空翔けるファーストペンギン

LUCA

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ペンギン協定締結前夜①

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「そろそろ良い時間だから、この会をお開きとしましょうか。明日仕事や学校の人もいるだろうからね。じゃあこの会を締めようと思いますが、誰か挨拶したい人はいるかな? いなければ私がやりますが……」

「はい! はい! 私がやります! ぜひ私にやらせてください!」

 椎名の言葉を遮るように割って入ってきたのは、酒の力を帯びて完全に出来上がった柚希であった。まだ季節は夏だというのに、顔は紅葉のように赤く染まっている。

「お、カケルくんか! 完全に酔っ払ってしまってるけど、これはこれで面白そうだ。ぜひ頼むよ!」

 椎名はその場を楽しむように発言し、そして酔っ払っている柚希を前に来るように誘導する。

「えー、皆さん! 今日は実に楽しかったですね! 少なくとも私は、そう思ってます! 皆さんの作品作りの情熱に比べると、私なんてちっぽけなものだと気付きました! 例えると、そうですねぇ……。皆さんが強火だとしたら、私は弱火よりも弱いとろ火みたいなものです! こんな情熱の弱さでは、作品にしっかり火が通りません、生焼けです! しかし、今日は皆さんから色んな話を聞くことが出来ました! 凄くモチベーションが上がったし、情熱の炎もメラメラと燃えたぎってきました! また明日から、いや、今日から頑張ります! またお会いできる機会があれば、今度は私が皆さんのモチベーションを上げる側の人間になっていると思いますので、楽しみにしていてください! 今日は本当にありがとうございました!」

 柚希は終始元気な挨拶をしてみせた。あまりの熱量に皆圧倒されたのか、挨拶が終わった直後の一瞬だけ、場が静寂に包まれた。しかし、その後から一人、また一人と拍手をする。やがて、その拍手は大きなものとなって会場を支配した。

 肇と竹吉を除いた全員がにこやかな表情をしている。あの柏木ですらも、呆れたような顔をしつつも笑顔を見せていた。

 肇はふと気になり、たまゆらを横目でちらと見る。たまゆらは、本日一番といっても過言ではないくらいの笑顔で、大きな拍手をしていた。「やっぱりあいつは嫌いだ」と、肇は心の中で呟く。

「カケルくん、ありがとう。実に素晴らしい締めの挨拶でしたよ。さぁ、皆さん気を付けて帰ってくださいね。柚希くんは……、一人で帰れるかい?」

「ちょっと椎名さん! バカにしてるんですかー? 私も子供じゃないんだし、一人で帰れますよー!」

 そう言う柚希の目は、完全に据わり始めていた。立ち上がろうとしても足に力が入らないのか、数歩フラフラとよろけては座り込む。それを2、3回繰り返していた。

「大丈夫……、じゃなさそうだね。誰か、柚希くんと一緒に帰ってくれることが可能な人はいるかい?」

 皆一様に顔を見合わせる。誰も我先にと口を開くものはいない。酔っ払いを介抱しながら帰宅することなど、誰が好きに行うのだ。皆の顔からはそういった表情が見え隠れしていた。

「私はこの後、淳之介と予定があるから。べ、別にデートとかではないわよ。小説に関して話し合いをするだけ。だから私は無理だからね」

 一番にアリサが切り出しだ。この時点でアリサと竹吉が消えた。

「俺は仕事関係の者と食事の予定がある」

 次に柏木がそう言った。おそらく柏木は最初からカケルを介抱しながら帰宅するつもりなどなかったであろう。柏木の印象から、肇はそう推測した。柏木も消える。

「うーん、僕も無理だね。今日の話を聞く限り、家は反対方向だったし。明日も早いからなぁ」

 日下部が言う。この時点で肇とたまゆら、そして椎名が候補となった。

 肇はたまゆらの方を見る。同じようなタイミングで、たまゆらも肇の方を向いた。

 さすがに女性に介抱させるわけにはいかない。そして椎名は、今回の会を主催してくれた張本人である。主催者に参加者を介抱させるのは気が引けるというものだ。

 肇は観念した。

「じ、じゃあ僕が送っていきましょうか……?」

「お、ソラくんが一緒に帰ってくれるのかい? 悪いね、ありがとう!」

「ソラさん、お優しいですね! これならカケルさんも安心だと思います」

 完全に押し付けられた感じがしたが、今更引くことはできなかった。肇は仕方なく、柚希を家まで送り届けることにした。

「じゃあ、改めて皆さん。今日は集まってくれて本当にありがとうございました。実に有意義な会になりましたね。またいつか再会できること、および皆さんの今後の活躍を願っています。気を付けてお帰り下さいね」

 椎名の発言の後、竹吉とアリサは軽く皆に一礼して部屋を出て行った。「また会おうね!」と挨拶した日下部、それに続いて柏木も部屋を出る。

「今日はありがとうございました。今後も頑張っていきましょうね!」

 肇と椎名、そしてベロベロになっている柚希に挨拶をし、たまゆらも部屋を出て行った。

「それじゃあソラくん、カケルくんをよろしく頼むよ」

「はい、分かりました。今日はありがとうございました。また是非集まりましょう!」

「そうだね! また集まろうね」

 椎名への挨拶を終えた肇は、介抱するために柚希に近付く。
「ほら、行くぞ」と肇が柚希の顔を覗き込む。柚希は完全に眠っていた。
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