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10年後
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結婚式場の大きな庭を小さなブライダルカーが走る。
車は私の愛車でパステルブルーの軽自動車だ。
走る車のお尻には紐でくくられた空き缶がカラカラと音を立てている。
車を停めてスタッフに扉を開けてもらうと挙式を終えた私と夫が颯爽と再登場した。
そのまま出席者たちが並ぶガーデンを真っ直ぐに歩くと用意されたフラワーシャワーを一身に浴びた。
私と夫は腕を組んで微笑みながら前に進んでいく。
夫はさっきまでガチガチに緊張していて私がブライダルカーを運転している間も落ち着きがなかったが、仲の良い高校時代の友人からフラワーシャワーを浴びると少しだけ安堵した表情を浮かべた。
私は前に進むごとに順番に見える高校の同級生や会社の上司や同僚に笑顔を向ける。
「おめでとう!」
皆がそう言って私たちに花びらを降らす。
その途中で面白いものを見ているような表情で笑う寛人(ひろと)が私の顔面にわざと当たるように花びらを投げた。
私はそんな寛人に対してなんの反応も示さず、他の参列者に見せる笑顔と同じ顔のまま何事もなく通り過ぎていった。
写真撮影をしている間、寛人は後ろの方にいて私には姿が見えなかった。
「ねぇねぇ、こういう時ってさ…変顔したくならない?」
腕を組む直哉が私に耳打ちする。
二階からカメラを構えてシャッターを押すカメラマンを見るために私たちは空を見上げていた。
空はあいにくの曇天だったが濁り切った雲はなんだか私に似合っている気がした。
「わかる。私も今、チョー変顔したい!」
私が同意すると直哉は嬉しそうに微笑んで私の頭に頬を寄せた。その瞬間をカメラマンがシャッターを切る。
写真撮影が終わって披露宴に向けて退場する為に私たちは腕を組んだまま参列者に向けてお辞儀する。
お辞儀している間、私の頭にはさっきの寛人の顔が浮かんでいた。
着飾って大人しくする私を面白そうに見ていた寛人の笑顔が頭から離れなかった。
披露宴が始まっても私は参列者を見渡す素振りを見せながら寛人の姿を追っていた。
寛人は私の伯母夫妻と同じ席に座って、まるで本当の家族のように私を見ていた。本来ならば、そこの席は母が座るべき席なのだったがあいにく母は再婚相手との新婚旅行が重なってしまい欠席だ。
一ヶ月前に再婚した母は結婚式を挙げない代わりに新婚旅行へと旅立った。今回は近場で熱海の温泉街だそうだ。
その前の旦那とは北海道に行き、さらにその前の旦那とは私を連れてハワイに行った。
寛人のお父さんと再婚した時はグアムに行って私と寛人は海で泳いだり砂浜で追いかけっこをしたりした。
母が寛人のお父さんと再婚した時、私は五歳で寛人は八歳だった。
私も寛人も最初は人見知りしてあまり喋らなかったが同じ屋根の下で何日も暮らしていくうちに自然と打ち解けて本当の家族のようになった。
寛人は戦隊ヒーローと虫捕りが大好きな男の子で、やんちゃだけど弱いものを大切にする子だった。私は甘えん坊で寂しがりやだったから寛人に懐くといつもそばにくっついていた。
「寛人!」
私が寛人の名前を呼ぶと母はいつも、お兄ちゃんでしょ?と呼び捨てする私を窘めた。
寛人はそんな母に対してよく、別に寛人でいいよ。とぶっきらぼうに返した。
「ねぇ、寛人は私のママのことが嫌いなの?」
二人で作った秘密基地という名の押入れで肩を並べて体育座りしながら尋ねると寛人は複雑な表情で首を横に振った。
「別に…嫌いじゃない。でも俺の母さんは俺が生まれたばっかの時に死んじゃって今までお母さんって存在の人がそばにいたことがないから、どうすればいいのかわからない。…それだけ。」
薄暗い押入れの中で寛人の横顔は戸惑いの表情を見せていた。私は寛人に甘えるように肩に寄り掛かると寛人は顔を赤くして、なんだよ~重いなぁ…と言いながら私の体を引き剥がした。
「大丈夫だよ、寛人。私のお母さん、優しいから。きっと寛人のこと大好きだよ。私も寛人が大好き!」
私の言葉に寛人は驚いたようで一瞬、目を見開いた。それからパチクリと瞬きをして、…そうか。とだけ返した。
あの日から十八年の月日が流れた。
「…なぁ、歩美。この上に乗ったよく分かんない葉っぱ、残しても許されるかな?」
