ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第3章 神聖騎士団の襲撃

16 それは警報音から始まった

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 7月半ばの放課後。
 いつもの狐と狸先輩の部屋で、例によってまったりお茶会中だ。

 ただ前と違って、メンバーが1名増えている。
 他でもない松戸だ。

 何故こうなったのかは、今考えても良くわからない。
 綾瀬と松戸が何か仲良くなって、そしてこうなったとしか言い様がない。

 委員長はもとより、狐狸大先輩も普通に自然に受け入れてしまっている。        
 まあ俺も、文句を言う気は無いのだけれど。

 なお松戸の白衣姿は相変わらずだ。
 もう見慣れたから、別にいいけれど。

 最近は綾瀬や松戸が、おやつの差し入れを交互に追加で持ってくる。
 これが実は、結構美味しい。

 松戸はカップケーキとかマフィンとかスコーンとか、焼菓子関係。
 綾瀬はプリンとかタルトとか、まあ色々だ。

 どっちも手作りだが、結構美味しい。
 まったく訓練に行きたくなくなるように、後を引く美味しさだ。
 本日は綾瀬作の水ようかん。
 さっぱりとして自然な甘みで、やっぱり美味しい。

「さて、そろそろ第一の暴走車が来る頃だね。秀美の方は準備は出来ているかい?」

 暴走車って何だ!? 一瞬考えて、そして思い出す。
 大狸先輩が俺の運命というか運勢を説明した際、暴走車がやってくるという例えを使ったのだった。
 しかし第一と言えば、この間の……

「第一の暴走車って、もう来たんじゃないの?」

 委員長の言葉に、俺は頷く。
 松戸が世界を壊そうとしたのが、第一の暴走車事案ではなかったのだろうか。

「何があったのかについては、僕は関知していないけれどさ。もし何かあったとしても、それは暴走車とはまだ別の事案だね。暴走車は、佐貫君を見つけて狙ってくるんだ。そちらの事案は、佐貫君を狙ったものだったかい」

 そう言えば、確かにそう言っていたなと思い出す。
 委員長も気づいたらしい。

「ん、確かに佐貫を狙ったものじゃなかった。なら、危険が近づいているの?」

「ああ」

 大狸先輩は頷く。

「ついでに言うと暴走車は3台か4台だね。そして最初の時期は、秀美が視た通り、あの時の3ヶ月後、つまり、そろそろだよ」

「お兄にはもう、内容は見えているの?」

「いいや」

 大狸先輩は首を横に振る。

「内容を見た結果、悪い内容に未来を固定してしまうとまずいからね。だから内容や結果は見ないようにしている。今言っているのは、見なくても感じてしまう部分だけさ。ついでにいうと3台か4台というのは、まだ未確定という意味だ。味方になるか最悪に近い敵になるか、あと2ヶ月もすればわかるとは……」 
 
 そう話している最中だった。

 ウー、ウー、ウー……
 明らかに不吉な音のサイレンが、鳴り響き始めた。
 ふっとテーブルを囲む面子の表情が変わる。

「警報、それも襲撃か」

「先行っているね」

 それら言葉と同時に、先輩2人の姿が消えた。
 何処かへ瞬間移動したらしい。

 移動間際に食べたのか、柿岡先輩の分の水ようかんの皿が空になっている。
 さすがデブ。

「ん、私達も行くよ」

 委員長が立ち上がった。
 そのまま委員長に言われるがままについていく。

「今のは」

「敵襲のサイレン。最近は滅多に鳴らなかったんだけど」

 小走りに廊下を走りながら委員長が説明する。

「こういう学校だから、狂信的な団体とか、軍備拡大を目論む勢力とかが、襲撃してくる事がたまにあるの。でも最近は3年前に小規模なのが1回あったきりなんだけれどね」

 状況は理解した。
 前にも、そんな話を聞いた気がするし。

「それで何処へ向かっているんだ」

「指揮所。普段は視聴覚室として使っている3階の部屋よ。本当は生徒は体育館に集合するんだけれど、いざという時に備えて、ある程度以上戦闘力がある生徒は指定戦闘補助員に指定されているの。お兄や神立先輩は勿論指定補助員だし、私もそう」

