ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
9 / 78
第1章 高校生活は暗闇で

9 ボロ雑巾の作り方

しおりを挟む
 残念ながら俺の願いは届かなかったようだ。
 誰も助けに来ないまま、特訓は始まってしまった。

「じゃあまず軽くランニングから」

 ちっとも軽くなかった。
 実業団のランナーを煽るような速度で、30分引っ張り回される。

 次はフルコンタクトで、格闘戦の実戦練習。
 開始直後は最初は委員長といえど女の子、見た目にも何だし、組んだり戦ったりしていいのかなという遠慮があった。
 しかし始めて10秒以内に、俺は本能で悟った。
 本気で行かないと俺が死ぬと。

 結果、開始30分でもう俺、ボロ雑巾。
 吸血鬼ハイブリッドにも、体力気力ともに限界はある。
 打ち身だろうと骨折だろうと数秒で治る、この体が逆に恨めしい。
 疲れと痛みが無い訳ではないのだから。

「じゃあ、ちょっと休憩しようか」

 委員長のその言葉を聞いた途端、もう倒れそうになる。
 何とか倒れず、その場にべたっと腰を下ろして休憩だ。

 服は一応、運動用のスウェットに着替えている。
 倒れたり何だりで、既にボロボロだけれども。

 反対に委員長のグレーのカプリパンツとかピンクのパーカーは、全然汚れていない。
  本人も軽く汗をかいた程度だ。

 彼女はバッグからボトルを取り出して蓋を開ける。

「ん、飲んで。その方が少しは楽になるし」

 お礼を言う気力は無いが、ありがたくいただく事にする。
 飲んでみると、冷えたちょっと薄めのスポーツドリンク。
 喉にすっと入って気持ちいい。

 ちょっとだけ、気力が戻ってきた。
 ちょっとだけだ、あくまで。

「ありがとう」

 ボトルを委員長に返す。

「それにしても委員長、強いな」

 まごう事なき俺の実感だ。

「ん、まあね。積み重ねた時間の差だよ」

 彼女はそう言って、俺から受け取ったペットボトルをそのまま口へ。
 おい、間接キッスだぞ、とは言わないけれど思ってしまう。
 委員長は気にしていないようだけれども。

 というか、こう見るとやっぱり委員長、可愛い事は可愛い。
 今のパステルカラーの格好も似合っている。
 運動能力や格闘能力は鬼だけれど。

 腕も足も特に太いとか筋肉という印象は無い。
 中肉中背、胸はちょっと大きめかな。
 とにかくどう見ても普通の女の子にしか見えない。
 見ただけなら。

「ん、でも佐貫君、思った以上に健闘しているよ。とりあえずこのメニューに、初日からついて来ているもの」

 ついて行けてません、死にそうです。
 それが俺の本音だけれど、勿論口には出さない。

「半年前に、うちのクラスの勝田君、虎男なんだけれど一緒に訓練したいと言うからね。同じように一緒に訓練をしたんだけれどね。体力に自信があるって言うから、大丈夫だと思ったんだけれども、最初のウォームアップのランニングでもうバテバテ。格闘練習を始めて5分で倒れて気絶しちゃった。それを思うと佐貫君は凄いと思うよ」

 いや、その虎男勝田君がむしろ普通なのだ、間違いなく。
 それにネコ科の動物は瞬発力系で、持久力は無いって言うし。
 人外や妖怪に通用するかは不明だけれども。

「ん、休憩はあと3分。後はクールダウンのランニングだけだから」

 えっ、あと3分?
 それにランニングだけ、というのも怪しい。
 何せウォームアップのランニング、いきなり全力疾走に近い状態だったし。
 そう思いつつも、取り敢えず俺は全力で休憩に専念する。

 ◇◇◇

 クールダウンのランニングは、本当に普通のランニングだった。
 最初のウォームアップで慣れた、というのもあるのだろうけれど。
 何というか、予想外だ。

「ん、ゆっくりな分、足や体の筋肉を色々意識してね」

「了解」

 話しながら走る余裕がある。
 なのでちょっと委員長に聞いてみる事にした。

「そう言えば委員長の能力って何なんだ。やっぱり格闘とか肉体強化の方なのか。言いたくなければ言わなくてもいいけれど」

「ん、別に隠すことも無いし大丈夫だよ」

 そう言って委員長は説明を始める。

「私の場合は典型的な狸型かな。どちらかというと術主体の。具体的に言うと精神操作系統色々と、あと天眼通ね。
 精神操作はまあ、そのままの能力。欺瞞とかから始まってある程度表層思考をコントロールしたりも出来るかな。まだ完全じゃ無いから言語化した思考で無いと読めないけれどね」

 トレーニングした限りでは、完全な肉体言語系としか思えないのだけれど。
 委員長の説明は更に続く。

「あと対象がそれを許せば、乗っ取って完全に私の操作で動かす事も可能だよ。まあこれは相手が受け入れてくれる場合しか使えないから、使いどころがない能力だけれども。天眼通はお兄の慧眼通の一歩手前の能力。物事の性質がわかったり隠された事象に気づいたりする能力。慧眼通みたいに能力の強制解放とか、事象を操作する能力は無いけれどね。特殊な能力と言えばそんなところかな。お兄に比べるとまだまだってところね」

 柿岡先輩の事を尊敬しているのは変わらないようだ。
 さっき喧嘩したばかりなのに、

 あと、今の説明で気になった事を確認しておきたい。

「肉体強化は特にしていないんだ」

 今まで鍛えていなかったとは言え、仮にも吸血鬼ハイブリッドである俺が、死ぬかと思うような訓練だったのだ。
 だから何らかの身体強化をしている可能性は、充分にあると思うのだけれど。

「ん、身体強化はやろうと思えば出来るけれどね。でも、今の私は使っていないよ。強化に頼ると格闘技術とかがおろそかになるからね。格闘技術はあくまで技術メイン」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

鋼殻牙龍ドラグリヲ

南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」  ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。 次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。  延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。 ※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。 ※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...