けているだけだけれども。

「さて、色々の前に補足説明ね」

 そう言った松戸に、俺は尋ねる。

「これ全部、松戸が黒幕なんだろ、きっと」

 彼女は頷いた。

「そうね。考えたのは私。まず理由を説明するね。8月の終わりに飛んできた存在、覚えているわよね」

 忘れる訳はない。あの名前のない彼の飛来。
 神聖騎士団ヨーロッパ支部によって作られ、そしてその支部を壊滅させた彼。
 その圧倒的な力は、今でも脅威として憶えている。

「あの存在は我々の敵とはならなかった。でももし同等の存在が敵として来たら、うちの学校で勝てると思う?」

 俺は首を横に振る。
 勝てる訳がない。存在が違いすぎる。
 いや、待て。

「松戸、何故お前がその事を知っているんだ」

 あれは事情聴取の上、脅威度が高すぎるとして、教員以外には秘密とされた筈だ。
 状況を知っている俺や柿岡先輩、神立先輩にも箝口令が出ている。

「私も柿岡先輩の慧眼通と同じような能力があるのよ。厳密には私の能力ではなくて、私に力を貸してくれる神の御力なんだけれど」

 つまり松戸も、知ろうと思えば、全て知る事が出来る訳か。
 なら綾瀬との事もわかるんだろうな。

「あと綾瀬の件は私がけしかけたの。料理を作りに行く事も迫ってみる事も。思ったより上手く行ったけれど、それでも一線は越えなかったね、残念」

 おい松戸。
 あの件もお前が黒幕だったのか。

「まあ綾瀬の件は別として、今のままではあのレベルの脅威に対応できないのは明らかでしょ。そしてその脅威が迫っているのが明らかだとしたら?」

 えっ、どういう事だ。

「柿岡先輩に言われていない? いくつもの脅威が佐貫目がけて来ている話」

 そう言えばそうだった。
 最近平和すぎて、そのくせ事件が多くて忘れていた。
 暴走車が3台か4台、交差点に迫っているんだった。

「一つ目の脅威は神聖騎士団の潜伏侵攻部隊。それは無事倒したわ。それに脅威になる可能性だった一つは、敵にまわさずに済んだ。でも最低であと2回、脅威が残っている。そのうち1回がそう遠くない時期、おそらく武闘大会の後、それほどしないうちに迫っている」

 そうか。
 こいつも慧眼通並みの情報持ちだから、それがわかるのか。
 ならこの合宿の目的は、武闘大会だけではない。

 松戸は俺の思考を読んだかのように頷いた。

「そう、この訓練の目的は武闘大会じゃないわ。その先の脅威と、更にその先に待ち構えている脅威よ」
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