ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第4章 夏だ! 水着だ! 南国だ!

24 念話の寝言は迷惑です!

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 晩飯は豪華だった。

 昼とは変わって和風。
 アジ出汁で炊いてアジの身が入った炊き込み御飯、様々な刺身盛り合わせ、アジのなめろう、アジ入り酢の物、アジ出汁冷や汁。

 アジが大きかったためアジのメニューが多いが、他の魚も色々だ。
 刺身だけでもバリエーション豊富で飽きない。

 しかも美味い。
 新鮮なせいか、それぞれがすごく美味い。
 アジ炊き込み御飯に刺身になめろうで、がつがつ食べるともう、たまらない。

 ちなみに女性陣4人とも結構食べることが、この夕食で明らかになった。
 なにせアジ炊き込み御飯、大鍋で5合以上炊いていた筈だ。
 しかし俺がお代わりする前に、空になっている。

 どいつもこいつも細いのに、どこに消えているんだろう。
 松戸あたりなら本気で異空間に消しそうだが。

 これだけおかずの点数があっても、巨大アジの半身分も使っていないらしい。
 残りは明日以降だ。

 なお釣れた同種のアジの小さめの1匹は、松戸家にお土産代わりにやったとの事。
 まあこんなに山ほどは食べきれないだろうし、正しいと思う。

 残りについては、松戸がこんな事を言っていた。

「大きい魚はちょっと間をおくとまた、味が変わって美味しくなるわよ。歯ごたえはなくなるけど、柔らかくなって味も旨みが増してくるの」

 だから皆で、楽しみにしている。

 片付けしてたら、外はもう真っ暗だ。
 だから室内も睡眠用に模様替え。
 テーブルを外して。2つ目のベッドを作る。
 ここで2人、後ろの常設ベッドで2人、長椅子で1人で5人就寝する予定だそうだ。

「何なら秀美と2人で寝る?」

 松戸の提案は全力で否定する。
 結局ベッドの組み合わせは、常設ベッドが松戸と綾瀬、仮設2人用が委員長と守谷、長椅子が俺という事になった。

 この組み合わせに深い意味はない。
 大きい人とは小さい人、というようにベッドの面積を有効活用した結果だ。

 電気バッテリーがもったいないとの事で、さっさと就寝時間。
 エアコンはつけていないが、夜風が充分に涼しくて気持ちいい。
 大型哺乳類がいない小さな島のせいか、蚊もいないので窓全開でも大丈夫。
 昼間の疲れで心地よく……と意識が遠のきかけた時。

『アジの開き、巨大アジの開き』

 何だ、今のは。

『新聞広げた大きさのアジの開き。うーん満足ですうふっ』

 間違いない。空耳というか空念話耳ではない、これは。

 薄目を開け、頭の上方向にいる声の主の方を見る。
 気配を察してこっちを見た委員長と目が合った。

「今の」

「ん、みらいは完全に寝てる。多分念話の寝言」

 ブロードキャスト寝言か。
 何と迷惑な。

 本人に悪意は無い。
 だからわざわざ起こして怒るのも何だし、対策するにも耳栓では意味がない。
 諦めてまた寝ることにする。

 幸い寝言も聞こえなくなった。
 うーん、意識が遠くなりかけた時。

『うーん、巨大アジフライ、食べきれない。猫の手借りたいです』

 今度は妙に漫画チックなイメージイラスト入り念話だ。
 しかも守谷、そのイラストは猫じゃなくてギコだ。
 貴様は昔の2ちゃんネラーか。

 ブシュー、委員長は噴き出すのをこらえきれなかったようだ。
 それが俺を余計に刺激する。

 駄目だこれは、眠れん!
 こっちの寝入りばなを的確に襲撃してきやがる。

「ごめん、ちょっと外行って来る」

 俺は委員長に小声で告げて、起き上がった。
 出来るだけ静かに音を立てないように。
 ゆっくり静かに動いてドアを開けて外へ。

 夜なのに、不思議なほど明るく感じた。
 月明かりと白い砂浜のせいだろうか。
 月夜なのに、星の瞬きもいつもより強い光を放っている気がする。

 ふとある事を思いついて、星空を観察してみた。
 夏の大三角形が随分低い空に見えている。
 北斗七星はどう探しても見当たらない。当然北極星も。

「完全に南半球だなこれは」

 しかし時差は、それほどない感じだった。
 ならば此処は、南太平洋のどこかだろうか?