「俺達は」

 そんなものに指定された覚えはない。
 少なくとも俺には。

「3人ともそれなりの実力はあるでしょ。だから取り敢えず私の独断で連れて行く」

 階段を走り降りると、もう視聴覚室は近い。
 視聴覚室に入ると、既に十数名の生徒が集まっていた。
 教師も数名来ているようだ。
 校長の姿も見える。

「あれ柏さん、その生徒は……」

 普段は保健担当の馬橋先生が、ほんのちょっとそう言いかけ、そして頷く。

「うん、わかったわ。確かに戦力になるわね。じゃあ左側の前から3列目に座って」

 馬橋先生は招集した生徒を確認しているようだ。
 その間にもひっきりなしに生徒が入ってくる。

『戦況連絡、侵入容疑は4車両。主力部隊は神聖騎士団の原罪なき者13体。他に術者2、補助員2。現在西北西7.0km、九王寺バイパス第2トンネル付近。次いで指令、Aブロックの児童生徒優先で保護開始。避難誘導要員は直ちに展開、夜ノ森先生の指示に従って活動を開始願います……』

「今のは?」

 聞き覚えがある声だ。厳密には声では無いけれど。
 これは確か、クラスメイトの……

「ん、みらいちゃんだよ、うちのクラスの。あの子は広範囲念話とか広域情報処理能力を持っているの。だからここで指揮管制をやっている訳。隣の三郷先輩もそう」

 そんな能力、どんな妖怪とかが持っているのだろう。
 しかし今は、そんな疑問は後回しだ。

 馬橋先生がこちらにやって来た。

「松戸さんと綾瀬さん。2人とも瞬間移動は使えるわよね」

「はい」

 松戸の返答と同時に、綾瀬も頷く。

「じゃあこっちの避難活動を手伝ってくれない。放課後だから、児童や生徒が散らばっちゃっているの。指定要員だけでは間に合わない可能性があるから。行動や座標はその都度指示するわ」

「わかりました」

 やはり松戸の返答と同時に綾瀬が頷く。

「じゃあお願い。早速でごめんね」

「大丈夫です」

 松戸のその言葉とともに綾瀬、松戸とも姿を消した。
 何かもう、凄いな。

「馬橋先生はまあ、綾瀬と似たようなものね。ただ経験値が大分違うから、見るだけで相手の能力を判断したり出来るの。今はここに招集した生徒を含め、高校全体の人員把握をやっているわ。多分体育館の方にも分身を出している筈よ。どっちが本体かはよくわからないけれど」

 委員長の説明で、大体の様子はわかった。

『銃撃部隊1準備完了です。配置の重機関銃2。指示願います』

 この声は知っている。神立先輩だ。

『銃撃部隊1、了解です。目標は谷戸入口から都道20号線に入りました。現在20号線を東へ40km/hで走行中。野塩街道ポイントBにて射撃願います』

「神立先輩は風を操る妖術を使えるから、銃の弾をその都度位置修正をかけて当てる事が出来るの。今は狐の後輩と一緒に屋上で重機関銃を構えている筈よ」

 重機関銃って、12.7mmの事だろうか。
 バリバリの現用武器だ。

「そんな武器まで、この学校にはあるのかよ」

「ん、でもうちの装備だとM2までだよ。それ以上強力な装備は、さすがに自衛隊も貸与してくれない。それに敵も化け物が多いから、銃弾を避けたりもするしね。結局格闘戦になる事も多いかな」

 おいおいおい。何だその化物。

 でもまあ、考えてみれば、こっちの中身も化け物だらけだ。
 確か担任の取手先生も、比喩ではなく鬼だと言っていたし。

 ん、待てよ。まだ聞いていない事があった。

「そういえばこの敵って、何者なんだ」

「ん、そうだね。色々いるんだけれど、今回の敵は神聖騎士団。昔の十字軍の神殿騎士団テンプルナイツの流れを引いている、と自称している連中よ。神が作られた正しい人間以外の存在は悪魔だとして、この学校にいるような存在を敵視している訳」

 なるほど。

「要は狂信者みたいなものか」

「ん、みたいというかそのものね。ただ戦力としてはちょっと厄介かな。原罪なき者とかもいるし」

 そう言えばさっき原罪なんちゃらも聞いた。

「その原罪なんとかって、何だ」

「ん、原罪なき者よ。要は狂信者の中から希望者を募って術式で人体改造した存在。外見は人間なんだけれど、人間としての自我も記憶も意識も、全て失っちゃっている。単に自分達の敵を滅するだけの存在。ただ強いよ。単なる格闘戦だけなら私でも1対1で勝てるかどうか」

 何だよそれ。
 委員長より上って、それは……

「めちゃくちゃ強いじゃないか」

「ん、でも先生方とかお兄とか神立先輩なら敵じゃないよ。それに自我がない分動きが単純だし。ただ数が多いし術者と組まれると厄介かな」

 強さがインフレ化している気がする。
 そう思った時だ。

『まもなく銃撃目標地点』

『了解』

 その返事の僅かに後。
 連続した轟音とともに、建物が揺れたような気がした。
 窓ガラスがミシミシ音を立てている。
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