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5.ルーカスの苦難3
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アスター侯爵領から帰って、ヘトヘトなルーカスであったが、翌日、隣国との合同訓練が催された。
隣国との親交の一環としての合同訓練であるが、内容はこの国の王太子と隣国の第7王子のシャリージャ殿下との近衛騎士同士で行う剣での勝ち抜き式トーナメントの試合である。
王子同士の挨拶が終わると、各近衛騎士団の団長が試合開始の合図をすることになっている。
この国の王太子の団長は年齢40台半ばのベテラン騎士で、ルーカスの実家、カルディナン公爵家の親戚でもある渋い男性であるが、シャリージャ王子の団長は年若い美しい女性であった。
そのため、ルーカスの騎士団内では、シャリージャ王子の団長のことで話題が持ちきりであった。
「おい!あちらの団長、女が団長なんだな。美人だな~」
「ああ、シャリージャ殿下の母方の従妹らしいぞ。代々、将軍をやっている貴族出身だから、家柄だけでなく、女だてらに実力もあるって」
「へー!従妹か。確かにシャリージャ殿下と同じ黒髪黒目だな。でも、女にしては背も高いし、凛々しいな」
「いいなー!!カッコイイ美人の団長。うちのおっさんと交換して欲しい~」
「ばっか!お前知らないのか?あちらの国は女でも地位があるやつは後宮を持てるんだよ!!気に入った騎士を次々と後宮に入れるって噂だから、愛妾にされるぞ!!」
「ええ!?後宮?ナニソレ、うらやましー!!」
「……あの美人なら、いいかな?」
などと、王子たちの挨拶まで、ワイワイやっていた。
そんな噂話を横で聞きながら、ルーカスやミカエルたちは試合前のウォーミングアップをしていた。
おそらく、あのシャリージャは、アスター侯爵領でルーカスに絡んできたエレーヌファンの1人。
きっとルーカスに何か仕掛けてくると覚悟していた。
「おーい!ルーカス。随分、やる気だな?」
「俺がウォーミングアップがてら、相手してやるよ」と当然、絡んでくるエレーヌファンの先輩方。
ミカエルが、「先輩方、大丈夫ですよ!もう始まるまで、あまり時間もありませんし」などと受け答えしてくれている間にも、ルーカスはそんなエレーヌファンたちも無視して黙々と準備していた。
団長からも招集がかかり、一同は試合のために競技場へ集まり並んだ。
王子たちの挨拶中で、シャリージャ王子が
「この騎士団にはあの武で有名なカルディナン公爵家の子息がいるそうだな?この試合でも存分に家の名に恥じない腕前をふるうことを期待しておるぞ!」と、ルーカスに宣戦布告してきた。
嫌な予感がしてならないルーカスであった。
隣のミカエルがぽんっと肩を叩いて励ましてくれた。
団長たちのトーナメント開始の合図で開催となり、試合の順番が発表される。
第一試合では、こちらからは、ルーカスの予想どおり、ルーカスが選ばれた。
相手側からは、ルーカスより1.5倍はありそうな巨漢がでてきた。
試合開始の合図とともに、剣を構えるルーカス。
一応、相手も構えているが、ルーカスを憎々しげに睨みながら言ってくる。
「……おい!おまえ、そんな顔しているが、女にモテモテって本当か?」
「……は?突然、なんだ?」
ちなみに、今のルーカスの顔はまだ腫れが引き切らず、ややりんご顔のままである。
「……シャリージャ殿下から、お前が女の敵だと聞いたのだが、本当か?」
「いや、別に……」
「でもお前の浮気で婚約破棄したばかりだと聞いたが?」
「ちっ。何でそんな個人情報を……」
「じゃあ、本当なんだな?」
「……ああ。でも相手にも喜んで婚約破棄を承諾されるくらいには好かれてもいなかったからな」
「ほう……。だが、一方的に婚約破棄された俺とは逆の立場だな。