隣に座る直哉がナイフとフォークを持って私に尋ねる。
席に座る私たちの前には普段は絶対に食べないような見たこともない料理が置かれていた。余白が多い皿の真ん中にカラフルな野菜や魚が丸く押し固められた料理は、長いタイトルの中に今まで聞いたことがないようなカタカナが並べられていた。
直哉はその料理の上に乗った観葉植物をちぎってきたような葉っぱをナイフで邪魔者を扱うような手つきで端に追いやった。
「私もその葉っぱ残そう~。」
そう言って直哉と同じように葉っぱを皿の端に追いやる。
私たちが葉っぱをどかしているとシェフが料理の説明を始めた。私は早く肉料理とデザートが食べたかったがどちらも最後の方に出るようだ。
よくわからない野菜と魚の塊は口に入れると意外に美味しかった。量が少ないから食べた気がしないけれどコースを全部食べた頃には満腹になっているだろうか。
寛人が座る席を見ると彼は既に食べ終わっていてスタッフが皿を片している最中だった。
寛人は仕事で着ているスーツと同じ格好で参列している。
元々、細身で今も痩せているが前に比べて少し太ったような気がする。幸せ太りなのだろうか。寛人はテーブル上に置かれたキャンドルを見つめていて私とは目が合わなかった。
「ママ、嫌だ。離れたくない!」
泣き喚く私の腕を母は強引に引っ張る。
家の中は私と母の私物がなくなって女性的な雰囲気がなくなっていた。
ついさっきまであった私たちの物は全て引っ越し業者が持っていって家の中は不自然な空白だらけだ。
「ほら、靴履いて!ママがそばにいるから…」
母は大きなショルダーバッグを肩にかけて私を玄関へと引っ張っていった。
泣きながら靴を履く私は振り向いて静かな家の中を見つめて再び泣いた。
家のドアを開けると丁度、中学校から帰宅したばかりの寛人が立っていた。
母は気まずそうに後退りする。
「…おかえり。私たち、もう出るから…じゃあね。」
母の言葉に寛人は黙って頷く。
私は泣きながら寛人のそばに寄ろうとしたが母に制止されて近づくことが出来なかった。
「寛人ぉ!」
泣きながら名前を呼ぶ私を母が強引に肩を抱いて前に進ませる。寛人は制服姿でリュックサックのベルトをギュッと握りしめて俯いていた。
玄関を出て外で待っていたタクシーに押し込まれると静かに発車した。私は席に膝を乗せて後方のガラスから離れていくアパートを見つめる。
この家に来てから五年の月日を共にした。私が十歳になり、寛人が十三歳になったタイミングで二人は離婚した。
母はもう二度と寛人や寛人のお父さんと会わないだろう。だから私も、もう二度と寛人には会えない。
寂しさと悲しさの混ざった涙をボロボロと溢しながらアパートを眺めていると玄関から寛人が出てきて離れていく私たちを走って追いかけた。
「お母さん、寛人が…!!」
私の訴えを母は聞かずにうっすらと涙を浮かべながら前だけを見つめていた。それは何が何でも見ないという決意すら感じられた。
寛人は顔を歪めて全速力で走っていた。
絶対に追いつかないタクシーを必死に追いかけていた。
タクシーは走っている寛人からどんどんと距離を離していき、やがて角を曲がると寛人の姿は見えなくなった。
私は後ろを見るのをやめて正面を向くと、号泣しながらいつか絶対に寛人に会いに行くと決意した。
私たちは出会ってから五年間だけ兄弟だった。私にとって寛人は兄弟だけど兄弟以上に特別な感情があった。でもその特別な感情が何なのか私にもわからなかった。
会場のライトが全て消されて辺りが薄暗くなる。
お色直しをして淡い紫色のドレスに着替えた私は着火剤を持った直哉と各テーブルをまわってキャンドルに火を灯す。
席に座った若い参列者たちはキャンドルに火が灯る瞬間をスマホ画面に収めて歓声を上げた。
「歩美、おめでとう。そのドレス、すごく似合ってる!」
高校時代のクラスメイトで友人の真美がスマホを片手に笑顔で話しかけた。
「ありがとう。」
「直哉くんもおめでとう!高校時代に付き合った二人がこうして結婚するなんて…なんか純愛って感じで素敵♡」
真美の言葉に直哉が照れ笑いする。
私は高校時代、直哉と付き合うまで色んな男を取っ替え引っ替えしていてパパ活や援交もしていた。
直哉と付き合ってからもパパ活はしばらく続けていたが、それを誰かに言うことはなかった。
