ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第4章 夏だ! 水着だ! 南国だ!

25 カメラさんも照明さんもいないけれど

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 当然次の日の朝は眠い訳だ。
 しかし一人だけ元気な娘に、全員がたたき起こされた。

『みっなさ~ん、楽しい朝ですよ~♪』

 ブロードキャスト生念話、大音量、朝のビーチの画像付きだ。
 ちなみにその後にラジオ体操の歌の斉唱も入る。

 思った以上に守谷の能力は、強力で凶悪だ。
 大体寝不足で眠いのは誰のせいだ。
 皆そう思ったと思うけれど、とっても楽しそうな守谷の笑顔に誰も文句を言えない。

 4人ともゾンビのように起きて、仮設ベッドをテーブルモードに変形、朝御飯にする。
 朝食はツナマヨとその辺の葉っぱによるサンドイッチ。
 あとは冷たいアイスコーヒー。

 冷たいアイスコーヒーが体に染み渡る。
 そしてツナサンド。
 ツナは缶詰ではなく、昨日のアジとサラダオイル等で作った代物。
 本物以上に美味しい。

 フランスパン1本と食パン1斤分のサンドイッチがあっさりと無くなる。
 やっぱりこの連中、食べる量が多いし食べるのも早い。
 既に俺は生存競争に一人負けしている状況だ。

「今日はどうする予定」

「私はもう少ししたら美久と買い出しに行くわ。思ったより野菜が少ないし、美久の要望もあるから」

「食材が美味しいから美味しいパンが欲しい。あといいオリーブオイルも」

 何処へ買い出しに行くかは、あえて聞かない。
 こいつら世界中移動自由だし、松戸は5か国語を話せるから。

「ん、じゃあ私は買い物組が帰るまでゆっくり休憩。この島気持ちいいし」

 つまりまだ眠いという事だ。
 俺も眠い。
 しかしだ。

「駄目よそんなの、私つまんないしもったいない」

 俺と委員長の希望は、元気な一人に却下された。

「ん、でも魚も在庫充分だし、船も昨日やったし、何か案ある?」

 委員長の言葉には、休みたいぞという希望が見え隠れしている気がする。
 しかし守谷はそんな行間を一切読まず、断言した。

「南の島に来て海以外にやることと言ったら、決まっているのです」

 俺と委員長は顔を見合わせる。
 わからない。

「探検です、たんけん!」

 目をキラキラさせるとは、きっとこういう表情の事なんだろう。
 俺は守谷の顔を見てそんな事を思った。

 ◇◇◇

 一度島の全景を見るために、上空100mくらいまで上昇。

 ちなみに俺は当然、空を飛べる。
 委員長も、この前俺の能力を得たおかげで飛べるようになった。

 しかし当然、守谷は飛べない。
 だから俺の背に馬乗りになっている。

 密着している辺りの熱さが、若干どころか非常に気になる。
 勿論気にしてはいけないし、気にしているのを感づかれてもまずい。
 気にすると更に面倒なことになりそうだから。

「ん、思ったより大きな島だね」

 委員長が下の島を見ながら、そんな事を言う。
 俺もサンゴ礁の上に乗っかった小さな島だと思っていたが、どうやら違うようだ。

 島全体は、長い方の端から端まで、多分500mくらい。
 しかし川があるし、低いけれども山っぽいものもある。

 川は俺達の拠点の浜から、うねうねと蛇行。
 森の中を抜け、山の崖下の小さな池まで続いている。

 山といっても、高さはせいぜい20m程度。
 植生から委員長が判断するに、
「山の上でも高潮で台風みたいなの来たら潮をかぶるみたいね。樹種が塩害に強そうなのばかりだし」
という感じだ。

