ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第4章 夏だ! 水着だ! 南国だ!

23 現地調達、でも美味しい昼食

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 昼食は黒鯛もどきのカルパチョとフランスパン、黒鯛の出汁のスープになった。
 活躍したのは綾瀬だ。
 黒鯛もどきもうろこ落としから3枚おろし、柵を取って刺身とするまで、小さい包丁であっさりとやってのけた。

 その包丁、綾瀬が持ち込んだマイ包丁とのことだ。
 本人曰く普通の包丁より刃が入りやすくて切りやすいし、包丁本体も安いとのこと。

 一見ちょい長いナイフにしか見えないし、刃も薄い。
 なのに綾瀬はこの包丁で、鮮やかに魚が切り分けていく。

 さて料理。基本は魚を含めその辺で取ってきたものだから、品数は少ない。
  メインの魚、スープ、フランスパンのみ。
 しかし見るからに美味しそうだ。

 白身に赤色の部分交じりの如何にも美味しそうな切り身には、オリーブオイルと醤油主体の綾瀬特製ソースがかかっている。
 スープには委員長が天眼通で選んで摘んできた、美味しい筈の野草入りだ。
 フランスパンだけは残念ながら、日本メーカー製の一般品だが。

 それをダークオークとアルミ基調の豪奢な室内で、海を見ながら水着でいただく。
 ここは天国か。
 皆で『いただきまーす!』と声を合わせてから、俺は黒鯛もどきの切り身を頂く。

「お、美味い」

 新鮮な魚のこりこり感と、醤油ベースのたれと魚の脂がマッチして美味しい。

「綾瀬うまいなこれ」

「料理は好き」

 綾瀬はいつもより、ちょっとだけ笑顔でそう答える。
 うん、萌えという奴の意味が理解できた。
 危険だな。

 次はオリーブオイル多めのところを取って、パンに併せ緑の葉っぱも載せて食べる。
 やはり美味い。
 正直いつもの自分の食事より、よっぽど美味い。

「この魚簡単に釣れる?」

 綾瀬が聞いてくる。

「簡単。餌はその辺で取れる蟹でいいしさ」

「この魚美味しい。私も釣りたい」

 料理好きは食材もお望みのようだ。

「いいよ、簡単だし」

「ねえ、どうせならもっと大きい魚を狙わない」

 松戸が口を挟んできた。
 その提案は魅力的だ。

「どうするんだ」

「ボートを出すわ。深いところなら、もっと大きい魚がいるでしょ」

「ん、いいね。午後はボートでクルージング」

「あ、私もです」

 午後の予定が自動的に決まったようだ。
 そんな声の中、俺は今度はフランスパンをスープに浸して食べる。

 うん、これもなかなかいける。
 魚の出汁とちょっと青っぽい草の香りが凄くマッチしてパンにあう。
 というかこんなに簡単に、こんな美味いものが出来ていいんだろうか。