やはり、お前は全力で叩き潰す!!」と言って、勢いよく攻撃してきた。
そう、この巨漢の騎士は、つい先日、女性の方から男前の他の男性に乗り換えるために一方的に婚約破棄されたばかりで傷心中であった。
「男前、滅びるべし!!」と叫びながら半端ない力で剣を振り下ろす。とっさにそれを横に流して、避けるルーカス。
次にルーカスからも下から滑り込み、剣で相手の脇を狙うが、巨体のくせに体は柔らかく、体をひねり、するっとその剣を避けて、真正面から打ってくる。
「お前は大して男前じゃないのにな!!」と叫び、剣を振るう巨漢。ルーカスは真正面から剣を受けてしまい、予想通りビリビリと手や腕にダメージを与えられ、すばやく横に流して、後ろへ下がり、攻撃態勢を整える。
そんなルーカスに余裕を与えないように相手は、素早く次の攻撃をしかけてくる。
ただし、いくつものおたけびをあげながら。
「滅べ、女の敵!!」
「ちょっと女にモテるからって!」
「男も顔かー!?」
「いい加減にしろっ」とルーカスもとうとう苛立ち、相手に力一杯剣をふる。
しばらく、カキン、ガッ、ガキンッとお互いの剣での打ち合いが続くなか、また「一方的な婚約破棄なんて!」「相手の気持ちも考えず婚約破棄なんて!」などと叫ぶたびに、相手に隙ができることに気付いたルーカスは徐々に相手の腕などにダメージを与え、力を削いで押していった。
「「婚約破棄がなんだ!!」」
ついお互いハモりながら、ガキンッと最後の打ち合いで、お互いの渾身の力を振るった。
腕などにダメージを与えたおかげか、相手の剣を飛ばしたため、ルーカスの勝利となった。
無事に勝利したおかげで、負けたら扱こうと待ち構えていたエレーヌファンたちの手を何とか免れるルーカスであった。
「お疲れ!よかったな、無事に勝てて。何か情緒不安定な相手みたいだったから余裕だったか?」と笑いながらミカエルに言われる。
「いや、結構、こちらも腕にダメージを受けたぞ」と言いながら、痛む所を冷やすルーカス。
そして、当然ながら、あまり休む暇もなく、ルーカスは次の試合に備えるのだった。
隣国との親交の一環としての合同訓練であるが、内容はこの国の王太子と隣国の第7王子のシャリージャ殿下との近衛騎士同士で行う剣での勝ち抜き式トーナメントの試合である。
王子同士の挨拶が終わると、各近衛騎士団の団長が試合開始の合図をすることになっている。
この国の王太子の団長は年齢40台半ばのベテラン騎士で、ルーカスの実家、カルディナン公爵家の親戚でもある渋い男性であるが、シャリージャ王子の団長は年若い美しい女性であった。
そのため、ルーカスの騎士団内では、シャリージャ王子の団長のことで話題が持ちきりであった。
「おい!あちらの団長、女が団長なんだな。美人だな~」
「ああ、シャリージャ殿下の母方の従妹らしいぞ。代々、将軍をやっている貴族出身だから、家柄だけでなく、女だてらに実力もあるって」
「へー!従妹か。確かにシャリージャ殿下と同じ黒髪黒目だな。でも、女にしては背も高いし、凛々しいな」
「いいなー!!カッコイイ美人の団長。うちのおっさんと交換して欲しい~」
「ばっか!お前知らないのか?あちらの国は女でも地位があるやつは後宮を持てるんだよ!!気に入った騎士を次々と後宮に入れるって噂だから、愛妾にされるぞ!!」
「ええ!?後宮?ナニソレ、うらやましー!!」
「……あの美人なら、いいかな?」
などと、王子たちの挨拶まで、ワイワイやっていた。
そんな噂話を横で聞きながら、ルーカスやミカエルたちは試合前のウォーミングアップをしていた。
おそらく、あのシャリージャは、アスター侯爵領でルーカスに絡んできたエレーヌファンの1人。
きっとルーカスに何か仕掛けてくると覚悟していた。
「おーい!ルーカス。随分、やる気だな?」
「俺がウォーミングアップがてら、相手してやるよ」と当然、絡んでくるエレーヌファンの先輩方。