「ん、危険そうな大型動物はいない。まあ蛇と虫くらいかな、注意するのは。大型哺乳類がいないから、蚊とか蚋とか蛭とかはいないみたいだけど、どうする」

「うーん、私、蛇や虫はやっぱり嫌だなあ。あと洞窟はないですか?」

「ん、見てみたけど、洞窟はなさそうかな」

「残念、探検隊といったら洞窟なのですが」

 どこの常識だろう、それは。

「じゃあいつもの浜辺に戻って、そこから川の上を飛びながら遡上なのです。川を上るのも探検隊の定番なのです」

 という守谷の意見で、さっきの浜辺へと下降。
 そこから森の木々のちょっと上くらいの高さで、川を遡り始める。
 速度を上げるとすぐ終わってしまいそうなので、ゆっくりとした速度で。

 よく見ると木の根の張り方が奇妙だったり、でっかい貝が転がっていたり。
 色々変わっていて結構楽しい。
 委員長も結構楽しそうに、あちこち見ながら飛んでいる。

 俺の背後というか上から、昭和の某有名探検隊パロディーの鼻歌が聞こえてきた。
 守谷もご機嫌なようだ。

 というか、守谷なんでそんな歌知っている。
 若返る前の俺だってリアルに見た世代じゃ無いぞ。
 実際に視聴経験があるのは、きっと60代以上だぞ。
 年齢があわない。

 川の水そのものは、あまり綺麗ではない。
 むしろ黄色く濁っている。
 でもそれが、ジャングルクルーズ感を醸し出していて良い。

 川にちょっとした段差があり、それを超えると水も澄んで綺麗になった。
 そう思ったら終点、小さな池だ。

 目の前は崖。水は池の中から湧いている様だ。
 見る限り、冷たくて綺麗そうな感じの池だ。

 池というより泉かな。
 天眼通で見てみる。
 危険そうな動植物は周りにない。

「降りてみる?」

「勿論です!」

 ゆっくりと水面近くまで降りる。
 結構浅そうだ。

「う、冷た! くはないですね」

 守谷が池の浅いところに着地。

「ん、でもやっぱりちょっと温度低めで気持ちいいかも」

 委員長も着水している。
 俺も飛行をやめて着水。
 確かに水は程よく温度が低くて、それなりに気持ちいい。

 守谷が池の奥の深い方目指して歩いて行く。
 あっという間に深くなり、水深が膝上位の高さになったところで。
 ずるっ、と足を滑らし尻もちをつく形でこけた。

「ん!」

「おい、大丈夫か」

 俺と委員長が慌てて駆け寄る。

「ううー、こけちゃったです。でも結構気持ちいいです」

 転んで後ろに手をついたまま、守谷はそう言って笑った。
 確かにこの水温だと気持ちいいかもしれない。

 しかし問題点は他にある。
 俺はあえて守谷から目を逸らし、池の別の方を見る。

 今の俺達は水着装備ではない。
 上は襟のあるシャツに下は短パン。
 守谷が言うところの『探検隊っぽい服装』をしている。

 問題は守谷の上のシャツが、薄手の白色だった事だ。
 思い切り濡れた今、はっきりブラが見えるシースルー状態。

 ふと守谷が完全に沈黙する。
 俺が目を逸らした理由を理解したらしい。
 しばしの静寂。

「うー、水着より露出少ないし気にしたら負けです」

 開き直った。

「だから秀美も一緒に水に漬かるです」

 ついでに委員長に襲い掛かった。
 不意の思わぬ動きに委員長も対応できない。
 よって2人とも頭から水中へ。

 そうして出来上がったシースルー女子高生2名。
 うん、こういう時は三十六計。

「俺は先に帰るからさ、ゆっくり遊んで来いよ」

 俺はその場を穏便に立ち去ろうと決意した。
 しかしだ。

「ん、甘い!」

 委員長、急速飛行に投げ技まで使いやがった。
 結果俺は池の一番深そうな部分へと投げ飛ばされる。
 飛行して対処する間もない。

 俺の視界は水中へ。
 ちーん……
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