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2章
13話
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領主様との面会をした数日後、僕が思ってるよりもずっと早くその日が訪れた。
コンコン、と診療所の扉が叩かれる。
また怪我人でもきたか。と思い、どうぞーと扉に視界も向けずに答える。
静かに開かれた扉の先には、まるで女神と見間違えるかのような美しい女性がいた。
漆黒の髪、きめ細やかな色白い肌、宝石のように輝く紅い瞳、そして整った顔。
頬を染めながらこちらに笑みを浮かべながら見つめる女性に、僕は驚きで言葉が出せなかった。
「あ、あの・・・ケイ様、ですか?私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「あ、ああ・・・もちろんだよ。久しぶりだね、アリア。なんていうか、その、すごい綺麗になったね、驚いたよ」
昔はまるで兄妹のように会話していたのだが、あまりの変化に他人行儀のような会話になってしまった。
気まずい空気が流れる。
お互いにちらちら見あっているのだけれども、一言いうほどには至らなかった。
「あーじれったい!!キスなりなんなりせんか、貴様ら!」
突如現れたヴァンプさん、そして現魔王であるロード・オブ・ヴァンパイア2世ことレオノールさん、その妻であるリリアーヌさんがいた。
「お、お爺様!!キスなんてそんな・・・」
「ど、どうもヴァンプさん。それにレオノールさんにリリアーヌさんまで。ヴァンプさんとアリアは来ると思ってましたけど、まさか皆さんが来るとは思いませんでしたよ」
「久しぶりだな、ケイ。久しぶりにお前の顔が見たくなったんでな」
「お久しぶりね、ケイさん。少しお邪魔しますわ」
「お久しぶりです、二人とも相変わらずですね」
レオノールさんは紳士的であるとされるヴァンパイア族でありながら、獣人のように野生溢れた男だ。
そしてその妻であるリリアーヌさんは、これまた別嬪でアリアとよく似ている。
アリアがこのまま大人になったらこうなるんだろうなーと考えたりした。
「そういえば皆さん、ここまでどうやって来たんですか?」
ふと気になったので聞いてみた。
片や世界最強の元魔王、片や現魔王、そしてこんな人たちが街を歩く光景を見た人たちはどういう風に思ったのだろうか。
いや、ヴァンプさんみたいにコウモリ体になって飛んできたのだろうか。
「それはあれよ、俺の『転移魔法』でひとっ飛びよ。『ロジーヌ』からここまで行くには遠いからな」
『転移魔法』というのはその名の通り転移する魔法だ。
座標や目印さえわかればどこにでも飛んでいける、だが使える人はほぼいない。
そして『ロジーヌ』は人間界でいう王都に位置する場所だ。
「親父にお前の場所は聞いたから、あとはお前から出る神力を目印に飛ぶってわけだ。久々に魔力を使いすぎたぜ」
なるほど、それなら誰にみられるわけでもなくここに来るわけか。
って、その方法はよくない。
この間ヴァンプさんが来た時に、そのことについて領主様に怒られたのだ。
曰く、あらかじめ来ることが分かればまだ、どうにかなるらしい、気持ち的な問題で。
あと、領主であり王族という立場である以上、他国の王族と会うにはそれなりの準備が必要だとか。
門で取り調べしてる間に間に合うんですか、と聞くとレオポールさんが自信満々にお任せくださいと言ってたのでどうにかなるのだろう。
「そういうわけで、申し訳ないんですが門までいって・・・いや、僕が警備兵を呼んできます。なので少し待っててもらってもいいですか?」
「まあ、吾輩達が出たら街中大騒ぎであろうしな」
「えぇ、私たちは待ちますわ。そうだ!アリア、ケイさんと一緒に行ってきなさいな。久しぶりに話したいことがいろいろあるでしょう」
にこにこしながら愛娘であるアリアを見つめるリリアーヌさん。
「け、ケイ様・・・私も、一緒について行ってもいいですか?」
「もちろん、一緒に行こうか。ついでに領主様のところに行って簡単に事情を説明してこよう」
そっちのほうが領主様的にもいいだろうと思い、僕たちは領主邸まで向かうことになった。
*************************************************
「なんだかこうやって二人でどこかに行くのも久しぶりだね」
「えぇ、本当ですね。本当に懐かしいです」
先ほどに比べてある程度普通にしゃべれるようになった僕ら。
見た目が変わっても彼女は彼女だった。
「ケイ様はどうして定職に就こうと思ったんですか?今まではずっと旅をしていましたのに」
「まあ、大した理由でもないんだよね。ただ、そろそろ居場所を定めて生活してみようかなって思って。あとは時の流れに身をまかせて今に至ったわけ」
「ケイ様には是非とも『ロジーヌ』で暮らしていただきたかったんですけどね」
すこし拗ねながらアリアは話す。
昔、アリアをはじめヴァンプさんやレオノールさん、リリアーヌさんにも『ロジーヌ』で暮らさないかと言われたことがある。
それを差し置いてアルトロワで生活を始めたのは少し申し訳ないなと思う。
「いいんです、やりたいことをやりたいようにするのが一番ですもの。私だってそうしますわっ」
突然手を握られ、アリアの顔に視線を移す。
アリアってまつ毛長いな・・・違う、そうじゃなくて。
「あ、アリア?」
「私も、やりたいことをやりたいようにやるだけですわ。それに、こうやって手を握って歩くのも懐かしいでしょう?」
すっかり落ち着いたと思っていたが、それでもアリアはアリアのままだった。
昔もこうやって手をつないでいろんなところに遊びに行ったなー・・・。
