ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第1章 高校生活は暗闇で

7 警報出まくり運命予報

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「そう言えばここは特殊な学校ですけれど、お二人はどんな存在なんですか」

 よし、聞いてみた。
 しかし聞いて大丈夫だっただろうか。

 今のところ、特に緊張感等は生じていない。
 先輩2人が、少しだけ驚いたような顔をしただけだ。

「何だ、何も話していないのか、秀美は」

「今日転入して、そのまま連れてきたから。紹介冊子を見れば書いてある事だし」

 どれどれ。僕は鞄から冊子を取り出す。

「ここって『TRICKSTARS』でいいんですよね」

「そうだよ」

 柿岡先輩が先輩が肯定。
 ならばという事で、部活紹介の『TRICKSTARS』のページを開く。
 3ページ目に掲載されていた。

『TRICKSTARSは、主に狐と狸、狢等の妖力を使える動物系妖怪の研究会です。妖力・魔術及び格闘術の訓練を毎週1回ずつ行っています……』

 何か凄く納得がいった。見た目でも納得がいった。
 つまり神立先輩は狐で、柿岡先輩と委員長は狸だ。

 柿岡先輩はもう見た目からして狸だし、委員長も確かに狸顔だしな。
 そう思った瞬間だ。

 痛えっ! 左首筋に鈍痛を感じた。

「ん、何か失礼な事考えたでしょ、今」

 委員長の右手がチョップの形になっている。
 どうやら、あれが俺を襲った模様だ。
 委員長、勘が良すぎる。

「秀美、少しは言葉より手が先に出るのを直したらどうだ」

「大丈夫、佐貫君は殺しても死なない体質だし」

 どうやら委員長、確信犯のようだ。
 何も紹介していないのに、既にその辺は承知済みらしい。

 流石妖怪学校の委員長、見た目以上の強者だ。
 神立先輩が、それを見て笑っている。

「そういう訳で、私は狐の妖怪、柿岡君と秀美ちゃんは狸の妖怪って訳。この学校には結構狐や狸系は多いわよ。あわせて大体2割かな」

「学校には他に天使系とか堕天使系、吸血鬼とか狼男、虎男なんてのもいる。妖精や精霊系統もいるし、人間の魔術師や超能力者もいる。もちろんその混血もいるし、まあ色々だ」

「ただ遺伝子的には皆人類ではあるのよね。調べた限りでは、遺伝子的には、いわゆる普通の人間と違いは無いらしいわよ、交配も可能だし」

 交配可能、って言葉に思わず俺はどきりとする。
 特に美人の先輩に言われると、微妙に生々しい。
 実年齢は多分、俺の方が上なのだけれども。

 なお他の人は、特に反応していない模様だ。
 なので俺も一応、反応した様子は見せないようにしておく。

「うーん、5人で割るとチーズケーキも少ないな。朱里、おかわりない?」

「お兄、食べ過ぎ!」

 よく見ると委員長、今の台詞とほぼ同時に、例のチョップを柿岡先輩にも繰り出している。
 そして柿岡先輩は、委員長のチョップを肘で何気なく捌いているのだ。
 なるほど、あれが見本という訳だな。
 今後の参考にしよう。

「残念だけれど今日のデザートはこれまでね」

「そうか……」

 その台詞の後にも、委員長と柿岡先輩の攻防戦は繰り広げられている。
 今回も柿岡先輩が、委員長のチョップを捌くのに成功した模様だ。
 兄貴分だけあって、委員長より一枚上かそれ以上らしい。

「さて、佐貫君の場合だが……」

 さて、俺の場合はどんな感じだろう。
 そう思ったのだが、柿岡先輩は微妙に言い淀んでいる感じだ。

 少し間を置いた後、先輩はふっと息をついて、そして口を開いた。

「彼の場合は、慧眼通は使わないで話そう」

「ん、何で、お兄?」

 柿岡先輩の方を見た委員長に、柿岡先輩はまた、ふっと息をついてから返答する。

「後で説明するよ」

 何かいやな予感がする。
 そういえば先程、『問題の少ない綾瀬』と言ったのだったと思い出す。

 つまり俺の場合は、色々問題があるという事のようだ。
 その問題が何か、今の俺にはわからないけれど。

「さて、佐貫君の能力系統そのものは簡単、吸血鬼と龍神の混合だ。ただこの組み合わせは、相当に相性が悪い。確かにどちらも強い力を持つ種族だが、あらゆる面から見て、位相が逆だ。西洋と東洋、善と悪、光と闇といった感じで」

