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1.婚約破棄
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親同士が決めた婚約を当人達がよしとせず、婚約破棄されることがある。
ただし、貴族間では、政略結婚や家柄のつり合いなどが考慮された上での婚約がほとんどであるため、たまにしかない話である。
侯爵令嬢のエレーヌにも、もちろん家柄も良く将来性がばっちりの婚約者がいた。
公爵家の次男で現在、王太子付きの近衛騎士で、将来はその隊長候補でもあるルーカス・カルディナンである。
今、エレーヌの目の前で、眉間に皺をよせて立つルーカスがまさにその人であった。
彼は、ジュリアという名の平民上がりながら子爵家の養女になったという、まるで姫物語のヒロインのような恋人と一緒に、エレーヌを呼び出した。
「エレーヌ、お前との婚約は破棄する。
しょせん、親同士が勝手に決めた婚約だ」
エレーヌはまばたきをパチパチして、ルーカスのセリフを聞き返してしまった。
「え?ルーカス様、今、なんて……」
「私は真に愛するジュリアと婚約することになった。
そのため、お前との婚約は破棄する。
じゃあな。もう話すことはない。
では、いくぞ、ジュリア」とルーカスはエレーヌに言いたいことだけ言って、ジュリアに声をかけた。
「はい、ルーカス様!」とジュリアはエレーヌに勝ち誇ったような眼差しをむけ、ルーカスに腕をからませ、嬉しそうにさっさと立ち去ろうとした。
「ちょ~っと、お待ちくださいませ~」とエレーヌが待ったをかけた。
「お前の反論など受け付けない」と冷たく言い放つルーカス。
「婚約破棄については承知いたしました~。
反論なんてございませんよ~。ただ……。
ジュリア嬢にお伝えしないといけないことが~」
「お前の恨み言なんかジュリアにきかせるか!」
「い~え、恨み言なんかではございません~。
ルーカス様のお父上、カルディナン公爵様より、もしルーカス様から婚約破棄を希望され、私以外がルーカス様の伴侶となられる場合、その方へ早急に必ずお伝えするように~と指示されております守秘義務付きの重要事項ですぅ」
「なんだそれは!お前は……」と怒鳴ろうとするルーカスに、エレーヌはかぶせるように話し出した。
ルーカスはジュリアとは、知り合いあった途端、お互い一目ぼれをしたそうで、婚約者がいるにもかかわらず、どうどうと浮気をしていたことは、エレーヌもよく知っていた。
なぜなら、ルーカスの性格をよく知るルーカスの父親であるカルディナン公爵より、色々とエレーヌへ情報が流れていたからだ。
そしてルーカスがエレーヌの婚約破棄を希望した場合の早急な対処についても、指示されていたからである。
ゆったりとしたエレーヌの普段の口調から仕事モードの口調に変わる。
「新たな婚約者となられますジュリア様にカルディナン公爵様からの重要伝達事項です。
ソーナ病は感染性の皮膚病の一種で、見た目が赤みを帯び、皮膚剥離やかゆみなどの症状を伴うことがございます。
ルーカス様のお家は親子代々、伝統ある騎士学校にご入学されるためか、貴族に生まれながら汚い、臭い、湿気だらけの不衛生きわまりない環境に一時的にでも身を置くことがあり、曾祖父の代から既にこのソーナ病に苦しんでおられたようです。
そのせいか、通常の治療では治らない大変やっかいなソーナ病をルーカス様はもちろん、カルディナン家代々、患っておられます。
この国の薬の宝庫と自負しております我が侯爵領の薬草から作った薬でも難しい症状です。
おまけに感染力が通常より強いようなのでございます。
ルーカス様の兄上様は、無防備なお母上様と乳母に育てられたせいで、お父上様からうつされたソーナ病により子供の頃にすでにソーナ病を患ったことがあり、治療完治に10年もかかりました。
表面上完治したようにみえても、まだ皮下に感染源が存在することもあるという大変やっかいな面もございます。
ルーカス様のお部屋やお風呂場などの掃除担当の召使いには必ず手袋着用で、掃除させるようにする必要がございます。
お風呂はできるだけ先に入られるか、別風呂を常にお使いになるようにご注意くださいませ。
夜の生活でもルーカス様には着衣したまま同衾することをおすすめいたします。
まあ、万が一、体についても48時間以内に洗い落とせば大丈夫な場合がほとんどなのですが、傷などあるとやはり感染しやすいことがございます。
重要なので、繰り返しお伝えいたします。
国一番の薬の宝庫と言われる我が侯爵領の薬をもってしてもルーカス様のソーナ病はいまだ完治できませんので、きちんと対処をされてお過ごしくださいませ。
そして、この伝達事項はカルディナン公爵家の名のものとに守秘されるようにお気をつけくださいませ。
また、婚約は破棄されても、我が侯爵家はお約束しておりましたカルディナン公爵一族用のソーナ病治療のための新薬の開発は継続いたしますので、ご心配なく。
ああ、もちろん、守秘義務も継続いたします。
それでは、どうぞ末永くお幸せに~!」
心の底からほっとした気持ちをあらわに、満面の笑みでエレーヌは心から二人を祝福した。
(ただし、新薬の完成を私の婚儀までの期間としていましたが、おかげさまで急がせる必要はなくなりましたね~)とエレーヌは心の中で考える。
ソーナ病持ちの公爵家との婚約破棄、喜んで!!