懐かしさと恥ずかしさを覚えつつ、そのままお互いに手を握り合って歩いていくのだった・・・。
コンコン、と診療所の扉が叩かれる。
また怪我人でもきたか。と思い、どうぞーと扉に視界も向けずに答える。
静かに開かれた扉の先には、まるで女神と見間違えるかのような美しい女性がいた。
漆黒の髪、きめ細やかな色白い肌、宝石のように輝く紅い瞳、そして整った顔。
頬を染めながらこちらに笑みを浮かべながら見つめる女性に、僕は驚きで言葉が出せなかった。
「あ、あの・・・ケイ様、ですか?私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「あ、ああ・・・もちろんだよ。久しぶりだね、アリア。なんていうか、その、すごい綺麗になったね、驚いたよ」
昔はまるで兄妹のように会話していたのだが、あまりの変化に他人行儀のような会話になってしまった。
気まずい空気が流れる。
お互いにちらちら見あっているのだけれども、一言いうほどには至らなかった。
「あーじれったい!!キスなりなんなりせんか、貴様ら!」
突如現れたヴァンプさん、そして現魔王であるロード・オブ・ヴァンパイア2世ことレオノールさん、その妻であるリリアーヌさんがいた。
「お、お爺様!!キスなんてそんな・・・」
「ど、どうもヴァンプさん。それにレオノールさんにリリアーヌさんまで。ヴァンプさんとアリアは来ると思ってましたけど、まさか皆さんが来るとは思いませんでしたよ」
「久しぶりだな、ケイ。久しぶりにお前の顔が見たくなったんでな」
「お久しぶりね、ケイさん。少しお邪魔しますわ」
「お久しぶりです、二人とも相変わらずですね」
レオノールさんは紳士的であるとされるヴァンパイア族でありながら、獣人のように野生溢れた男だ。
そしてその妻であるリリアーヌさんは、これまた別嬪でアリアとよく似ている。
アリアがこのまま大人になったらこうなるんだろうなーと考えたりした。
「そういえば皆さん、ここまでどうやって来たんですか?」
ふと気になったので聞いてみた。
片や世界最強の元魔王、片や現魔王、そしてこんな人たちが街を歩く光景を見た人たちはどういう風に思ったのだろうか。
いや、ヴァンプさんみたいにコウモリ体になって飛んできたのだろうか。
「それはあれよ、俺の『転移魔法』でひとっ飛びよ。『ロジーヌ』からここまで行くには遠いからな」
『転移魔法』というのはその名の通り転移する魔法だ。
座標や目印さえわかればどこにでも飛んでいける、だが使える人はほぼいない。
そして『ロジーヌ』は人間界でいう王都に位置する場所だ。
「親父にお前の場所は聞いたから、あとはお前から出る神力を目印に飛ぶってわけだ。久々に魔力を使いすぎたぜ」
なるほど、それなら誰にみられるわけでもなくここに来るわけか。
って、その方法はよくない。
この間ヴァンプさんが来た時に、そのことについて領主様に怒られたのだ。
曰く、あらかじめ来ることが分かればまだ、どうにかなるらしい、気持ち的な問題で。
あと、領主であり王族という立場である以上、他国の王族と会うにはそれなりの準備が必要だとか。
門で取り調べしてる間に間に合うんですか、と聞くとレオポールさんが自信満々にお任せくださいと言ってたのでどうにかなるのだろう。
「そういうわけで、申し訳ないんですが門までいって・・・いや、僕が警備兵を呼んできます。なので少し待っててもらってもいいですか?」
「まあ、吾輩達が出たら街中大騒ぎであろうしな」
「えぇ、私たちは待ちますわ。そうだ!アリア、ケイさんと一緒に行ってきなさいな。久しぶりに話したいことがいろいろあるでしょう」
にこにこしながら愛娘であるアリアを見つめるリリアーヌさん。
「け、ケイ様・・・私も、一緒について行ってもいいですか?」
「もちろん、一緒に行こうか。ついでに領主様のところに行って簡単に事情を説明してこよう」
そっちのほうが領主様的にもいいだろうと思い、僕たちは領主邸まで向かうことになった。
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「なんだかこうやって二人でどこかに行くのも久しぶりだね」
「えぇ、本当ですね。本当に懐かしいです」
先ほどに比べてある程度普通にしゃべれるようになった僕ら。
見た目が変わっても彼女は彼女だった。
「ケイ様はどうして定職に就こうと思ったんですか?今まではずっと旅をしていましたのに」
「まあ、大した理由でもないんだよね。ただ、そろそろ居場所を定めて生活してみようかなって思って。あとは時の流れに身をまかせて今に至ったわけ」
「ケイ様には是非とも『ロジーヌ』で暮らしていただきたかったんですけどね」
すこし拗ねながらアリアは話す。
昔、アリアをはじめヴァンプさんやレオノールさん、リリアーヌさんにも『ロジーヌ』で暮らさないかと言われたことがある。
それを差し置いてアルトロワで生活を始めたのは少し申し訳ないなと思う。
「いいんです、やりたいことをやりたいようにするのが一番ですもの。私だってそうしますわっ」
突然手を握られ、アリアの顔に視線を移す。
アリアってまつ毛長いな・・・違う、そうじゃなくて。
「あ、アリア?」
「私も、やりたいことをやりたいようにやるだけですわ。それに、こうやって手を握って歩くのも懐かしいでしょう?」
すっかり落ち着いたと思っていたが、それでもアリアはアリアのままだった。
昔もこうやって手をつないでいろんなところに遊びに行ったなー・・・。
懐かしさと恥ずかしさを覚えつつ、そのままお互いに手を握り合って歩いていくのだった・・・。
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