ハイブリッド・ニート ~二度目の高校生活は吸血鬼ハーフで~

於田縫紀

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第1章 高校生活は暗闇で

5 怪しい世界でお茶会を

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 そんなこんなで、授業が終わった午前3時5分。
 委員長に連行された俺と綾瀬は、廊下を歩いていた。

 ここは掃除当番は業者が入るようだ。
 なので6限の授業終了がそのまま放課後になる。

 個人的にはさっさと帰って、惰眠を貪りたいところだ。
 だから俺は逃げようとしたのだ。
 3人で廊下に出た瞬間、委員長の隙をついて一気に廊下ダッシュ! して。

 しかし瞬時に委員長に追いつかれ、腕を掴まれた。
 委員長、瞬発力も走力も腕力も、男で吸血鬼ハイブリッドな俺より圧倒的に上の模様。

「いや掴まないでくれ痛いから」

 無茶苦茶腕が締め付けられて痛い。
 委員長、握力も俺以上だ。

「ん、もう逃げない?」

 委員長はあくまで笑顔だ。
 そんなに力を込めているように見えない。
 しかし俺の腕は、明らかにヤバい痛みを発している。

「逃げないから」

 この痛みから逃れる術は、他にはない。
 だからこれは、俺の苦渋の決断だ。

「ん、わかった」

 やっと委員長は俺の腕から手を離た。
 そして俺の右腕に残っている、思いきり赤く手形。

 どうやら委員長には、逆らわない方が良さそうだ。
 この決断は、決して俺が委員長を恐れているからでは無い。
 合理主義者は無駄な事をしない、ただそれだけの事だ。

「それにしてもこの学校、随分広いんだな。1学年1クラスしかないのに」

「ん、廃校になった昔の中学校を流用しているからね」

「それにしてはきちんとしているな」

「ん、本来の時空間と少しだけ位相が違うからね。本来の世界のこの校舎はまさに廃校、って感じだよ」

 そんな感じに委員長から説明を受けながら3人で歩いて行く。
 なお話しているのは俺と委員長で、綾瀬は無言だ。
 それでも何故か、ちゃんとついて来ている。

 今いるのは授業を受けた教室から、廊下を3教室分進んだところだ。
 同じ校舎内だが、この辺の教室は部活や研究会が使っているらしい。
 各教室には色々な看板が貼ってある。

 一瞬『お散歩クラブ・ご自由にお入り下さい』という表示を見たような気がした。
 勿論無視して、見なかった事にする。
 俺のような合理主義者は、危険にわざわざ足を踏み入れたりはしないのだ。

 そして俺達は一番奥の教室の、後ろの扉の前までたどり着いた。
 一つ手前の入口には『TRICKSTERS』と書かれた看板があったが、こっちには何も無い。
 でも構造上は同じ教室の筈だ。

「ここは?」

「ん、お兄達の部室。入るよ」

 そう言って委員長はノックもせず扉を横に開く。
 見えた内部は……えっ?

 屋外だった。
 赤い花が所々で咲き誇る草原。

 満月はもうすぐ地平線に落ちる場所でそれでもあたりをほの明るく照らしている。
 よく見ると右手少し先に小高い森があり小さな集落がある。
 赤い鳥居も見えている。

 俺は反対側の廊下の窓を見る。
 紛れもなくここは、学校の3階だ。
 なら、何だ、この風景は?

「ほら、さっさと入るよ」

 委員長の腕そのものは、俺より白くてほっそりしている。
 しかしその腕力はゴリラだ。

 俺はその腕に引きずられるように中? か外? へと引きずり込まれた。
 綾瀬もおとなしく後をついてくる。
 そして。

「はじめまして、ようこそ」

 女性の声が聞こえた。
 声がした前方に俺は視線を向ける。

 昔懐かしい唐傘の巨大なのが立っていた。
 その下には何故か洋風の庭園用テーブルセットがあり、2人の男女がお茶している。
 声はその女性の方からだ。

「秀美がお客さんを連れてくるのは久しぶりだな。ま、どうぞ」

 男の方がそう言って、椅子を持って移動する。

 女性は身長170cm位で、金色の長髪ストレート。
 細めの身体を上下白の半袖ワンピースにつつんでいる。
 年齢的には俺達の先輩、というところだろう。
 もちろん35歳より上という意味では無く、高校2年か3年という意味だ。