直哉は私がやっていたありとあらゆることを黙認していて最後まで私を想い続けてくれた。私はその想いに折れるかたちで交際することになった。
こんなに私を愛してくれる人はきっと直哉しかいない。ヘラヘラしているけど一途で辛抱強くて器が大きい男だ。
直哉は私のことを何でも許してくれる。それなのに私は直哉に物足りなさを感じていて、結婚してもいつか離婚するんじゃないかって考えている。いつか直哉との刺激がなくて物足りない生活に辟易して愛の巣を飛び出してしまうかもしれない。
私のお母さんのように私は平凡な人生が苦手だ。
寛人のように平凡で幸せな家庭を築ける自信がない。
直哉と腕を組んで寛人と伯母夫妻が座る席に向かっていく。
寛人が座る席にキャンドルを灯すと寛人の顔がオレンジ色の光を帯びて私の瞳に映し出された。その表情は安堵しているように見えて、どこか切なげだった。
「歩美ちゃん、綺麗だわ。」
伯母が感慨深く両手を合わせて私の姿を見つめる。
「お母さんにも見せてあげたかったのに…頼子ったら、娘の結婚式よりも自分の新婚旅行を優先させるなんて…」
不服な顔をする伯母に私は笑って誤魔化した。
お母さんは昔から気まぐれでスケジュール管理が苦手だ。まるで私にそっくり。
「直哉、この人は私のお母さんのお姉さんで、隣にいるのがその旦那さん。それから、この人は…」
寛人の方に顔を向けると言葉を失った。
私と寛人は一体、どんな関係なのだろう。
私達は血の繋がりもなく、戸籍上で五年間だけ兄弟だった…たったそれだけの関係だ。
「はじめまして。僕は歩美さんのお母さんの知人で、今日はお母さんに頼まれて代わりに参加しました!」
立ち上がった寛人が堂々と嘘をつく。
直哉はそれを鵜呑みして会釈した。
「はい、二人とも笑顔で写って!」
寛人がスマホのカメラを私たちに向けた。私と直哉は腕を組んで笑みを浮かべる。向けられた寛人のスマホケースの中には、二歳になった寛人と奥さんの子供の写真が入っていた。
新幹線のキャラクターが描かれた服を着て、幼児専用の手押し車に跨る男の子は目元が寛人にそっくりだ。
その写真を見ながら私は過去を思い出す。
今から三年前、お母さんが寛人のお父さんと離婚してから十年の月日が流れた。
私は二十歳になって、高校卒業を機に就職した地元のガス会社で入社二年目になっていた。
仕事にも慣れて、直哉との交際も順調で、何不自由ない生活は満足なようで刺激とは無縁で、物足りなさを覚えていた。時折、他の男と一夜だけの関係を持つことはあっても私の心は満たされず、ぽっかりと穴が空いたままだった。
会社には毎日、他企業から多くの来客が訪れる。受付嬢の私は多くの取り引き先の名前を覚えなければならなかった。
入社したての頃、ファイリングされた大量の名刺を渡された時はこれ全部を覚えなければならないと知り、絶望した。しかしそれも大変だったのは最初の半年間だけで、慣れてしまえばあとは年単位で追加されていく新入社員を覚えればよかった。
寛人と再会を果たした時、私は寛人が渡した名刺を見て声を上げた。
「船場寛人!」
私の声に寛人は首を傾げていた。
「…私、あ・ゆ・み!長崎歩美…元(もと)船場歩美!!」
私が立ち上がって叫ぶと寛人は思い出したようにハッとして私の顔をまじまじと見た。
それから笑顔になって、歩美~!と懐かしげに名前を呼んだ。それはまるで久々に帰った実家の犬に向けて見せる笑顔と声のようだった。
私は寛人に連絡先を書いた紙を渡して私達は後日、会う約束をした。
寛人と再会を果たした二日後の金曜日、私達は居酒屋で落ち合った。
寛人は生ビールを頼み、私は梅酒をロックで頼んだ。
ジョッキとグラスを乾杯した時、私たちが酒を飲むことになるなんて十年前は想像できなくて感動した。
感動して、嬉しくて、涙が出そうになったけれど寛人が左手薬指にシルバーの指輪を嵌めていることに気づいて急に冷静になった。
私はそれに気付かぬふりをして二人で過ごした昔話を始めると寛人もそれに乗って懐かしむように話に花が咲いた。
「そっかぁ…大学卒業してから就職してこっちに来たんだねぇ…そういえば寛人のお父さんは元気?」
「うん、元気だよ。もう結婚は懲り懲りだって言って今はおっさん仲間とキャンプばっかやってる。」
「あははっ!いいじゃん、キャンプ!楽しそう!」
「歩美のお母さんは相変わらず元気?」
