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怪 No.029 「山井芳久牢」
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とある刑務所にて
「山井芳久」
看守の声で、整えられた白髪が印象的な細身の男が、柔和な笑顔を浮かべこちらを向きました。
「新入りだ。仲良くやれ」
「どうも」
と私が軽く挨拶をすると、山井芳久は表情を変えずに言いました。
「君は、どんな罪を?」
「人を殺してしまいました」
「その方のお名前を聞いてもいいですか」
「Aさんという人です」
「ありがとう」
夜になりました。囚人達は眠る時間です。
しかし、山井芳久は何かを唱えるように呟いています。
耳を澄ますと
「Aさん…Aさん…ごめんなさい…Aさん…Aさん…」
と何故か私が殺した人に贖いの弁を弄しているのです。
涙すら流していました。
「Aさん…Aさん…本当にごめんなさい…」
そしてこの日から、山井芳久の代理懺悔は毎日続きます。
時には自らの体を傷つけてまで悔い改める山井芳久。
自分が犯した罪でも無いのに体を蝕んでまで懺悔する彼を見ていると、私はどうしようもなく居た堪れなくなり、自分の存在が罪の意識に丸呑みされた醜鼠のように思えてなりませんでした。
そして代理懺悔がはじまってから九十五日目。
気づくと私は、自分の命を絶とうとしていたのです。
すんでのところで看守に見つかり、医務室に連れて行かれると、刑務所専属のカウンセラーの元へ案内されました。
カウンセラーは「またか…」と一言呟きました。
「また?」
「君も山井芳久と一緒だったんだろ?」
「はい」
「彼と同じ部屋になったものはね、みんな同じ運命を辿る。彼の代理懺悔に心が耐えられなくなるんだよ。彼は懺悔をする事で興奮を覚える『懺悔癖』を持っているんだ」
「じゃあ、今まで同じ牢に入った全ての人にこれを…」
「いかにも」
「その…山井芳久は…彼自身は、どんな罪を犯したんですか?」
「連続神父殺害」
「確定してるだけでも8人殺ってる」
以下、山井芳久逮捕時の供述
「何故神父を殺すのかって?赦せないじゃないですか。僕以外の人が懺悔に耳を傾けているなんて。それだけ僕に回ってくる懺悔が減るってことですから」
「絶対無期懲役にして下さいね。獄中であれば懺悔と姦宴を開けるかもしれない」
「山井芳久」
看守の声で、整えられた白髪が印象的な細身の男が、柔和な笑顔を浮かべこちらを向きました。
「新入りだ。仲良くやれ」
「どうも」
と私が軽く挨拶をすると、山井芳久は表情を変えずに言いました。
「君は、どんな罪を?」
「人を殺してしまいました」
「その方のお名前を聞いてもいいですか」
「Aさんという人です」
「ありがとう」
夜になりました。囚人達は眠る時間です。
しかし、山井芳久は何かを唱えるように呟いています。
耳を澄ますと
「Aさん…Aさん…ごめんなさい…Aさん…Aさん…」
と何故か私が殺した人に贖いの弁を弄しているのです。
涙すら流していました。
「Aさん…Aさん…本当にごめんなさい…」
そしてこの日から、山井芳久の代理懺悔は毎日続きます。
時には自らの体を傷つけてまで悔い改める山井芳久。
自分が犯した罪でも無いのに体を蝕んでまで懺悔する彼を見ていると、私はどうしようもなく居た堪れなくなり、自分の存在が罪の意識に丸呑みされた醜鼠のように思えてなりませんでした。
そして代理懺悔がはじまってから九十五日目。
気づくと私は、自分の命を絶とうとしていたのです。
すんでのところで看守に見つかり、医務室に連れて行かれると、刑務所専属のカウンセラーの元へ案内されました。
カウンセラーは「またか…」と一言呟きました。
「また?」
「君も山井芳久と一緒だったんだろ?」
「はい」
「彼と同じ部屋になったものはね、みんな同じ運命を辿る。彼の代理懺悔に心が耐えられなくなるんだよ。彼は懺悔をする事で興奮を覚える『懺悔癖』を持っているんだ」
「じゃあ、今まで同じ牢に入った全ての人にこれを…」
「いかにも」
「その…山井芳久は…彼自身は、どんな罪を犯したんですか?」
「連続神父殺害」
「確定してるだけでも8人殺ってる」
以下、山井芳久逮捕時の供述
「何故神父を殺すのかって?赦せないじゃないですか。僕以外の人が懺悔に耳を傾けているなんて。それだけ僕に回ってくる懺悔が減るってことですから」
「絶対無期懲役にして下さいね。獄中であれば懺悔と姦宴を開けるかもしれない」
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