ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第5章 嵐の前に

30 君と食べよう食べられよう⑵

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 綾瀬てきは髪形を確認すると、今度はこっちに近寄ってくるようだ。
 見なくても気配でわかる。

 ここは集中だ! 意識をネットに集中させろ!
 現在やっている生放送の一覧は……

「佐貫、一つ質問」

「何?」

 不意に綾瀬が後ろから抱き着いてきた。
 濡れた髪と風呂上がりの熱い体。しっとり重い感触。

「色々工夫したが上手くいかない。やっぱり私は魅力ないのか」

 彼女は俺の耳元で、囁くように続ける。

「合宿の時、私の水着でどきどきすると聞いて、ちょっと脈あるかと思った。まずは料理で気を引いてみた。ちょっとうまくいきかけたからこんな姿で誘ってみた。でも龍洋は目を逸らすだけでこっちを見てくれない。やっぱりこんな発育不良な体は魅力がないか」

「そんなことは無い!」

 後ろで綾瀬がびくっと身体を震わせた感触。
 しまった、ちょっと声が大きすぎた。

「魅力がないなんてそんなことは無い。むしろその逆。これでも男としての本能を必死に抑えている状態だ。だから無理させないでくれ」

「抑えないでいいって言ったら」

「自分で責任とれない事はしたくないし、好きな子は大事にしたい」

 本当はただのヘタレなのだが、それは言わない約束で。

「なら少しは期待していいのか」

「とりあえず充分魅力的だ。だから俺の忍耐力を試さないでくれ」

 俺の本音だ。

 ふっと体が離れる感触。
 助かった、と思ったらまさか。
 こたつを押しのけて、座った俺の前膝の間に強引に入り込んだ。
 俺と真向かいに密着するような体勢。

 ちなみに綾瀬はパン一で、上は何もつけていない。
 小さくふくらんだ胸が丸見えだ。

「おい綾瀬、これは」

「期待していいなら証明。前に秀美にしたのと同じ事して欲しい」

 綾瀬は潤んだ目で俺を見つめる。

「私を食べてほしい。私をいっぱいいっぱい食べて、その分佐貫を分けて欲しい」

 綾瀬はそう言って俺に抱き着く。

 すぐ目の前に綾瀬の首筋。
 あ、まずい。
 血を吸う前に押し倒してしまいそう。

 誘惑を必死にこらえ、綾瀬の首筋に口を近づける。
 甘い自分のじゃない体臭とともにかぷっと血を吸う態勢に。

 美味しいというより気持ちいい感覚。
 性的な快感と、おそらくは同じ種類の生理的な快感。

 綾瀬の口からも小さく声が漏れる。
 彼女はどんな感じなのだろう。

 俺の方は、自分ではない気持ちいいものが、体内に広がっていく快感。
 委員長の時とちょっと違うけれど、同じくらいに気持ちいい。

 腕の中に小さな愛しい生き物がいる。
 ずっとこうやって抱きしめたままいたい。
 強力な誘惑に引っ張られそうだ。

 しかしそれでは今の綾瀬を失ってしまう。
 そうはさせたくない。

 綾瀬は対等な友人であってほしい。
 例え恋人とかではなくても。

 だから俺は口を離す。
 ちょっと不満げにこっちを見る綾瀬の、後頭部に手をまわす。
 そのまま腕をちょっと曲げて、斜めから口を近づける。

 今度は俺から綾瀬に与える番。
 既に結構万能な綾瀬に与えられるものは少ないかもしれないけれど。

 綾瀬は俺の口づけを素直に受け入れる。
 だから全力で綾瀬に俺を流し込む。
 色々な感謝と想いを載せて。

 綾瀬の体が小さく震える。
 愛しくて思わず抱きしめる。
 やばいくらいに気持ちいい。

 俺から見える周囲の色彩が色を失っていく。
 どうやら俺の体力が、限界近いようだ。

 俺は口をゆっくり離す。
 綾瀬がうるんだ眼で顔を赤くして、こっちを見た。
 やばいほど色っぽい。
 単に襲わないのは、俺の体力が限界近いから。

 綾瀬はぎゅっと俺を抱きしめる。Tシャツ一枚を通して裸の胸の感触が暖かい。
 その気持ち良さを感じつつ、他の感覚や意識が遠のいていく……

 ◇◇◇

 気が付くと、夜が近いだるい陽光がカーテン越しに見えていた。
 ただわずかに残る香りだけが、ここにいた誰かを感じさせる。

 そして俺は新しい自分の感覚に気づく。
 それは時間も空間も超えてどこまでも広がる視界。

 ほんの少し意識するだけで、色々なものが見えるし感じられる。
  ○ 部屋のベッドで熟睡中の綾瀬も
  ○ 同じく睡眠中の委員長も
  ○ パソコンと妙な本を交互に見ながら、意味不明な数式を書いている松戸も
  ○ 三時のおやつの特大プリンを食べている守谷も
 全部が、直に見ているようにわかる。

 更に意識を飛ばせば、以前に松戸と出会った世界の果てすら知覚可能。
 手を伸ばせばきっと手が届くし、一歩踏み出せばそこへ行くことも出来そうだ。

 これがきっと綾瀬が見ている世界で、綾瀬の能力の一部分。
 何処でも意識するだけで知覚可能で、移動する事すら出来る能力。

 逆に俺は綾瀬に、何か与えることが出来ただろうか。
 そう思って気を失う前の綾瀬を思い出して……

 思わず体の一部分だけ元気になった。
 いかん、静まれ、俺の一部分!

 ◇◇◇

 なお、次の日の朝四時。
 俺は綾瀬にたたき起こされた。

 そのままアメリカはロサンゼルスまでお買い物。
 ラルフスとかホールフーズとかお気に入りのパン屋とか。
 でっかい店を体力の限界近くまで引きずり回された。

 綾瀬は俺から見た限りは平常通り。
 でも俺は始終どきどきしっぱなしだったのは、言うまでもない。
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