「うん、相変わらず元気だよ。あれから二回再婚して全部ダメになって、今は恋愛なんて懲り懲りだって言って大人しく仕事してるよ…まぁ、どうせまたすぐに相手見つけて籍入れちゃうんだろうけど。」
「そうか…」
寛人は私の顔を心配そうに見つめた。私はその顔が昔の寛人のままで切なくなった。
「寛人、結婚したんだね…。相手の奥さんはどんな人なの?」
「うん、大学の同期で付き合うことになって卒業を機に結婚したんだ。」
「じゃあ、まだ新婚なんだ…陰で私と会ってるのがバレたら奥さんに怒られるよ!」
笑いながら寛人の肩を叩くと寛人は笑顔で、大丈夫。と返した。
「大丈夫。ちゃんと言ってあるから。」
私の胸がきゅっと掴まれたように息苦しくなる。
何が大丈夫なんだ。私とは何も起こらないって確信しているのか…。
ちゃんと言ってあるって何て伝えたのだろうか…
生き別れた妹と再会したとでも伝えたのだろうか…
私の酒を飲むスピードは急ピッチになって寛人は私を心配したが私はいうことを聞かず、店を出る頃には泥酔して、寛人に体を支えてもらわないと歩けないほどになっていた。
「寛人ぉ、私、寛人と離れても寛人のことが忘れられなくて何度も寛人に会いに行こうとしたのよ。」
寛人の体にへばりつきながら呂律が回らない舌で寛人に話しかけた。
「でもね、お母さんが場所を教えてくれなくて…だから私、自分で記憶を辿りながらネットで調べてアパートに行ったの。」
十四才の時、私は寛人に会いたくて昔の記憶を頼りにインターネットで調べてあのアパートの住所を見つけた。
中学生になった私は昔みたいに何もできない子ではなくなって、自分で調べて、電車を乗り継いで、アパートまで行けるようになったのだ。
「でもね…寛人はいなくなってた。私達が一緒に住んでたあのアパートには知らない人たちがいたの…」
私達が行ってきますとただいまを繰り返したあの家には、知らない家族の洗濯物が干されていて、郵便ポストには知らない苗字が記載されていて寛人や寛人のお父さんの痕跡はなくなっていた。
「ねぇ、寛人…どうして私を迎えにきてくれなかったの?どうして私に会いに来てくれなかったの?」
寛人の体にまとわりつく私は涙を流していた。きっとあれはお酒のせいだったのかもしれない。
寛人は私の体を支えながら黙って聞いていたが、やがて口を開いてただ一言、ごめん。と呟いた。
私は寛人が何も悪くないことを知っている。
幼い寛人が家を出て行った私たちの所在を調べることなど不可能で仕方がないことなのを知っていたが、出会ったタイミングが十年後の現在であることが遣る瀬無くて彼を責めることしか出来なかった。
寛人はそれを全部、受け止めて謝るだけだった。
彼は私に何か伝えたいことがあるように見えたけれど最後まで自分の気持ちを言うことはなかった。
あれから三年…十年振りに再会した時と違って私の心は穏やかだ。
寛人の顔を見ても涙は出てこないし、心がぐちゃぐちゃに掻き乱されることもない。私はこの三年で諦めるということを学んだ。
どう足掻いたって結婚前の寛人とは出会えないし、私達が再会したのは十年後であることに変わりはない。
私も寛人も不倫するほど情熱的な恋愛感情はないし、私は不倫をするとしても寛人は選ばない。
私は寛人のありふれた幸せを壊すほど無慈悲ではないし、彼への想いはそんな程度のものではない。
そんな程度のものではないから、ひっそりと胸の中に留める。
そうして寛人の幸せを見届ける。
もしも十年後に再会していなければ私は今頃、こんなに複雑な気持ちで結婚式を迎えていなかっただろう。
寛人の結婚も生まれた赤ちゃんも何も知らないで済んだ。
私は三年前に名刺を見て声を上げた私自身を恨んでいる。十年振りに見つけた船場寛人の四文字を読み上げたこと、何も気づいていない寛人に私が誰なのか名乗ったこと…全てを恨んでいる。
全ての席にキャンドルを照らした私と直哉は席に着いて、新郎側の友人たちが用意した余興を鑑賞する。
直哉の大学時代の友人たちが今流行りの曲に合わせてレベルの低いダンスを披露していた。
男四人が狭いスペースで省エネな動きの踊りを見せる。それを参列者たちが手拍子で無理やり盛り上げていた。
私はその踊りを見ながら、こっそりとあくびをした。
それから寛人の方を見ると、寛人は笑いながら私の様子をスマホカメラの中におさめていた。
スマホ画面を横にして私の姿をおさめる寛人。
