怪異観察奇録第4結社

マデリコ相

文字の大きさ
上 下
28 / 81

怪 No.029 「山井芳久牢」

しおりを挟む
とある刑務所にて




「山井芳久」

看守の声で、整えられた白髪が印象的な細身の男が、柔和な笑顔を浮かべこちらを向きました。

「新入りだ。仲良くやれ」

「どうも」

と私が軽く挨拶をすると、山井芳久は表情を変えずに言いました。

「君は、どんな罪を?」

「人を殺してしまいました」

「その方のお名前を聞いてもいいですか」

「Aさんという人です」

「ありがとう」

夜になりました。囚人達は眠る時間です。

しかし、山井芳久は何かを唱えるように呟いています。

耳を澄ますと

「Aさん…Aさん…ごめんなさい…Aさん…Aさん…」

と何故か私が殺した人に贖いの弁を弄しているのです。

涙すら流していました。

「Aさん…Aさん…本当にごめんなさい…」



そしてこの日から、山井芳久の代理懺悔は毎日続きます。

時には自らの体を傷つけてまで悔い改める山井芳久。

自分が犯した罪でも無いのに体を蝕んでまで懺悔する彼を見ていると、私はどうしようもなく居た堪れなくなり、自分の存在が罪の意識に丸呑みされた醜鼠のように思えてなりませんでした。


そして代理懺悔がはじまってから九十五日目。

気づくと私は、自分の命を絶とうとしていたのです。

すんでのところで看守に見つかり、医務室に連れて行かれると、刑務所専属のカウンセラーの元へ案内されました。

カウンセラーは「またか…」と一言呟きました。

「また?」

「君も山井芳久と一緒だったんだろ?」

「はい」

「彼と同じ部屋になったものはね、みんな同じ運命を辿る。彼の代理懺悔に心が耐えられなくなるんだよ。彼は懺悔をする事で興奮を覚える『懺悔癖』を持っているんだ」

「じゃあ、今まで同じ牢に入った全ての人にこれを…」

「いかにも」

「その…山井芳久は…彼自身は、どんな罪を犯したんですか?」

「連続神父殺害」

「確定してるだけでも8人殺ってる」













以下、山井芳久逮捕時の供述


「何故神父を殺すのかって?赦せないじゃないですか。僕以外の人が懺悔に耳を傾けているなんて。それだけ僕に回ってくる懺悔が減るってことですから」



「絶対無期懲役にして下さいね。獄中であれば懺悔と姦宴を開けるかもしれない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

教師(今日、死)

ワカメガメ
ホラー
中学2年生の時、6月6日にクラスの担任が死んだ。 そしてしばらくして不思議な「ユメ」の体験をした。 その「ユメ」はある工場みたいなところ。そしてクラス全員がそこにいた。その「ユメ」に招待した人物は... 密かに隠れたその恨みが自分に死を植え付けられるなんてこの時は夢にも思わなかった。

○○日記

月夜
ホラー
謎の空間に閉じ込められ、手がかりは日記のみ……? 日記は毎日何者かが書き込み、それに沿って部屋が変わっていく 私はなぜここに閉じ込められているのだろうか……?

No.63【ショートショート】蘇我三村

鉄生 裕
ホラー
日本の中国地方にある人口400人弱の限界集落、『蘇我三村』。 この蘇我三村には、とある噂があった。 その村では現在も【人身御供】の風習が残っている。 その噂のせいで蘇我三村に近付こうとする者は一人もおらず、村は完全に孤立していた。 人身御供とは、神への最上級の奉仕として人間の人身を供物として捧げること。 生贄の風習のことである。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

結末のない怖い話

雲井咲穂(くもいさほ)
ホラー
実体験や身近な人から聞いたお話を読める怪談にしてまとめています。 短い文章でさらっと読めるものが多いです。 結末がカチっとしていない「なんだったんだろう?」というお話が多めです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ウロボロスの輪が消える時

魔茶来
ホラー
ショートホラーを集めました。 その1: 元彼が事故で死んでから15年、やっと立ち直った冴子は励まし続けてくれた直人と家庭を持ち1男1女の子供を設けていた。 だがその年の誕生日に届いた花には元彼の名があった。 そこから始まる家庭の崩壊と過去の記憶が冴子を恐怖に落とし込んでいく。

死者への伝言

ツヨシ
ホラー
道端に、花束と手紙があった。

処理中です...