ミカエルが、「先輩方、大丈夫ですよ!もう始まるまで、あまり時間もありませんし」などと受け答えしてくれている間にも、ルーカスはそんなエレーヌファンたちも無視して黙々と準備していた。
団長からも招集がかかり、一同は試合のために競技場へ集まり並んだ。
王子たちの挨拶中で、シャリージャ王子が
「この騎士団にはあの武で有名なカルディナン公爵家の子息がいるそうだな?この試合でも存分に家の名に恥じない腕前をふるうことを期待しておるぞ!」と、ルーカスに宣戦布告してきた。
嫌な予感がしてならないルーカスであった。
隣のミカエルがぽんっと肩を叩いて励ましてくれた。
団長たちのトーナメント開始の合図で開催となり、試合の順番が発表される。
第一試合では、こちらからは、ルーカスの予想どおり、ルーカスが選ばれた。
相手側からは、ルーカスより1.5倍はありそうな巨漢がでてきた。
試合開始の合図とともに、剣を構えるルーカス。
一応、相手も構えているが、ルーカスを憎々しげに睨みながら言ってくる。
「……おい!おまえ、そんな顔しているが、女にモテモテって本当か?」
「……は?突然、なんだ?」
ちなみに、今のルーカスの顔はまだ腫れが引き切らず、ややりんご顔のままである。
「……シャリージャ殿下から、お前が女の敵だと聞いたのだが、本当か?」
「いや、別に……」
「でもお前の浮気で婚約破棄したばかりだと聞いたが?」
「ちっ。何でそんな個人情報を……」
「じゃあ、本当なんだな?」
「……ああ。でも相手にも喜んで婚約破棄を承諾されるくらいには好かれてもいなかったからな」
「ほう……。だが、一方的に婚約破棄された俺とは逆の立場だな。
やはり、お前は全力で叩き潰す!!」と言って、勢いよく攻撃してきた。
そう、この巨漢の騎士は、つい先日、女性の方から男前の他の男性に乗り換えるために一方的に婚約破棄されたばかりで傷心中であった。
「男前、滅びるべし!!」と叫びながら半端ない力で剣を振り下ろす。とっさにそれを横に流して、避けるルーカス。
次にルーカスからも下から滑り込み、剣で相手の脇を狙うが、巨体のくせに体は柔らかく、体をひねり、するっとその剣を避けて、真正面から打ってくる。
「お前は大して男前じゃないのにな!!」と叫び、剣を振るう巨漢。ルーカスは真正面から剣を受けてしまい、予想通りビリビリと手や腕にダメージを与えられ、すばやく横に流して、後ろへ下がり、攻撃態勢を整える。
そんなルーカスに余裕を与えないように相手は、素早く次の攻撃をしかけてくる。
ただし、いくつものおたけびをあげながら。
「滅べ、女の敵!!」
「ちょっと女にモテるからって!」
「男も顔かー!?」
「いい加減にしろっ」とルーカスもとうとう苛立ち、相手に力一杯剣をふる。
しばらく、カキン、ガッ、ガキンッとお互いの剣での打ち合いが続くなか、また「一方的な婚約破棄なんて!」「相手の気持ちも考えず婚約破棄なんて!」などと叫ぶたびに、相手に隙ができることに気付いたルーカスは徐々に相手の腕などにダメージを与え、力を削いで押していった。
「「婚約破棄がなんだ!!」」
ついお互いハモりながら、ガキンッと最後の打ち合いで、お互いの渾身の力を振るった。
腕などにダメージを与えたおかげか、相手の剣を飛ばしたため、ルーカスの勝利となった。
無事に勝利したおかげで、負けたら扱こうと待ち構えていたエレーヌファンたちの手を何とか免れるルーカスであった。
「お疲れ!よかったな、無事に勝てて。何か情緒不安定な相手みたいだったから余裕だったか?」と笑いながらミカエルに言われる。
「いや、結構、こちらも腕にダメージを受けたぞ」と言いながら、痛む所を冷やすルーカス。
そして、当然ながら、あまり休む暇もなく、ルーカスは次の試合に備えるのだった。
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