スマホケースの中には目元が寛人にそっくりな赤ちゃんの写真が横になって私を見ていた。
車は私の愛車でパステルブルーの軽自動車だ。
走る車のお尻には紐でくくられた空き缶がカラカラと音を立てている。
車を停めてスタッフに扉を開けてもらうと挙式を終えた私と夫が颯爽と再登場した。
そのまま出席者たちが並ぶガーデンを真っ直ぐに歩くと用意されたフラワーシャワーを一身に浴びた。
私と夫は腕を組んで微笑みながら前に進んでいく。
夫はさっきまでガチガチに緊張していて私がブライダルカーを運転している間も落ち着きがなかったが、仲の良い高校時代の友人からフラワーシャワーを浴びると少しだけ安堵した表情を浮かべた。
私は前に進むごとに順番に見える高校の同級生や会社の上司や同僚に笑顔を向ける。
「おめでとう!」
皆がそう言って私たちに花びらを降らす。
その途中で面白いものを見ているような表情で笑う寛人(ひろと)が私の顔面にわざと当たるように花びらを投げた。
私はそんな寛人に対してなんの反応も示さず、他の参列者に見せる笑顔と同じ顔のまま何事もなく通り過ぎていった。
写真撮影をしている間、寛人は後ろの方にいて私には姿が見えなかった。
「ねぇねぇ、こういう時ってさ…変顔したくならない?」
腕を組む直哉が私に耳打ちする。
二階からカメラを構えてシャッターを押すカメラマンを見るために私たちは空を見上げていた。
空はあいにくの曇天だったが濁り切った雲はなんだか私に似合っている気がした。
「わかる。私も今、チョー変顔したい!」
私が同意すると直哉は嬉しそうに微笑んで私の頭に頬を寄せた。その瞬間をカメラマンがシャッターを切る。
写真撮影が終わって披露宴に向けて退場する為に私たちは腕を組んだまま参列者に向けてお辞儀する。
お辞儀している間、私の頭にはさっきの寛人の顔が浮かんでいた。
着飾って大人しくする私を面白そうに見ていた寛人の笑顔が頭から離れなかった。
披露宴が始まっても私は参列者を見渡す素振りを見せながら寛人の姿を追っていた。
寛人は私の伯母夫妻と同じ席に座って、まるで本当の家族のように私を見ていた。本来ならば、そこの席は母が座るべき席なのだったがあいにく母は再婚相手との新婚旅行が重なってしまい欠席だ。
一ヶ月前に再婚した母は結婚式を挙げない代わりに新婚旅行へと旅立った。今回は近場で熱海の温泉街だそうだ。
その前の旦那とは北海道に行き、さらにその前の旦那とは私を連れてハワイに行った。
寛人のお父さんと再婚した時はグアムに行って私と寛人は海で泳いだり砂浜で追いかけっこをしたりした。
母が寛人のお父さんと再婚した時、私は五歳で寛人は八歳だった。
私も寛人も最初は人見知りしてあまり喋らなかったが同じ屋根の下で何日も暮らしていくうちに自然と打ち解けて本当の家族のようになった。
寛人は戦隊ヒーローと虫捕りが大好きな男の子で、やんちゃだけど弱いものを大切にする子だった。私は甘えん坊で寂しがりやだったから寛人に懐くといつもそばにくっついていた。
「寛人!」
私が寛人の名前を呼ぶと母はいつも、お兄ちゃんでしょ?と呼び捨てする私を窘めた。
寛人はそんな母に対してよく、別に寛人でいいよ。とぶっきらぼうに返した。
「ねぇ、寛人は私のママのことが嫌いなの?」
二人で作った秘密基地という名の押入れで肩を並べて体育座りしながら尋ねると寛人は複雑な表情で首を横に振った。
「別に…嫌いじゃない。でも俺の母さんは俺が生まれたばっかの時に死んじゃって今までお母さんって存在の人がそばにいたことがないから、どうすればいいのかわからない。…それだけ。」
薄暗い押入れの中で寛人の横顔は戸惑いの表情を見せていた。私は寛人に甘えるように肩に寄り掛かると寛人は顔を赤くして、なんだよ~重いなぁ…と言いながら私の体を引き剥がした。
「大丈夫だよ、寛人。私のお母さん、優しいから。きっと寛人のこと大好きだよ。私も寛人が大好き!」
私の言葉に寛人は驚いたようで一瞬、目を見開いた。それからパチクリと瞬きをして、…そうか。とだけ返した。
あの日から十八年の月日が流れた。
「…なぁ、歩美。この上に乗ったよく分かんない葉っぱ、残しても許されるかな?」
隣に座る直哉がナイフとフォークを持って私に尋ねる。
