ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第5章 嵐の前に

31 移動基地設置計画

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 夏休みの終わりは、あっという間だった。
 夏の終わりにイベントが多発してしまったおかげだ。

 授業終了後はいつものお茶会。人数は大分増えている。
 俺の他に委員長、綾瀬、松戸、守谷の4人。それに元からの部屋の主である、柿岡先輩と神立先輩。
 計7名という陣容だ。

 ちなみに俺は、柿岡先輩と顔を合わせるのが少々怖かった。
 何せ彼は天眼通よりさらに性能上の、慧眼通持ち。おまけに委員長の保護者だ。
 最近の俺の悪行色々が見られてしまったら。そう思うと大変気まずい。

 しかし柿岡先輩の能力からして、見えてしまうものは隠しようがない。
 それに俺にも言い分はある。
 ただ全部自分の意思じゃない。色々とまあ成り行き上そうなっただけだという。

 でもその言い訳は、シスコンの慧眼通持ちに通用するだろうか。
 事実そのものなのだけれども。

「そんな構える事無いよ。どうしても特異な能力持ちは集まってしまうから」

「うちの代は私の逆ハーレムだったもんね」

 幸いなことに俺の懸念は、大先輩2人のその一言であっさり晴らされた。
 安心して紅茶を頂くことにする。
 ほっとした後の紅茶が美味い。

「人数も増えたし、何なら専用の部室か何かをもらったら。私達ももう引退だしね」

「でも特に研究活動している訳じゃないし、2年生もいないですし」

「必要なのは人数と名目だけさ。高浜のお散歩クラブなんて、あいつの口先だけでつくったような研究会だし。今こそ2年も1年もそこそこいるけど」

 あんな恐ろしい誘い文句で研究会に入る奴の気が知れない。

 さて、この話もいいけれど、実は他に聞いてみたい話がある。
 この学校が移転するという噂だ。

 現在は小学部、中学部、高等部それぞれ廃校の校舎を再利用している。
 しかしこの体制だと、敵の侵攻等があった場合に守りにくい。
 それに施設そのものも廃校になった位だから老朽化している。

 更に場所そのものが位相が異なるとはいえ街中にある。
 だから万が一、大規模な戦闘による破壊等があった場合は、通常世界側にも被害が呼ぶ可能性が高い。

 そんなこんなで昔から移転の噂はあったのだが、今度こそ本当らしい。
 少なくともクラスでは、もうその噂が広まっている。

「そういえば新校舎の噂が色々広まっていますが、何か情報がありますか」

 柿岡先輩はあっさり頷いた。

「明日には発表すると聞いているよ。場所は飯農の山の方だって。場所が奥地になる代わり、防御も楽になるし、校舎も広くなるみたいだよ」

 え、何でそんな事を知っている。
 そんな俺の内心を読んだように柿岡先輩は解説する。

「慧眼通持ちだとさ。ほっといていても勝手に情報が聞こえてくるんだ」

 なるほどな。
 と、委員長が思いついたように言う。

「ん、どうせ研究会で部室作るんなら、部屋を借りるより電源付き土地借りて、あのキャンピングカー停めたいな。あの方が豪華だし気持ちいいしきっと楽しいよ。お出かけも出来るし」

 おい委員長、あれは松戸家のだぞ。

「そんな申し訳ない事できないだろ。あれは日本で買うと、中古の家族用マンションが優に買える値段するんだぞ」

「うちは大丈夫よ。日本に戻ってきてからほとんど使っていないから」

 あ、松戸さんがOK出してしまった。
 いいのか、本当に。

「ええと、参考までにどんなキャンピングカーか聞いていいかな」

 柿岡先輩が興味深そうに聞いてくる。

「エアストリーム、多分2000年頃のインターナショナル、ヨーロッパ仕様か何かのナローボディ、28フィートあたりです。発電機やらシャワーやらフルオプション付きで」

「何だその無駄に超豪華なキャンパーは」

 柿岡先輩はエアストリームを知っているようだ。

「ん、お兄に夏合宿に行った話したでしょ。あの時使ったのがそれ」

「うう、何とうらやましもったいない」

「あ、それは俺も同感です」

 委員長や松戸が不審がる。

「何で私でも知らないのに、そんなに詳しいのかしら」

「エアストリームは、一部のアウトドア屋にとって永遠のロマンなの!」

 しかし、この手のキャンパーを使ったライフスタイルが流行ったのは大分前。
 中年ニートの俺がかろうじて知っている位だ。
 だから柿岡先輩の世代で知っているとは思わなかった。

