ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第3章 神聖騎士団の襲撃

20 委員長も吸血鬼も勝てない攻撃

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 部屋を出た瞬間、突如色々な情報の群れが俺を襲った。
 色々と見えるし、色々感じられる。
 今までの俺には無かった感覚だ。

 どうも保健室の中は色々障壁シールドがかかっていたようだ。
 だから出た途端、それらの情報が感じられたのだろう。

 ちょっと考えると、理由がすぐ浮かんでくる。

『能力、天眼通、物事の本質や経緯等を見る事が出来る能力』

 これはと考えて思い当たった。そう、委員長の能力だ。
 俺が委員長から吸血した際、委員長の能力の一部を取り込んだようだ。
 とすると、委員長自身の能力は大丈夫だろうか。気になる。

 委員長の事を考えると、自然に今の居場所とか何をやっているのかがわかった。
 校庭の体育館脇。俺達がトレーニングを開始する時のいつもの場所で、ストレッチをしている。
 こうやってわかるのも、天眼通の能力のようだ。

 俺は廊下を通り、ゆっくりと階段を下りて、いつものルートで歩いて行く。
 天眼通で見た通り、委員長はそこにいた。

「訓練中?」

 声を掛ける。

「ん、大分限界が上がったからね。慣れないと、この体を使いこなせない」

 委員長も俺に気づいていたらしい。

「それで委員長の能力そのものは大丈夫か。何か俺も取り込んだらしいけれど」

「ん、弱まった能力は無いよ。逆に色々強化されて、ちょっと慣れない感じかな」

 委員長の能力を奪ってしまった訳でないようだ。
 なら良かったと一安心。

「あまり無茶するなよ。死にかけたばかりだろ」

「ん、無茶したのはお互い様でしょ」

 委員長にあっさりそう言われる。
 確かに否定はできない。

 でもまあ、場の勢いとかそういうものがある訳で……
 確かにお互い様だな。

「それにしても、これから佐貫、集中的に狙われるね」

 えっ、俺は思わず委員長の顔を見る。

「ん、騎士団とビーストの関係。私も一応知っているし、馬橋先生にも言われたよ。近くにいるつもりなら覚悟しておけって」

 そうか……俺は気づく。

「これからは別々に行動した方がいいかもな」

「ん、何で」

 委員長が聞き返す。
 わかっているのに聞き返してくる。
 でも、あえて言う。

「神聖騎士団は、俺を集中的に狙って来るんだろ。近くにいて巻き込みたくない」

「でも佐貫一人の方が危ないじゃない。悪いけど、まだ私の方が強いと思うよ。大分パワーアップしたし」

 否定できない自分がちょっと悲しい。

「だから諦めて、当分は一緒に訓練しよ。それに騎士団も結構戦力出したから、大分弱体化している筈だし。だからそっちは当分大丈夫」

「そうだね。さしあたって大変なのは明日の学校かな」

「同意」

 不意に、この場にいない筈の声が2人分聞こえた。
 俺も委員長も、思わず声の方へ振りかえる。

 見覚えのある2人が、体育館との渡り廊下の屋根に腰掛けていた。
 片方は一見中学生にも見える小型小柄。
 もう片方は長身白衣だ。
 こっちが2人を確認したのを認めた次の瞬間、俺達の目の前に出現する。

「何でここに」

 一応言い訳は聞いておこう。

「意識さえしていれば、同じ空間に起きた出来事をリアルタイムで把握できる。佐貫が保健室を出たのがわかった」

「この学校の周辺は、安全のため見張っているからね。この通り」

 松戸の背後で、見覚えあるドローンが上下したのが見えた。

「それで今回の目的は?」

「忠告と興味と出歯亀根性よ」

 松戸が変な単語を口に出す。

「だってあんなにアツアツな念話の後の再会だしね、気になるじゃないの。あの『私を食べて』とかの後だしさ」

 え、まさかあのやりとり……
 松戸が、ニヤニヤしながら解説する。

「念話は、声より遠くから聞こえるんだよね。私にも聞こえたから、みらいちゃんとか遠隔通話能力がある人ならもう全部聞こえているわよ、あれ」

 委員長の顔が真っ赤になった。

「少なくとも私とユーノ、あとみらいには聞こえた筈」

 綾瀬まで、そんなダメ押しをしてくる。
 ちなみにユーノというのは松戸の名前だ。松戸夕乃。

「あと神立先輩は、キャッキャ喜んだり恥ずかしがったりしていたね。柿岡先輩は逆に渋い顔していたかなあ」

 おいおい。
 その2人に知られるのは、かなり不味い事態だぞ。
 明日どんな顔をしてお茶会に行けばいいんだ。
 特にシスコンの柿岡先輩に、どんな目にあわされることか……

「ちなみに私達以外で真っ先に駆けつけたのは、柿岡先輩と神立先輩の2人だからね。それと2人が連れてきた馬橋先生」

「発見状況も悪かった」

 綾瀬の言葉に松戸が頷く。

「あれは、なかなかスキャンダラスな格好だったわよね。何せ抱きしめてディープキスして、失神している現場でしょ。秀美は抱かれて恍惚としているし。5人で保健室に運んできたけれどさ、他に目撃者が無かったとは言えないなあ」

 松戸! 
 何かお前完全に性格変わっているぞ!
 そう思考を逃がしても、現実は逃げてくれない。

「という訳で佐貫君に質問。秀美ちゃんのあのアツアツな告白を受けて、どうでしたでしょうか。今の気持ちと今後の抱負をお聞かせください」

 松戸はぐいぐい攻めてくる。

 こうなったら奥の手。三十六計逃げるにしかず。
 と思った瞬間、退路を綾瀬に遮られる。

「逃亡不許可。でも駆け落ちなら、面白いから許してもいい」

 綾瀬、お前もそんな性格だったか?

「私と美久ちゃんの能力を知っていれば、逃げられるかどうかはわかるよね」

 松戸はそう言ってにやりと笑う。
 唯一の味方である委員長は、顔を赤くしてうつむいているだけだ。
 吸血鬼の戦闘能力も、ここでは役に立たない。

 頼む、誰か、助けてくれ!
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