席に座る私たちの前には普段は絶対に食べないような見たこともない料理が置かれていた。余白が多い皿の真ん中にカラフルな野菜や魚が丸く押し固められた料理は、長いタイトルの中に今まで聞いたことがないようなカタカナが並べられていた。
直哉はその料理の上に乗った観葉植物をちぎってきたような葉っぱをナイフで邪魔者を扱うような手つきで端に追いやった。
「私もその葉っぱ残そう~。」
そう言って直哉と同じように葉っぱを皿の端に追いやる。
私たちが葉っぱをどかしているとシェフが料理の説明を始めた。私は早く肉料理とデザートが食べたかったがどちらも最後の方に出るようだ。
よくわからない野菜と魚の塊は口に入れると意外に美味しかった。量が少ないから食べた気がしないけれどコースを全部食べた頃には満腹になっているだろうか。
寛人が座る席を見ると彼は既に食べ終わっていてスタッフが皿を片している最中だった。
寛人は仕事で着ているスーツと同じ格好で参列している。
元々、細身で今も痩せているが前に比べて少し太ったような気がする。幸せ太りなのだろうか。寛人はテーブル上に置かれたキャンドルを見つめていて私とは目が合わなかった。
「ママ、嫌だ。離れたくない!」
泣き喚く私の腕を母は強引に引っ張る。
家の中は私と母の私物がなくなって女性的な雰囲気がなくなっていた。
ついさっきまであった私たちの物は全て引っ越し業者が持っていって家の中は不自然な空白だらけだ。
「ほら、靴履いて!ママがそばにいるから…」
母は大きなショルダーバッグを肩にかけて私を玄関へと引っ張っていった。
泣きながら靴を履く私は振り向いて静かな家の中を見つめて再び泣いた。
家のドアを開けると丁度、中学校から帰宅したばかりの寛人が立っていた。
母は気まずそうに後退りする。
「…おかえり。私たち、もう出るから…じゃあね。」
母の言葉に寛人は黙って頷く。
私は泣きながら寛人のそばに寄ろうとしたが母に制止されて近づくことが出来なかった。
「寛人ぉ!」
泣きながら名前を呼ぶ私を母が強引に肩を抱いて前に進ませる。寛人は制服姿でリュックサックのベルトをギュッと握りしめて俯いていた。
玄関を出て外で待っていたタクシーに押し込まれると静かに発車した。私は席に膝を乗せて後方のガラスから離れていくアパートを見つめる。
この家に来てから五年の月日を共にした。私が十歳になり、寛人が十三歳になったタイミングで二人は離婚した。
母はもう二度と寛人や寛人のお父さんと会わないだろう。だから私も、もう二度と寛人には会えない。
寂しさと悲しさの混ざった涙をボロボロと溢しながらアパートを眺めていると玄関から寛人が出てきて離れていく私たちを走って追いかけた。
「お母さん、寛人が…!!」
私の訴えを母は聞かずにうっすらと涙を浮かべながら前だけを見つめていた。それは何が何でも見ないという決意すら感じられた。
寛人は顔を歪めて全速力で走っていた。
絶対に追いつかないタクシーを必死に追いかけていた。
タクシーは走っている寛人からどんどんと距離を離していき、やがて角を曲がると寛人の姿は見えなくなった。
私は後ろを見るのをやめて正面を向くと、号泣しながらいつか絶対に寛人に会いに行くと決意した。
私たちは出会ってから五年間だけ兄弟だった。私にとって寛人は兄弟だけど兄弟以上に特別な感情があった。でもその特別な感情が何なのか私にもわからなかった。
会場のライトが全て消されて辺りが薄暗くなる。
お色直しをして淡い紫色のドレスに着替えた私は着火剤を持った直哉と各テーブルをまわってキャンドルに火を灯す。
席に座った若い参列者たちはキャンドルに火が灯る瞬間をスマホ画面に収めて歓声を上げた。
「歩美、おめでとう。そのドレス、すごく似合ってる!」
高校時代のクラスメイトで友人の真美がスマホを片手に笑顔で話しかけた。
「ありがとう。」
「直哉くんもおめでとう!高校時代に付き合った二人がこうして結婚するなんて…なんか純愛って感じで素敵♡」
真美の言葉に直哉が照れ笑いする。
私は高校時代、直哉と付き合うまで色んな男を取っ替え引っ替えしていてパパ活や援交もしていた。
直哉と付き合ってからもパパ活はしばらく続けていたが、それを誰かに言うことはなかった。
直哉は私がやっていたありとあらゆることを黙認していて最後まで私を想い続けてくれた。私はその想いに折れるかたちで交際することになった。
こんなに私を愛してくれる人はきっと直哉しかいない。ヘラヘラしているけど一途で辛抱強くて器が大きい男だ。
