下界の神様奮闘記

LUCA

文字の大きさ
上 下
16 / 60

番外編・神様とクリスマス②

しおりを挟む
「お嬢ちゃんや。俺が……じゃなかった、ワシが君に雪のプレゼントをしてあげよう」

「本当に!?サンタのおじさん、雪降らせられるの!?」

「ただし、すぐには無理だよ。サンタのおじさんも、その力を出すために準備が必要だからね。そうだな、また1時間後くらいに来なさい。その時は君の頭の上にもうっすらと積もるくらいの雪が降ってるよ」

「本当に本当!?サンタさん、約束だよ!?」

「あぁ、いいとも。ワシと君との約束だ」

「わーい!じゃあ、また後でお礼を言いに来るからね!」

 サンタのおじさんこと俺は、はしゃぐ女の子と指切りをした。
 そして女の子は、本当にそんなことが出来るのか心配そうに俺の顔を見るお母さんの手を引いて、どこかへ行ってしまった。

「だ、大丈夫なんですか?あんな約束して……」

「大丈夫大丈夫。今日は元々雪の予報だったでしょ?風も少し強くなってきて、寒さもだんだん増してきてるから、もう少ししたら降るんじゃないかな?」

 俺が今から、神様の天候を操作する能力の1つ「雪降らし」を披露するなんて絶対に言えない。
 だから、もうすぐ雪が降りそうな感じのことをそれとなく凪沙ちゃんに伝えた。本当は風の強さも寒さも変わっていない。でも大丈夫。凪沙ちゃんなら信じてくれるから。

「本当ですね!言われてみれば、さっきより風が強くなった感じがするし、寒さも増してきた感じがします!」

 ほらね。凪沙ちゃんはこういう所があるから魅力的だ。ただ、将来変な男に騙されないかが心配だ。

 さて、ぼちぼち雪降らしの力を発揮しなければ。仕組みはシンプルで、今自分がいる場所で雪が降っている様子を頭の中に描き出し、それと同時に雪という天候を引き寄せるイメージで強く念じる。すると、少しずつ天候が雪へと変わっていくだろう。
 女の子には1時間後と伝えたが、それは余裕を持たせるための時間設定である。天界にいた時よりは力は落ちるものの、まぁ40分くらいあれば徐々に雪を降らすことが出来るだろう。

 それからしばらく、俺はサンタの格好でお菓子を配りながら、雪を降らすための準備をする。
 雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。

「神山さん、すいませーん!あちらのテーブルにこの飲み物を運んでくれませんか?ちょっと忙しくなってきて、手が回らなくなっちゃいまして」

「あ、はーい。あっちのテーブルだね?」

 凪沙ちゃんから手伝いを頼まれた。俺はサンタの格好のまま、飲み物を指定のテーブルまで運ぶ。
 こんな寒い時にロックでお酒頼むかね。あ、でもあれか。寒い日に温かい部屋にいて、アイス食べたくなる時あるもんな。あれと同じ感覚なのかな?お客さん、めちゃくちゃ厚着してるし。

 ロックのお酒をテーブルに運んだあと、改めてサンタの格好でお菓子を配りつつ、雪を降らせるイメージをする。
 雪が降ってる様子……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……。雪が降ってる様子……。ロックのお酒……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……。

 ロックのお酒邪魔だな。寒い日にあんな冷たいもの運んだら、そりゃ印象に残るわな。これではまるで、雪じゃなくてみぞれだな。あはは。

 ポツン。ポツン。

 頭上から冷たいものが降ってきた。そろそろか。

 ポツン。ポツン。

 ポツン?雪にしては重量があるな。

 ポツン。ポツン。

 ……。まずい。これ雪じゃなくてみぞれだ……。
 もう1度イメージし直す。雪が降っている様子……。ロックのお酒……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……。ロックのお酒……。ロックのお酒……!

 イメージすればするほどみぞれが強くなってきた。まずいぞ、実にまずい。まだ時間はあるか?

「神山さーん!ちょっと雨よけを立てましょうか!」

 凪沙ちゃんに呼ばれ、俺を含めて鳥居家全員と美鈴ちゃんで、各テーブルとその周りに簡易的な雨よけを立てる。
 俺はその間も必死に雪をイメージする。雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。ロックのお酒……は一旦頭の外に置き。雪が降っている様子……。雪という天候を引き寄せる……。

 念が通じたのかみぞれが少しずつ雪へと変わりつつあった。ここからは、水と氷と雪のせめぎ合いである。頑張れ雪。負けるな雪。

 すると、さっきまで対して気にも留めていなかったイベント会場で流れているBGMが気になり出した。
 このBGMのジャンル、理由は分からないけど、今の自分は思い出さないほうがいい気がする。でも、何故か気になる。
 なんだっけ……?この、エレクトリックベースにドラムとシンバルを組み合わせたドラムセットによるパーカッションによって支えられた、単純明快なビートにも関わらず不思議と体がノッてくるこの音楽のジャンルは……。

 ロックミュージックだ。ロックだ。ロックのお酒だ!