 男性の方は身長180cm以上で、体重は最低100kgはありそうだ。
 縦も横も高さもでかいが、筋肉質と言うよりはもっさりという感じ。
 服装もトレーナーにチノパンと、いまいち冴えない感じだ。
 やはり俺達の先輩だろうと俺は判断。

「さあ、座って」

 委員長が座りつつ俺達にそう声を掛ける。
 仕方ないので、俺も綾瀬も空いている椅子に腰掛けた。
 時計回りに見ると女性、綾瀬、俺、委員長、でかい男という席順になる。

「どうぞ」

 女性がピンクと水色のかわいらしいカップに入った紅茶を、俺達ひとりひとりの前に置いた。
 香りがなかなかいい。
 俺にはわからないけれどきっといい紅茶なのだろう。

 ただ、でかい男の前だけは、ごつい取っ手のある容量多めのマグカップだ。
 確かに体型的にたくさん飲みそうだから、合理的かもしれない。


「それでは初めまして、僕は柿岡大樹、3年で『TRICKSTARS』の部長をやっている。秀美とは同じ出身でまあ兄妹みたいなものかな。どうぞよろしく」

「私は神立朱里、ここの副部長よ。まあ秀美とも長いし姉貴分に近いかな」

 男と女はやっぱり先輩だった。
 そして順番的に僕かな、と思ったところで委員長が口を開く。

「こっちは佐貫龍洋君と綾瀬美久さんよ。どっちも4月からの転入生」

 先に紹介されてしまった。
 まあ自分で色々考えるのは面倒だし、それはそれで。

「あと簡単に説明するね。この場所は私の能力で毎日風景を変えているの。今日は私の出身地。まあ実際はこんな風景はもう残っていないんだけれどね」

 神立先輩の説明で、取り敢えずこの部屋の風景については了解した。
 そこで俺は少し考える。
 景色を変える能力って、神立先輩は一体どういう存在なのだろうかと。

 いや訂正、ここの2人の先輩も、委員長もどういう存在なのだろうか。
 妖怪か化け物か、だとすればどんな種類なのか。

 しかしその疑問を尋ねる前に、話はどんどん進んでいく。

「他の部員については今は訓練中だね。まあ基本的に他の部員は教室の前部分を使っていて後ろは僕と朱里分。こっちに入ってくるのは秀美と、後はやはり同じ出身で2年のゆかり位かな」

 他の部員がいない理由についても了解した。
 しかし、ここがどういう研究会かは、未だ聞いていない。
 そして委員長が僕達を連れてきた理由もだ。

「先に言っておくと『TRICKSTARS』の活動と、秀美の行動は関係していないと思うよ。秀美は単独行動派だからさ。そこで本題。秀美、今日は何の用かな」

 委員長が頷いて口を開く。

「ん、実はお兄に視て貰いたくて。この2人について、どこの研究会がいいかなと思って視てみたら、私にはわからない何かが視えたの。どう判断しようかわからなくて、お兄に視てもらおうと」

 つまり柿岡先輩が、委員長が言うところのお兄らしい。
 ところで今の委員長の『わからない何か』とは、どういう意味だろう。
 まさか不吉な意味じゃ無いだろうな、そう思って少々不安になる。

 柿岡先輩が口を開いた。

「それではまず説明しよう。これから僕が使う能力は『慧眼通』と言う。RPGに例えれば、キャラクターのステータス画面を見たり、キャラクターの隠れた能力を解放したり、ほんのちょっとだけゲームの先の筋を教えたりするような、そんな能力だ」

 なるほど、なかなか便利な能力だ。
 しかしそれだと、俺が元中年ニートだという事までわかってしまうのではないだろうか。
 それは少々まずい気がするのだが…… 

「なおこの能力では”状態”は視えるけれど”記憶”は基本的に見えない。だからプライバシーの侵害とかそういう危険性は無いから、そのあたりは安心してくれ。そんな感じで、まあ辻占いの結果でも聞くような感じで気楽に聞いて貰えばいい」

 どうやら俺の以前の状態は、この能力ではわからないらしい。
 一安心しつつ、柿岡先輩の次の言葉を待つ。
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