直哉は私のことを何でも許してくれる。それなのに私は直哉に物足りなさを感じていて、結婚してもいつか離婚するんじゃないかって考えている。いつか直哉との刺激がなくて物足りない生活に辟易して愛の巣を飛び出してしまうかもしれない。
私のお母さんのように私は平凡な人生が苦手だ。
寛人のように平凡で幸せな家庭を築ける自信がない。
直哉と腕を組んで寛人と伯母夫妻が座る席に向かっていく。
寛人が座る席にキャンドルを灯すと寛人の顔がオレンジ色の光を帯びて私の瞳に映し出された。その表情は安堵しているように見えて、どこか切なげだった。
「歩美ちゃん、綺麗だわ。」
伯母が感慨深く両手を合わせて私の姿を見つめる。
「お母さんにも見せてあげたかったのに…頼子ったら、娘の結婚式よりも自分の新婚旅行を優先させるなんて…」
不服な顔をする伯母に私は笑って誤魔化した。
お母さんは昔から気まぐれでスケジュール管理が苦手だ。まるで私にそっくり。
「直哉、この人は私のお母さんのお姉さんで、隣にいるのがその旦那さん。それから、この人は…」
寛人の方に顔を向けると言葉を失った。
私と寛人は一体、どんな関係なのだろう。
私達は血の繋がりもなく、戸籍上で五年間だけ兄弟だった…たったそれだけの関係だ。
「はじめまして。僕は歩美さんのお母さんの知人で、今日はお母さんに頼まれて代わりに参加しました!」
立ち上がった寛人が堂々と嘘をつく。
直哉はそれを鵜呑みして会釈した。
「はい、二人とも笑顔で写って!」
寛人がスマホのカメラを私たちに向けた。私と直哉は腕を組んで笑みを浮かべる。向けられた寛人のスマホケースの中には、二歳になった寛人と奥さんの子供の写真が入っていた。
新幹線のキャラクターが描かれた服を着て、幼児専用の手押し車に跨る男の子は目元が寛人にそっくりだ。
その写真を見ながら私は過去を思い出す。
今から三年前、お母さんが寛人のお父さんと離婚してから十年の月日が流れた。
私は二十歳になって、高校卒業を機に就職した地元のガス会社で入社二年目になっていた。
仕事にも慣れて、直哉との交際も順調で、何不自由ない生活は満足なようで刺激とは無縁で、物足りなさを覚えていた。時折、他の男と一夜だけの関係を持つことはあっても私の心は満たされず、ぽっかりと穴が空いたままだった。
会社には毎日、他企業から多くの来客が訪れる。受付嬢の私は多くの取り引き先の名前を覚えなければならなかった。
入社したての頃、ファイリングされた大量の名刺を渡された時はこれ全部を覚えなければならないと知り、絶望した。しかしそれも大変だったのは最初の半年間だけで、慣れてしまえばあとは年単位で追加されていく新入社員を覚えればよかった。
寛人と再会を果たした時、私は寛人が渡した名刺を見て声を上げた。
「船場寛人!」
私の声に寛人は首を傾げていた。
「…私、あ・ゆ・み!長崎歩美…元(もと)船場歩美!!」
私が立ち上がって叫ぶと寛人は思い出したようにハッとして私の顔をまじまじと見た。
それから笑顔になって、歩美~!と懐かしげに名前を呼んだ。それはまるで久々に帰った実家の犬に向けて見せる笑顔と声のようだった。
私は寛人に連絡先を書いた紙を渡して私達は後日、会う約束をした。
寛人と再会を果たした二日後の金曜日、私達は居酒屋で落ち合った。
寛人は生ビールを頼み、私は梅酒をロックで頼んだ。
ジョッキとグラスを乾杯した時、私たちが酒を飲むことになるなんて十年前は想像できなくて感動した。
感動して、嬉しくて、涙が出そうになったけれど寛人が左手薬指にシルバーの指輪を嵌めていることに気づいて急に冷静になった。
私はそれに気付かぬふりをして二人で過ごした昔話を始めると寛人もそれに乗って懐かしむように話に花が咲いた。
「そっかぁ…大学卒業してから就職してこっちに来たんだねぇ…そういえば寛人のお父さんは元気?」
「うん、元気だよ。もう結婚は懲り懲りだって言って今はおっさん仲間とキャンプばっかやってる。」
「あははっ!いいじゃん、キャンプ!楽しそう!」
「歩美のお母さんは相変わらず元気?」
「うん、相変わらず元気だよ。あれから二回再婚して全部ダメになって、今は恋愛なんて懲り懲りだって言って大人しく仕事してるよ…まぁ、どうせまたすぐに相手見つけて籍入れちゃうんだろうけど。」
「そうか…」
