怪異観察奇録第4結社

マデリコ相

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怪 No.040 「八千代荘103号室」

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不自然死


現在我が国では、その数年二万に及ぶ。



ここに、その内の一件があった。





「今回亡くなったのは深田守36歳、職業不詳。特に交友関係も無く簡素な暮らしをしていたようです」

「遺体を見たところ、かなり弱っていたため死因は餓死だと思われます」

「ご苦労。しかし何だこの部屋は」

今この2人の刑事がいるここは、間取りはごく普通のワンルームで、家具を置いていない、不動産屋のサイトに掲載してあるような裸の部屋だった。
ただ違うのは床にかなり歩き回った跡があり、その内に足の裏が擦り切れて出血したのだろうか、細い血痕が幾つか見られることと、壁に無数の矢印が標されていること、そして玄関周りだけは、新築のように綺麗なことであった。
玄関にあった下駄箱に深田の携帯電話が置かれている。

「一体この部屋で何があったんだ…」

「何故深田は調度品を持たなかったのでしょう」

「ここには寝泊まりだけしていたんじゃないか」

「何故深田はここまで歩き回ったんでしょうかね」

「人が歩き回るというのはどういう時だ?」

「考え事をしている時などでしょうか」

「考え事か。だが部屋に足跡まで残し、足の裏が出血するほど歩くのは異常だ」

「では矢印を見てみましょう。これは何を表しているのでしょうか?」

「矢印か」

「もしかして、歩き回った方向を標している?」

「なるほど」

「でも何故そんなことを?」

「歩き回った方向が、分からなくなった?」

「どういうことですか?」

「室内で自分の位置を見失った」

「この狭い室内で、迷ったって言うんですか?」

「それなら足跡も合点が行く。この部屋を死ぬまで彷徨っていたんだ」

「とにかく部屋を脱出する、その一心で出血するほど歩き続けたと」

「それに玄関だけがいやに綺麗だったじゃないか」

「てことは、玄関に辿り着けなかったってことですか?」

「だから下駄箱にある携帯電話で助けを呼ぶことも出来なかったんだ」

そこに1人の刑事が来た。

「大家さんに聞き取りできました」

「何か分かったか?」

「深田はこの部屋に引っ越してきたばかりだそうです。引っ越し業者も深田と連絡が取れなくなったので荷物の搬入ができなくて困っていると言っていました」

「部屋に何も無いのはそういう訳か」

「深田は業者が来るのをこの部屋で待とうと思って先に入った。そして用意ができたので携帯で連絡をしようとでもした時、玄関に辿り着けないことに気づいた」

「不可思議ではあるがこの部屋の異特さ。これしか考えられん」

続けて現場を統括するこの刑事は言った。

「確かに深田は飢えて力尽きている。だがこれは餓死などでは無い。『室内遭難死』だ」


この後、毎年二万件の内数件が、全く同じケースであり、全てこの部屋で起こっている。




本来、帰るべき場所に生きて戻る事が困難な状況を遭難と呼ぶ。しかしこの部屋では、帰るべき場所こそが、遭難の舞台なのである。
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