ただし、貴族間では、政略結婚や家柄のつり合いなどが考慮された上での婚約がほとんどであるため、たまにしかない話である。
侯爵令嬢のエレーヌにも、もちろん家柄も良く将来性がばっちりの婚約者がいた。
公爵家の次男で現在、王太子付きの近衛騎士で、将来はその隊長候補でもあるルーカス・カルディナンである。
今、エレーヌの目の前で、眉間に皺をよせて立つルーカスがまさにその人であった。
彼は、ジュリアという名の平民上がりながら子爵家の養女になったという、まるで姫物語のヒロインのような恋人と一緒に、エレーヌを呼び出した。
「エレーヌ、お前との婚約は破棄する。
しょせん、親同士が勝手に決めた婚約だ」
エレーヌはまばたきをパチパチして、ルーカスのセリフを聞き返してしまった。
「え?ルーカス様、今、なんて……」
「私は真に愛するジュリアと婚約することになった。
そのため、お前との婚約は破棄する。
じゃあな。もう話すことはない。
では、いくぞ、ジュリア」とルーカスはエレーヌに言いたいことだけ言って、ジュリアに声をかけた。
「はい、ルーカス様!」とジュリアはエレーヌに勝ち誇ったような眼差しをむけ、ルーカスに腕をからませ、嬉しそうにさっさと立ち去ろうとした。
「ちょ~っと、お待ちくださいませ~」とエレーヌが待ったをかけた。
「お前の反論など受け付けない」と冷たく言い放つルーカス。
「婚約破棄については承知いたしました~。
反論なんてございませんよ~。ただ……。
ジュリア嬢にお伝えしないといけないことが~」
「お前の恨み言なんかジュリアにきかせるか!」
「い~え、恨み言なんかではございません~。
ルーカス様のお父上、カルディナン公爵様より、もしルーカス様から婚約破棄を希望され、私以外がルーカス様の伴侶となられる場合、その方へ早急に必ずお伝えするように~と指示されております守秘義務付きの重要事項ですぅ」
「なんだそれは!お前は……」と怒鳴ろうとするルーカスに、エレーヌはかぶせるように話し出した。
ルーカスはジュリアとは、知り合いあった途端、お互い一目ぼれをしたそうで、婚約者がいるにもかかわらず、どうどうと浮気をしていたことは、エレーヌもよく知っていた。
なぜなら、ルーカスの性格をよく知るルーカスの父親であるカルディナン公爵より、色々とエレーヌへ情報が流れていたからだ。
そしてルーカスがエレーヌの婚約破棄を希望した場合の早急な対処についても、指示されていたからである。
ゆったりとしたエレーヌの普段の口調から仕事モードの口調に変わる。
「新たな婚約者となられますジュリア様にカルディナン公爵様からの重要伝達事項です。
ソーナ病は感染性の皮膚病の一種で、見た目が赤みを帯び、皮膚剥離やかゆみなどの症状を伴うことがございます。
ルーカス様のお家は親子代々、伝統ある騎士学校にご入学されるためか、貴族に生まれながら汚い、臭い、湿気だらけの不衛生きわまりない環境に一時的にでも身を置くことがあり、曾祖父の代から既にこのソーナ病に苦しんでおられたようです。
そのせいか、通常の治療では治らない大変やっかいなソーナ病をルーカス様はもちろん、カルディナン家代々、患っておられます。
この国の薬の宝庫と自負しております我が侯爵領の薬草から作った薬でも難しい症状です。
おまけに感染力が通常より強いようなのでございます。
ルーカス様の兄上様は、無防備なお母上様と乳母に育てられたせいで、お父上様からうつされたソーナ病により子供の頃にすでにソーナ病を患ったことがあり、治療完治に10年もかかりました。
表面上完治したようにみえても、まだ皮下に感染源が存在することもあるという大変やっかいな面もございます。
ルーカス様のお部屋やお風呂場などの掃除担当の召使いには必ず手袋着用で、掃除させるようにする必要がございます。
お風呂はできるだけ先に入られるか、別風呂を常にお使いになるようにご注意くださいませ。
夜の生活でもルーカス様には着衣したまま同衾することをおすすめいたします。
まあ、万が一、体についても48時間以内に洗い落とせば大丈夫な場合がほとんどなのですが、傷などあるとやはり感染しやすいことがございます。
重要なので、繰り返しお伝えいたします。
国一番の薬の宝庫と言われる我が侯爵領の薬をもってしてもルーカス様のソーナ病はいまだ完治できませんので、きちんと対処をされてお過ごしくださいませ。
そして、この伝達事項はカルディナン公爵家の名のものとに守秘されるようにお気をつけくださいませ。
また、婚約は破棄されても、我が侯爵家はお約束しておりましたカルディナン公爵一族用のソーナ病治療のための新薬の開発は継続いたしますので、ご心配なく。
ああ、もちろん、守秘義務も継続いたします。
それでは、どうぞ末永くお幸せに~!」
心の底からほっとした気持ちをあらわに、満面の笑みでエレーヌは心から二人を祝福した。
(ただし、新薬の完成を私の婚儀までの期間としていましたが、おかげさまで急がせる必要はなくなりましたね~)とエレーヌは心の中で考える。
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