上 下
34 / 78
第6章 みんなで強化しよう!

34 秘密特訓の内容は

しおりを挟む
 現れた外の景色は見覚えがある。
 俺にとっては悪夢の場所だ。

 そう、あの何処か不明な南半球の無人島。
 夏休みに合宿をやった、あの場所である。

「さて、まずは特訓の前に講義から始めるよ」

 松戸がそう言って立ち上がる。
 おい、いきなり何だ。何故ここに来たんだ。そして講義とは。

 しかし誰も何も言わない。
 なので俺も、言い出せないままでいる。

「大会出場者の中で、他の組にない私達だけの武器って何でしょうか。はい佐貫君!」

 いきなり指された。しかも全く分からない。
 ただ松戸には、そんな俺の反応は予想内だったようだ。

「急に言われてもわからないよね。それに様々な答え方がある問い方だったし」

 どうやら今のは、話を進める為の無茶ぶりだったようだ。。
 松戸は更に続ける。

「私の思うところ私達だけの武器は2点。ひとつは佐貫が持っている能力。他人の能力を吸収複写する能力とそれを他人に分け与えることが出来る能力ね。例えば秀美は佐貫の体力と治癒再生能力を持っている。美久は更に秀美の格闘や術の知識も持っている。これを使えば全員が全員の能力を使うことが出来る。能力に強弱はあるけれど少なくとも弱点は限りなく少なくなる。これが私達だけの武器のひとつめ」

 どうやら松戸に、綾瀬との事までばれているようだ。
 どこまで知っているか確かめたいところだが、勿論そんな事は怖くて出来ない。
 そして松戸の説明は更に続く。

「もうひとつは、みらいの能力」

「え、私ですかあ?」

 守谷が意外そうな顔をした。
 本人だけでなく俺も同感だ。
 守谷には、攻撃能力はほとんどない。
 あるのは管制能力関連だけの筈だ。

「みらいの指揮管制能力は超一流よ。これが使いこなせれば、なまじの敵等相手じゃない。でも今の状態じゃ戦闘現場で生き残れないけれどね。さて、みらいの管制能力を鍛えるのは別とします。この2つの武器を有効に使うにはどうすればいいでしょうか」

 あ、凄く嫌な予感がする。
 俺の他人の能力を吸収複写する能力と、それを他人に分け与えることが出来る能力。
 これを有効に使う方法とは。まさか……

 不意に両側から腕をがっちり固められた。
 右側が委員長、左側が綾瀬。俺は動きが取れない。

「まさか、俺にあれをさせようと言うんじゃ……」

「この車にはクイーンサイズのベッドがついているしね。道路上とか、こたつよりはマシだと思うわ」

 松戸、やっぱり全部把握しているようだ。

「うへへへへ、成功したら空を飛んでみたいのです」

 そしてみらいまで知っている、という事は。

「ん、能力の有効活用の為にはしょうがないかな」

「同意」

 俺は悟った。この場に味方はいない。

「ごめんね。実は全員に事情を話して同意済みなの」

 松戸がにっこりと笑う。その笑顔は確かに魅力的だ。
 きっと魂の契約を迫る悪魔って、こんな感じに魅力的なんだろうな。
 そう思わせるほどに。

 異空間方面の脱出口すら、既に塞がれている。
 飛ぼうと思っても飛べないのだ。

 どうもこれは松戸の仕業らしい。
 少なくとも、俺の空間操作能力では手が出ない。

「さて、佐貫君の予定を発表します。本日は私、松戸夕乃。明日はみらい。明後日が秀美、最後は美久の予定です」

 パフパフパフ、と変な擬音をみらいが入れる。

「そんな訳で、佐貫君をベッドにご案内~」

 委員長と綾瀬に捕まったまま、横歩きで後部のベッドルームへ。
 ベッドには、ご丁寧にも洗ったばかりの白いシーツなんて掛けられている。
 おまけにベッドの横にはピンク色の花が生けてあったりする。
 やりすぎだろう、これは。

「私達は外で特訓しているです」

「ん、逃げるなよ」

「同意」

 3人が消えていき、そして俺と松戸が残された。ベッドの上に。
 まあ、まだ2人とも腰掛けているだけだけれども。

「さて、色々の前に補足説明ね」

 そう言った松戸に、俺は尋ねる。

「これ全部、松戸が黒幕なんだろ、きっと」

 彼女は頷いた。

「そうね。考えたのは私。まず理由を説明するね。8月の終わりに飛んできた存在、覚えているわよね」

 忘れる訳はない。あの名前のない彼の飛来。
 神聖騎士団ヨーロッパ支部によって作られ、そしてその支部を壊滅させた彼。
 その圧倒的な力は、今でも脅威として憶えている。

「あの存在は我々の敵とはならなかった。でももし同等の存在が敵として来たら、うちの学校で勝てると思う?」

 俺は首を横に振る。
 勝てる訳がない。存在が違いすぎる。
 いや、待て。

「松戸、何故お前がその事を知っているんだ」

 あれは事情聴取の上、脅威度が高すぎるとして、教員以外には秘密とされた筈だ。
 状況を知っている俺や柿岡先輩、神立先輩にも箝口令が出ている。

「私も柿岡先輩の慧眼通と同じような能力があるのよ。厳密には私の能力ではなくて、私に力を貸してくれる神の御力なんだけれど」

 つまり松戸も、知ろうと思えば、全て知る事が出来る訳か。
 なら綾瀬との事もわかるんだろうな。

「あと綾瀬の件は私がけしかけたの。料理を作りに行く事も迫ってみる事も。思ったより上手く行ったけれど、それでも一線は越えなかったね、残念」

 おい松戸。
 あの件もお前が黒幕だったのか。

「まあ綾瀬の件は別として、今のままではあのレベルの脅威に対応できないのは明らかでしょ。そしてその脅威が迫っているのが明らかだとしたら?」

 えっ、どういう事だ。

「柿岡先輩に言われていない? いくつもの脅威が佐貫目がけて来ている話」

 そう言えばそうだった。
 最近平和すぎて、そのくせ事件が多くて忘れていた。
 暴走車が3台か4台、交差点に迫っているんだった。

「一つ目の脅威は神聖騎士団の潜伏侵攻部隊。それは無事倒したわ。それに脅威になる可能性だった一つは、敵にまわさずに済んだ。でも最低であと2回、脅威が残っている。そのうち1回がそう遠くない時期、おそらく武闘大会の後、それほどしないうちに迫っている」

 そうか。
 こいつも慧眼通並みの情報持ちだから、それがわかるのか。
 ならこの合宿の目的は、武闘大会だけではない。

 松戸は俺の思考を読んだかのように頷いた。

「そう、この訓練の目的は武闘大会じゃないわ。その先の脅威と、更にその先に待ち構えている脅威よ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

処理中です...