寛人は私の顔を心配そうに見つめた。私はその顔が昔の寛人のままで切なくなった。
「寛人、結婚したんだね…。相手の奥さんはどんな人なの?」
「うん、大学の同期で付き合うことになって卒業を機に結婚したんだ。」
「じゃあ、まだ新婚なんだ…陰で私と会ってるのがバレたら奥さんに怒られるよ!」
笑いながら寛人の肩を叩くと寛人は笑顔で、大丈夫。と返した。
「大丈夫。ちゃんと言ってあるから。」
私の胸がきゅっと掴まれたように息苦しくなる。
何が大丈夫なんだ。私とは何も起こらないって確信しているのか…。
ちゃんと言ってあるって何て伝えたのだろうか…
生き別れた妹と再会したとでも伝えたのだろうか…
私の酒を飲むスピードは急ピッチになって寛人は私を心配したが私はいうことを聞かず、店を出る頃には泥酔して、寛人に体を支えてもらわないと歩けないほどになっていた。
「寛人ぉ、私、寛人と離れても寛人のことが忘れられなくて何度も寛人に会いに行こうとしたのよ。」
寛人の体にへばりつきながら呂律が回らない舌で寛人に話しかけた。
「でもね、お母さんが場所を教えてくれなくて…だから私、自分で記憶を辿りながらネットで調べてアパートに行ったの。」
十四才の時、私は寛人に会いたくて昔の記憶を頼りにインターネットで調べてあのアパートの住所を見つけた。
中学生になった私は昔みたいに何もできない子ではなくなって、自分で調べて、電車を乗り継いで、アパートまで行けるようになったのだ。
「でもね…寛人はいなくなってた。私達が一緒に住んでたあのアパートには知らない人たちがいたの…」
私達が行ってきますとただいまを繰り返したあの家には、知らない家族の洗濯物が干されていて、郵便ポストには知らない苗字が記載されていて寛人や寛人のお父さんの痕跡はなくなっていた。
「ねぇ、寛人…どうして私を迎えにきてくれなかったの?どうして私に会いに来てくれなかったの?」
寛人の体にまとわりつく私は涙を流していた。きっとあれはお酒のせいだったのかもしれない。
寛人は私の体を支えながら黙って聞いていたが、やがて口を開いてただ一言、ごめん。と呟いた。
私は寛人が何も悪くないことを知っている。
幼い寛人が家を出て行った私たちの所在を調べることなど不可能で仕方がないことなのを知っていたが、出会ったタイミングが十年後の現在であることが遣る瀬無くて彼を責めることしか出来なかった。
寛人はそれを全部、受け止めて謝るだけだった。
彼は私に何か伝えたいことがあるように見えたけれど最後まで自分の気持ちを言うことはなかった。
あれから三年…十年振りに再会した時と違って私の心は穏やかだ。
寛人の顔を見ても涙は出てこないし、心がぐちゃぐちゃに掻き乱されることもない。私はこの三年で諦めるということを学んだ。
どう足掻いたって結婚前の寛人とは出会えないし、私達が再会したのは十年後であることに変わりはない。
私も寛人も不倫するほど情熱的な恋愛感情はないし、私は不倫をするとしても寛人は選ばない。
私は寛人のありふれた幸せを壊すほど無慈悲ではないし、彼への想いはそんな程度のものではない。
そんな程度のものではないから、ひっそりと胸の中に留める。
そうして寛人の幸せを見届ける。
もしも十年後に再会していなければ私は今頃、こんなに複雑な気持ちで結婚式を迎えていなかっただろう。
寛人の結婚も生まれた赤ちゃんも何も知らないで済んだ。
私は三年前に名刺を見て声を上げた私自身を恨んでいる。十年振りに見つけた船場寛人の四文字を読み上げたこと、何も気づいていない寛人に私が誰なのか名乗ったこと…全てを恨んでいる。
全ての席にキャンドルを照らした私と直哉は席に着いて、新郎側の友人たちが用意した余興を鑑賞する。
直哉の大学時代の友人たちが今流行りの曲に合わせてレベルの低いダンスを披露していた。
男四人が狭いスペースで省エネな動きの踊りを見せる。それを参列者たちが手拍子で無理やり盛り上げていた。
私はその踊りを見ながら、こっそりとあくびをした。
それから寛人の方を見ると、寛人は笑いながら私の様子をスマホカメラの中におさめていた。
スマホ画面を横にして私の姿をおさめる寛人。
スマホケースの中には目元が寛人にそっくりな赤ちゃんの写真が横になって私を見ていた。
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