 先程まで雪が優勢を保ちつつあった天候が、完全に氷の粒となり、やがて再びみぞれとなってしまった。

 そこへ、どこかのお店で貰ったであろう紐付きの風船を片手に持ち、もう一方の片手をお母さんに握られた姿で、さっきの女の子がやってきてしまった。タイムリミットだ。

「サンタさんの嘘つき」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

鳳月眠人の声劇シナリオ台本

鳳月 眠人
現代文学
胸を打つあたたかな話から、ハイファンタジー、ホラーギャグ、センシティブまで。 あなたとリスナーのひとときに、心刺さるものがありますように。 基本的に短編~中編 台本。SS短編集としてもお楽しみいただけます。縦書き表示推奨です。 【ご利用にあたって】 OK: ・声劇、演劇、朗読会での上演(投げ銭配信、商用利用含む)。 ・YouTubeなどへのアップロード時に、軽微なアドリブを含むセリフの文字起こし。 ・上演許可取りや報告は不要。感想コメント等で教えて下されば喜びます。 ・挿絵の表紙をダウンロードしてフライヤーや配信背景への使用可。ただし、書かれてある文字を消す・見えなくする加工は‪✕‬ 禁止: ・転載、ストーリー改変、自作発言、改変しての自作発言、小説実況、無断転載、誹謗中傷。

Is the glass half empty or half full? (改稿・加筆版)

家部 春
現代文学
子ども達が巣立ち、25年ぶりに2人暮らしになった直人と絵里。 絵里は1日4時間のパートから正社員になる。 今まで家事は絵里に丸投げだった直人も、絵里に指示を受けながら家事をこなしている。 そんな50代夫婦の何気ない夕食の風景を切り取っています。

『私たち、JKプロレスラーズ1 ~アグネス仮面&マチルダ仮面ペアデビュー編~』

あらお☆ひろ
現代文学
RBFCの読者さんからのリクエストで、赤井翼先生の初期作「私たち、JKプロレスラーズ」シリーズを公開させていただきます。 まずは4部作の中の第1作! 『私たち、JKプロレスラーズ1 ~アグネス仮面&マチルダ仮面ペアデビュー編~』です。 ストーリーは、アグネス・リッケンバッカーとマチルダルークの凸凹JKコンビがLALWE《ロサンゼルス・レディース・レスリング・アソシエーション》に入門するところから話は始まります。 主人公はLAのJKコンビなのですが、「余命半年を宣告された嫁が…」で始まる「稀世ちゃん」シリーズや、「なつ&陽菜犯科帳」の原点ともいえる「勧善懲悪」の「成敗」ものです(笑)。 アメリカンコミックの原作という事もあり、「稀世ちゃんシリーズ」、「なつ&陽菜」シリーズと比べると「単純明快」なストーリーでさらっと読んでいただける作品です。(※個人的感想です。赤井作品なのにややこしい「フラグ」が出てこない(笑)。) 今回のイラストは「RBFC」の「ひいちゃん」さんにお願いしてます。 ちなみに主人公コンビのネーミングは赤井先生いわく、「プロレスマンガ最高峰」の「ヒラマツミノル」大先生の「アグネス仮面」から名前は拝借しちゃってるみたいです(笑)。 その旨も本編中に出てきますので笑って読み流してやってください! では、皆さんが読み続けてくれる限り更新していきまーす! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

夢に繋がる架け橋(短編集)

木立 花音
現代文学
 某DMグループ上で提示された三つの題目に沿って、書いた短編を置いておきます。  短時間で適当に仕上げてますので、クオリティは保障しかねますが、胸がほっこりするようなヒューマンドラマ。ちょっと笑えるコミカルなタイトルを並べています。更新は極めて適当です。 ※表紙画像は、あさぎかな様に作っていただいた、本作の中の一話「夢に繋がる架け橋」のファンアートです。ありがとうございました!

スカイプをしながらゲームの中で他の女とイチャイチャしたらブチ切れられた

春秋花壇
現代文学
記憶がどんどんなくなっていく。 愛 LOVE 優 💕 お揃いなのよw🌻 . 。゚゚・。・゚゚。  ゚。 .L 。゚   ゚・。・゚💛 。゚゚・。・゚゚。 ゚。.O 。゚  ゚・。・゚💙  。゚゚・。・゚゚。  ゚。.V 。゚   ゚・。・゚💚 。゚゚・。・゚゚。 ゚。.E 。゚  ゚・。・゚💜 🍀🌷☘️🌼🌿🌸🌱💕🌱🌸🌿🌼☘️🌷🍀 あなたを信じて居ます❤️ (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゚ஐ⋆* 愛すれば愛するほど わたしは病んでいく…… アスペルガ―症候群の彼 注意欠陥多動障害のわたし 発達障害の二人

【ショートシュート】マジック・ストライカー フットボールは90分、ショートショートは2分で十分

ロボモフ
現代文学
サッカーを題材にしたショートシュートです

処理中です...