 やはり母は龍だったようだ。
 そして確かに、吸血鬼と龍神では色々と違い過ぎる気がする。
 違うというか、組み合わせ的に良くないというか。

「だから、特殊能力を発揮できるようになるのは難しい。相当な訓練か、もしくは何かのきっかけが必要だね。僕の慧眼通でも、強制解放は無理だ。ただし潜在能力そのものは、間違いなく高い。もし力を完全に解放できれば、能力的には万能に近いものとなる筈だ」

 なるほど、単に紙に書いてある能力を試してみる位では、使用できるようにならないという事か。

「ただ現時点でも肉体的には強靱だ。常人の2倍以上の筋力がある上、生命力と回復力がけた外れに高い、戦車砲が直撃しても、1時間もあれば完全蘇生出来るだろう。ついでに寿命も400年程度は余裕だ」

 22口径の拳銃など屁でも無い、って事だ。
 結構痛かったのだけれども。
 実際、蘇生能力以外はほぼ試して、確認済みだ。
 本当に死んだらまずいし痛いので、蘇生能力は確認していないけれど。

 柿岡先輩は何故か軽くふっと息をついて、軽く頷いた。
 何だろう。先程の慧眼通の発動のような気配は、感じないけれど。

「さて、ここからが本題だ。もしも運命に天気予報があるとすれば、佐貫君の場合は警報だらけだ」

 それって、どういう意味だろうか。
 不幸がひたすら押し寄せるという事か?

「例えるなら、そうだなあ……。佐貫君は交差点で、他の人とともに信号が変わるのを待っている。そこへ佐貫君を狙った暴走車が何台か接近してきている。今見たところ、3台か4台。そんな状態だ」

 それって、かなり危険という意味ではないだろうか。

「佐貫君自身は、あまり心配しなくてもいいんだ。君はその気になれば、その身体能力で車を避ける事が出来る。車が来る前に、交差点から逃げたりする事も出来る。無論今のままの能力では無理だが、この学校でそれなりに訓練すれば、何とかなる可能性は高い」

 なるほど、俺自身は・・・・あまり心配しなくていい訳か。
 なら、今の言葉の意味するところは、つまり……。

 俺がそれを口にする前に、委員長が口を開いた。

「なら佐貫君が逃げた場合、他に交差点に居た信号待ちの人は、どうなる訳?」

「それは佐貫君には関係ない。事故が起きたとしても、責任は暴走車の運転手にある。違うかい、秀美」

 柿岡先輩はあっさりと、そう答えた。
 確かに責任という意味では、その言葉は正しい。
 しかし……

 柿岡先輩は、更に続ける。

「今は交差点に佐貫君が到着して、暴走車の運転手達に見つかった状態だ。だから佐貫君が判断するのは、それ以降どうするかについて。接近してから逃げ出すか、今すぐ逃げ出すか」

「交差点の他の人は」

「それは佐貫君の責任じゃない」

 委員長の質問は、さっきと同様に返される。
 更に委員長から手刀が放たれた。
 柿岡先輩はごく自然に、それを捌いたけれど。

「そういう事だ。ここにいる5人位の能力があれば、暴走車を避けたり逃げたりするのは可能だろう。しかし、交差点にいる全員を、そこまで鍛えるのは不可能。それに事故は、あくまで暴走車の運転手の責任だ」

「その事故を防ぐ事は出来ないの。例えばお兄の慧眼通で何とかするとか」

 今度は委員長、台詞とともに左足で柿岡先輩を攻撃。

「慧眼通は使わない。ついでに言うと、僕自身も関わる気はない」

 柿岡先輩は、平然とそう言い放った。
 委員長が体勢を崩したところを見ると、今の委員長の攻撃も失敗したのだろう。
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