「うちの親父もそんな事言っていたけどね、買ってから泊まった日数は多分1月分も無いと思うわ」

 何かキャンピングカー談議になっている。

「ならジャッキアップの事も考えて舗装済みの場所で、電源に近くて他の邪魔にならないところがいいな。出来れば水場と下水マンホール近くで……と」

 柿岡先輩は何もない空間から、一枚の図面を取り出した。

「うーん、この辺りかな」

 委員長がのぞき込む。

「ん、お兄何それ」

「新学校の図面」

 おいおいおい。

「何それ秘密じゃないの」

「この世界に秘密など無い」

 確かに慧眼通持ちで空間操作可能なら、秘密など意味無いだろう。
 でもそれは、能力乱用ではないだろうか。

「場所の交渉は僕が責任を持ってやっておく」

 柿岡先輩はそう断言。いいのか、本当に。

「随分と乗り気ね。何からしくない」

「子供の頃絵本で見てずっと憧れだったんだ」

 そうですか。なるほど。
 まあ俺達には都合はいいのだけれど。

 ◇◇◇
 
 学校との交渉事その他は、柿岡先輩に任せることにした。
 だいたい学校移転の話すら、一般生徒にはまだ知らされていないのだ。

 次の日、柿岡先輩が言ったとおり学校移転が発表。
 2週間で今住んでいる部屋も移動する事になった。

 勿論授業は授業として普通に行われ、引っ越し作業は放課後以降。
 新旧校舎間は仮設空間ゲートで、無理やり通行可能にされている。
 そこを放課後台車やら何やらで頑張って荷物を運ぶのだ。

 ただ寮の自室が学校から遠い生徒も多い。
 その場合は、期限を決めて荷物をまとめさせ、空間操作や瞬間移動の能力者が一気に移動させる。

 綾瀬や松戸は勿論、俺まで色々手伝わされた。
 俺がこの能力を身につけたのはつい最近なのだが、馬橋先生の目は誤魔化せなかったようだ。
 さすが校内最長老(噂)。

 その中で柿岡先輩はしっかり暗躍していたらしい。
 持ち主の松戸家とも、個別に連絡を取っていたようだ。

 その結果。
 引っ越し期間2週間の後の、9月25日火曜日。
 月曜日は祝日だったから、引っ越し終了後初めての授業の日だ。

 俺達は授業終了後、ある場所へ急ぐ。
 目的の場所は場所は新しい学校の敷地の一角、教室棟の横の空きスペース。

 そこに銀色に輝く、アルミ製超高級キャンピングカーが無事設置された。
 ちゃんとタイヤが傷まないよう、ジャッキアップまでしてある。

 早速エアストリームに入ろうとすると、既に先客がいた。
 おなじみの紅茶のいい香りが俺達を出迎える。
 予想通りの2人が、まったりと紅茶タイムを満喫していた。

「ん、お兄ひどい。私達の活動場所なのに」

 委員長の抗議にも柿岡先輩は悪びれた様子を見せない。

「まあいいじゃない。専用部室も無くなったことだしさ」

 夏休みとともに2人はTRICKSTERSを引退。
 そして学校移転後のTRICKSTERS部室には、別室スペースは無い。

「ごめんねひーちゃん。これ一服したら消えるから」

「神立先輩はいいんです。いて下さい」

 柿岡先輩は憮然とした表情になる。

「秀美、僕に酷くないかい」

「ん、お兄は受験勉強もあるでしょ。さっさと予備校なり自分の部屋に帰るなりして勉強してください!」

 久しぶりの兄妹喧嘩を横目に見つつ、俺達は紅茶を楽しむ事にする。
 都合7人でも、ダイニング側とラウンジ側を両方使えば問題無い。

「それくらいにしたら。ここまでこの部屋エアストリームがちゃんと使えるようになったのは、間違いなく柿岡先輩のおかげだし」

 松戸の言葉通りだ。
 エアストリームは電気だけでなく上水道下水道ともに接続済みで、台所もシャワーもトイレも使用可能となっている。

 強いて言えば、温水やガスを利用するとプロパンガスを消費する位だ。
 これだけは他に接続できなかったのだが、補充の必要性なんて当分先だろう。

 しかもこれらライフラインを怪しげな空間経由で接続したまま、世界中に移動可能。
 その気になれば世界の果ての砂漠を前に、エアコンガンガン状態で水使い放題のキャンプも可能だ。
 何だこの環境。快適すぎる。

「で、この当研究会の名前とか活動とかは決まったの?」

「まだですね。活動もまだ予定は冬合宿くらいしか」

「えーっと、私は能力解放同盟を推したんですが、皆に却下されたです」

 それはそうだ。そんな公安調査庁の白書に載っていそうな名前は却下。
 みらい以外全員の総意だ。

「折角のぼり旗作ってヘルメットとマスクして、神聖騎士団の前でデモしようと思ったですが、残念です」

 この壊滅的なセンスは何なんだろう。

「なら横文字系の名前にして、サウンドデモやりながら神聖騎士団前でデモを……」

「デモから離れろ」

 みらいの発想にはついていけない。
 そんな感じで、早朝のどやかな時間がまったり過ぎていく。
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