 まあ気持ちがいい場所なので、文句は言わない。
 よくこんな場所を見つけてきたなと、褒めてやりたい気分だ。

 多分松戸綾瀬組が念入りに調べたのだろうけれど。
 実際に移動して、実地調査くらいして。

 トレーラーの方で何か気配がした。
 扉が開いて誰か降りてくる。
 委員長だ。
 委員長はこっちを認めて歩いてくる。

「やっぱり寝れない?」

 俺の問いに委員長は頷いた。

「ん、あの後、巨大アジフライを狙って巨大ネコが現れた。そしてにゃんこ大戦争が始まった。イラストと戦況入り実況中継で」

 成程、それを真横でされたら眠れない。

「でもみらい、いつも頑張っているしね。特殊能力持ちだから普段から遠出も出来ないし行動も制約されているし。ユーノがみらいのフォローするようになってやっと普通の買い物に出かけられるようになったんじゃないかな」

 松戸、そんな事もしていたのか。

「松戸もいいとこあるじゃん」

 委員長が頷く。

「ん、ユーノは本当は、すごく色々気が付いて優しい人だよ。だからこそ暴走したんじゃないかな。あの白衣姿はきっと、他の人と必要以上に仲良くならない為の楯だったんだと思う。今はもう必要はないんだろうけれど」

「それに今のチートな空間制御能力だろ」

 あいつは本来ただの人間なのだ。
 それも陰陽道とか魔術とかと、本来は一切関わりない普通の人間。
 
「あれもきっと友達を救える可能性を探して、それこそ全てを犠牲にする位必死になって努力して得たんだと思う。あの子は全く普通の人間だし、両親だって全くオカルトその他関係ない人たちだもん。いくら海外生活が長くて5か国語が自由だっていっても、たった半年でこの学校に自力転校してくる位の能力を持つのは、普通じゃ絶対出来ない」

「確かにな」

 どうすればそんな事が出来るのか、俺には方法すら思いつかない。
 きっと才能と優しさと、それゆえの絶望の深さと努力と環境。
 全てが合わさった上での奇跡なんだろう。

「ん、惚れた?あのボディだし」

「うーん、あれ位見事だとむしろ逆に平気かな」

「興奮しない?」

「興奮って言い方は悪いけど。むしろ綾瀬の水着のほうが、いけないもの見ている気がして落ち着かない」

 ふとその時、後ろでかすかに気配が動いたのに俺は気づいた。

「ん、佐貫はロリコンだったと」

 また気配が少し動いた。

「決めつけ反対!」

 そう言いつつ委員長の方を見る。
 委員長が小さく頷く。気づいているようだ。

 ちょうどいい大きさの流木があった。
 委員長が何気なくそれを手に取って、ノーモーションで投擲した。

 パシン、と何かが木の枝を弾く。

「ひどいじゃないの。今の当たったら怪我するよう」

「同意」

 大小の空間歪曲コンビが岩陰から現れた。

 ◇◇◇

 その後はもう、混沌としか言いようがない。

 綾瀬が、
「私の水着もっと見たいの?」
と迫って来たりとか。

 松戸が妙なセクシーポーズをつけて、委員長に駆逐されたりとか。

 挙句の果てに、委員長対松戸の、空間跳躍対飛行能力の鬼ごっこ。
 結局みらいの寝言など問題にならないほどに疲れ切って、空が白み始めた頃にやっと就寝。
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