上 下
14 / 15
2章

13話

しおりを挟む
領主様との面会をした数日後、僕が思ってるよりもずっと早くその日が訪れた。
コンコン、と診療所の扉が叩かれる。
また怪我人でもきたか。と思い、どうぞーと扉に視界も向けずに答える。
静かに開かれた扉の先には、まるで女神と見間違えるかのような美しい女性がいた。
漆黒の髪、きめ細やかな色白い肌、宝石のように輝く紅い瞳、そして整った顔。
頬を染めながらこちらに笑みを浮かべながら見つめる女性に、僕は驚きで言葉が出せなかった。

「あ、あの・・・ケイ様、ですか?私のこと、覚えていらっしゃいますか?」

「あ、ああ・・・もちろんだよ。久しぶりだね、アリア。なんていうか、その、すごい綺麗になったね、驚いたよ」

昔はまるで兄妹のように会話していたのだが、あまりの変化に他人行儀のような会話になってしまった。
気まずい空気が流れる。
お互いにちらちら見あっているのだけれども、一言いうほどには至らなかった。

「あーじれったい!!キスなりなんなりせんか、貴様ら!」

突如現れたヴァンプさん、そして現魔王であるロード・オブ・ヴァンパイア2世ことレオノールさん、その妻であるリリアーヌさんがいた。

「お、お爺様!!キスなんてそんな・・・」

「ど、どうもヴァンプさん。それにレオノールさんにリリアーヌさんまで。ヴァンプさんとアリアは来ると思ってましたけど、まさか皆さんが来るとは思いませんでしたよ」

「久しぶりだな、ケイ。久しぶりにお前の顔が見たくなったんでな」

「お久しぶりね、ケイさん。少しお邪魔しますわ」

「お久しぶりです、二人とも相変わらずですね」

レオノールさんは紳士的であるとされるヴァンパイア族でありながら、獣人のように野生溢れた男だ。
そしてその妻であるリリアーヌさんは、これまた別嬪でアリアとよく似ている。
アリアがこのまま大人になったらこうなるんだろうなーと考えたりした。

「そういえば皆さん、ここまでどうやって来たんですか?」

ふと気になったので聞いてみた。
片や世界最強の元魔王、片や現魔王、そしてこんな人たちが街を歩く光景を見た人たちはどういう風に思ったのだろうか。
いや、ヴァンプさんみたいにコウモリ体になって飛んできたのだろうか。

「それはあれよ、俺の『転移魔法』でひとっ飛びよ。『ロジーヌ』からここまで行くには遠いからな」

『転移魔法』というのはその名の通り転移する魔法だ。
座標や目印さえわかればどこにでも飛んでいける、だが使える人はほぼいない。
そして『ロジーヌ』は人間界でいう王都に位置する場所だ。

「親父にお前の場所は聞いたから、あとはお前から出る神力を目印に飛ぶってわけだ。久々に魔力を使いすぎたぜ」

なるほど、それなら誰にみられるわけでもなくここに来るわけか。
って、その方法はよくない。
この間ヴァンプさんが来た時に、そのことについて領主様に怒られたのだ。
曰く、あらかじめ来ることが分かればまだ、どうにかなるらしい、気持ち的な問題で。
あと、領主であり王族という立場である以上、他国の王族と会うにはそれなりの準備が必要だとか。
門で取り調べしてる間に間に合うんですか、と聞くとレオポールさんが自信満々にお任せくださいと言ってたのでどうにかなるのだろう。

「そういうわけで、申し訳ないんですが門までいって・・・いや、僕が警備兵を呼んできます。なので少し待っててもらってもいいですか?」

「まあ、吾輩達が出たら街中大騒ぎであろうしな」

「えぇ、私たちは待ちますわ。そうだ!アリア、ケイさんと一緒に行ってきなさいな。久しぶりに話したいことがいろいろあるでしょう」

にこにこしながら愛娘であるアリアを見つめるリリアーヌさん。

「け、ケイ様・・・私も、一緒について行ってもいいですか?」

「もちろん、一緒に行こうか。ついでに領主様のところに行って簡単に事情を説明してこよう」

そっちのほうが領主様的にもいいだろうと思い、僕たちは領主邸まで向かうことになった。




*************************************************


「なんだかこうやって二人でどこかに行くのも久しぶりだね」

「えぇ、本当ですね。本当に懐かしいです」

先ほどに比べてある程度普通にしゃべれるようになった僕ら。
見た目が変わっても彼女は彼女だった。

「ケイ様はどうして定職に就こうと思ったんですか?今まではずっと旅をしていましたのに」

「まあ、大した理由でもないんだよね。ただ、そろそろ居場所を定めて生活してみようかなって思って。あとは時の流れに身をまかせて今に至ったわけ」

「ケイ様には是非とも『ロジーヌ』で暮らしていただきたかったんですけどね」

すこし拗ねながらアリアは話す。
昔、アリアをはじめヴァンプさんやレオノールさん、リリアーヌさんにも『ロジーヌ』で暮らさないかと言われたことがある。
それを差し置いてアルトロワで生活を始めたのは少し申し訳ないなと思う。

「いいんです、やりたいことをやりたいようにするのが一番ですもの。私だってそうしますわっ」

突然手を握られ、アリアの顔に視線を移す。
アリアってまつ毛長いな・・・違う、そうじゃなくて。

「あ、アリア?」

「私も、やりたいことをやりたいようにやるだけですわ。それに、こうやって手を握って歩くのも懐かしいでしょう?」

すっかり落ち着いたと思っていたが、それでもアリアはアリアのままだった。
昔もこうやって手をつないでいろんなところに遊びに行ったなー・・・。
懐かしさと恥ずかしさを覚えつつ、そのままお互いに手を握り合って歩いていくのだった・・・。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...