 ◇◇◇

 単にゴムボートというには、随分とでかくて頑丈だ。
 大きさは多分畳4畳くらいはあるし、床もゴムではなくアルミ製だ。

 そんな巨大ボートも、組み立ては割と簡単だった。
 トレーラーの電源にエアポンプを繋いで、モーターで空気を入れる。
 あとはアルミ板を床に敷けば完成。

 松戸が手慣れた感じで、あっさり組み上げた。
 聞くとアメリカ時代は、こういう事を家族でしていたらしい。
 白衣の変人研究者のイメージとは大違いだ。

 ただ、頑丈で大きいだけあって、結構重い。
 俺が砂浜をずるずる引っ張って、何とか海に持っていく。
 後を釣りセットその他を持った女子4名がついてくる。

 浅い場所にボートを浮かべ、前一人分開けて次の列に委員長と守谷、後ろに松戸と綾瀬が乗り込んだ。
 俺はというと、ボートの前フックに結び付けたロープを持って空中へ。

 つまり俺が空を飛んで、ボートを引っ張る。
 前2人はボートクルージングを楽しむ。
 後ろ2人は大物釣りを狙う。
 そういう布陣だ。

 俺ばかり重労働のような気もするが、実は空を飛ぶのはそれほど体力を使わない。
 本音を言えば、水着の女の子に密着してボートに乗るよりよっぽど気が楽だ。

 そんな訳で俺は、不平は言わずにボートを引っ張る。
 目にも青いサンゴ礁上を低空飛行。
 海風がなかなか気持ちいい。

 後ろでは守谷と委員長がはしゃいでいる。
 ほんの2分程度で予定地点。
 周りをサンゴ礁に囲われた、そこだけ水深が深い場所に到着する。

「ねえここ凄く綺麗なんですが、私ちょっと飛び込んでみていいですか」

「ん、やめた方がいいかな。ここサメいるよ」

「え、じゃあボートに乗っているけど、大丈夫なんですか」

「ボートなら大丈夫よ。でも海面でばちゃばちゃ泳いでいると、サメが寄ってきたりするらしいわ」

 そんな会話の中、綾瀬は無言で仕掛けを深場に落とす。
 今度の仕掛けは松戸が選んだものだ。

 内容は太目のハリスと80号の重いおもり。
 途中2本の枝に、小さめの疑似餌付の針が結び付けられている。

 作戦では疑似餌で、まず小さめの魚を釣る。
 次にその魚をそのまま餌にして、大きい魚を釣ろうというもの。

「最初は5メートル位でゆっくり上下させて」

 松戸の指示に忠実に、綾瀬がリールと竿を操作している。
 竿先が明らかに、不自然な動きをした。

「良し、それじゃあゆっくりと糸を出して沈めて。ここだと30位まで沈めればいいかな。大きいのは深い層にいるから」

 1メートルごとに糸の色が変わるので、そこを数えておけば深さがわかる。
 リールにもメーターがついているけれど、こちらはあまりあてにしない方がいいとの事。

「ん、随分と簡単に釣れるのね」

「魚がすれていないからね。でもお楽しみはこれからよ」

 松戸がにやりと笑うとほぼ同時に、竿が大きく動いた。
 引っ張られ動きそうになる綾瀬を、松戸が抱きかかえる。

「佐貫はそのまま今の場所を維持して。美久、糸が引っ張られている時はそのままでいい。でも少しでも緩んだら思い切り巻き上げて。他の人は動かないで。場合によっては、このボートでも不安定になる位に引くから」

 俺は空中で位置はそのままに、綾瀬の方を見る。
 綾瀬の小さな体が時に後ろの海面に引きこまれそうになるのを、松戸が長い脚でボートの出っ張りに足を引っかけて支えている。

 しかし俺が引っ張っていないと、ボートごと引っ張られそうな勢いだ。
 一体どんな魚がかかっているんだろう。
 様子から、相当な大物だとは思うけれど。

 緊迫した時間の後、松戸がたも網で海面から上げたのは、新聞1面分位の面積がある巨大な銀色の魚だった。
 形は鯛に似ているが、雰囲気はブリとかそういう魚に近い。何だこれ。

「松戸、その魚は」

「ギンガメアジの一種よ。ロウニンアジか何か。うーん、これ食べれば美味しいんだけど、たまにシガテラ毒あるんだよね」

「ん、天眼通で見たら大丈夫だって」

 委員長が判定してくれる。

「じゃあまず一匹目、確保ね」

 松戸はそう言って、巨大魚を何処へともなく消した。

「あれ、ユーノ、どこへお魚を入れたの」

「とりあえず、実家の魚用冷凍冷蔵庫にしまったわ。今は何も入っていないみたいだし、血やうろこなんかが飛び散っても問題ないから」

 松戸家は色々装備が充実している様だ。
 そしてやっぱり不憫だ。

「さて、もう少し釣りたいけれど、次にやりたい人いるかな」

「はいはい私です」

 守谷が志願する。

 ◇◇◇

 結局様々な魚を綾瀬、守谷、委員長で釣りあげた。
 毒も問題なしとのことで、全部キープ。

 帰ってきたら、太陽はだいぶ傾き、日差しが斜めになっていた。
 ここからは綾瀬と松戸のお料理タイムとのこと。
 俺を含む3人は、トレーラーの思い思いの場所で休憩に入る。
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