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第3章 神聖騎士団の襲撃

18 委員長の決断

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 少しだけ意識が戻る。
 身体が揺れる感覚。
 そして暖かな感触。

 俺は委員長に背負われていた。
 おいおい、何なんだ。

 何故か動く事が出来ない。
 声すら出せない。

 委員長は俺を背負って走っている。
 しかし委員長でも、俺を抱えて速い速度で走るのは無理っぽい。

 訓練後で体力も残っていない。
 何とか歩くより少し早い速度で移動中、という状態だ。

「ん、意識が戻ったかな。今歩きながら回復術をかけているの。聞こえる?」

 意識は何とかあるが、言葉が出ない。
 しかし俺のそんな状態は、委員長に伝わったらしい。

『意識があるようだから説明するね。あと念話のチャンネル開いたから思うだけで会話は可能だよ』

『委員長、逃げろ』

 こんな速度では、敵に追いついて下さいというようなものだ。
 委員長だけなら走れるだろう。
 そして委員長の足なら、ここから五分程度で学校まで戻る事が可能だ。

『ん、駄目だよ。そうしたら確実に佐貫を置いていっちゃうじゃない。それは私としてあり得ない選択だね』

『そう言っている場合じゃないだろう。とにかく委員長だけでも逃げて、学校へ知らせないと』

 俺の身体は動かない。俺の意識では動かない。
 目を開けるのがやっとの状態だ。

『ん、学校側も気づいているよ。敵が術を使ったからね。でも応援はすぐには来ない。瞬間移動が出来ないように敵側の術がかかっているから』

 委員長は状況を説明してくれる。

『さっきの侵攻の際、反対側の遠いゲートから、隠蔽術をかけたまま侵入してきた敵がいたんだと思う。隠蔽術以外は一切使わないで歩いてきたから、みらいや三郷先輩、校長のレーダーにも引っかからなかった。それがたまたま空を飛んでいた私達に見つかって、戦闘を仕掛けてきた。そんな感じ』

『だったら余計に早く逃げてくれ。俺はそう簡単に死なないから』

『ん、吸血鬼も東洋龍も、殺し方によってはあっさり殺せるんだよ。それにね、佐貫は私が回復術をかけ続けているから意識があるだけで、さっきの術でいわゆる気力をほとんど失っている状態なの。だから置いておいたら意識失って最後って感じだよ。それにね、もう……』

 広い道路同士の交差点のど真ん中で委員長は足を止める。

『囲まれているの。逃げるのはちょっと、無理かな』

 俺達を囲むように景色にもやがかかった。
 それが薄れると、上下ともに白装束の男達の姿が明らかになる。

 俺達を囲むように8人。
 そのうち背の高い1人が不気味な笑いを浮かべた。

「見つかった時はどうなるかと思ったが、まさかいきなりビーストに出会えるとは。実に大司教様の御言葉の、何と正しくも御力あらたかなることか」

 わけのわからない事を言っている。

『ごめんな、最初から無理しても、1人で逃げて貰っていれば』

『ん、最初の時点で逃げられる可能性はほぼ無かったんだよ。だから私はここに来たの。この出来るだけ広くて足場のいい場所に』

 えっ、何だって。

 視界の方では相変わらず白装束のおっさんが両手を上に広げ、ラリっているかのように喋っている。

「おお、悪龍に力を与えられし憎きビーストよ。この悪しき存在を、我らが手で討ち滅ぼす事が出来る事を大いなる存在に感謝致します……」

 そっちを全く無視して、委員長が念話を送ってくる。

『今のうちに謝っておくね。ごめんね、そして今までありがとう。私には佐貫が助かりそうな手段、ひとつしか思い浮かばない。これからやる事は私の意志。だから自分自身に文句は言わないでね』

『おい、待て委員長何を……』

 俺自身の意識が、視界が、感覚が一気に途切れた。

 ◇◇◇

 血の臭い。意識が戻ったのはその臭いのおかげだった。
 吸血鬼の本能だろうか。

 目を開ける。
 俺は血まみれの誰かを抱きかかえていた。
 それは……委員長!

「委員長、大丈夫か」

『ん、良かった、意識が戻ったんだね。ならもう佐貫は大丈夫』

 ちょっと待て、その言葉の真偽はともかくだ。

『委員長の方こそ大丈夫か。大分傷が酷いぞ』

 ただ見える傷の数の割には、出血量は少ない。
 だから、ひょっとしたら大丈夫かな、という思いがかすかに俺の頭の中にある。

『ん、まず良いニュースから行くよ』

 委員長の口調、いや念話は妙に明るい。

『敵は全員撃破しました。さすが佐貫の身体の本気は凄いね。この前以上の全力で操ったんだけれど、操作するだけでも私の能力の限界だったよ。でもまあおかげでこのとおり、敵はもういません』

『それで悪い方は!』

 凄く嫌な予感がする。

『ん、私の状態。意識があるうちは術だの色々な方法で出血を止めておけるけれど、そろそろ限界かな。多分あと3分持たない。意識が切れるとほぼ同時にゲームオーバー』

 そんな悲惨な内容は、あっけらかんとした感じで語られた。

『何か方法は無いのかよ。学校側も気づいているんだろう』

『ん、学校側も必死でこっちに向かっているよ。でも私の天眼通によると、あと一歩で間に合わない計算です。という事で私は死亡確定。予想通りの結果なんだけどね。そこで佐貫に私の最後のお願いです』

 待て、そこで勝手に諦めるな!

『何だよ。委員長おまえが助かるなら何でもするから早く言え』

『残念、私はもう助かりません。それで最後のお願いというのは、どうせ死ぬなら私を有効活用して下さい、というお願いです』

 何だそれ!
 そう思うが委員長の状態は確かに悪い。
 とにかく話を聞くのが先決だ。

『何だよ、早く言え』

『ん、私を食べて下さい、というお願いだよ。ただここで死んじゃうだけなら、せめて佐貫に有効活用して貰いたいなと思って。そうすれば佐貫の中で、私が生きている気分になれるじゃない。具体的方法を言うと、私の首筋に口を近づけてみて。それで本能的にどうすればいいかわかると思う。佐貫の全力を借りた時に色々データを見てわかったんだ。という訳でお願い、意識をこれ以上持続させるの、結構苦しいんだから』

『本当に助かる方法は無いのかよ』

『ん、全部私自身承知の上。囲まれた時点で、この方法しか無いのがわかっていたんだ。だから最大限に佐貫の身体能力が生かせる場所へと移動した。結果佐貫は助かった。全部私の予定通りだよ。そういう訳で、私もそろそろ限界です。佐貫も覚悟を決めましょう』

 本当に助ける方法は無いのか。
 俺にはわからない。委員長もそれ以上言ってくれない。
 そして時間は刻一刻と委員長を削っていく。

 だから俺は委員長の言う通り、首筋に口を近づける。
 確かに本能が俺にやり方を教えてくれた。
 俺の口内に精神的な刃が伸びる。
 吸血鬼が血を吸う、その牙だ。

 実際に吸血鬼が吸うのは血では無い。
 相手の意志とか経験とか知識とか思いとか、そういった精神的なもの。
 俺の牙がゆっくりと委員長の首筋を襲う。

 俺の中に暖かい何かが流れ込んでくる。
 これは、確かに、委員長だ。

『ん、何か気持ちいいね。ちょっとエッチな気分かも。ありがとうね……』

 そして俺の脳裏に、俺のある能力が流れ込んできた。
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