先輩の彼女が死にますように

水綺はく

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山口友香

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 “祐美、土曜日に○○駅の自然公園でゆるキャラフェスタっていうのがあるんだけど…良かったら一緒に参加しない⁇“
 友香からのラインを読んだ私は彼女への対応に戸惑ってベッドに顔を伏せると大きな溜め息を一つ、吐いた。
 私は先輩の彼女と仲良くなりたいわけではない。それなのにバスで間違えて隣の席に座ったことによって迫りくる彼女の親近感に抗えないでいた。
 ここで断ったら講義で会った時に気まずいし、先輩に何か言われて私に悪いイメージを持たれるのも恐い。おまけに私はアルバイトもサークルもしていない暇人な為、断る理由が見当たらなくて嫌々、彼女の誘いを承諾することにした。
 土曜日に開催されるゆるキャラフェスタは私の家から電車で一時間ほど掛かる自然公園で開催される大規模なイベントのようだ。毎年、色んなご当地ゆるキャラが現れたり、B級グルメの出店があったりして多くの参加者で賑わっている…と友香がラインで教えてくれた。
 私と友香は偶然にも互いに一人暮らしで最寄り駅が同じであることが判明した為、駅で待ち合わせて電車に乗って向かうことになった。
 “了解^^楽しみにしてるね❤︎梅雨時だから雨にならないといいなぁ~(汗汗“
 絵文字がたっぷりでカラフルな友香のラインを見ながら私は当日、雨になることを願った。
 カーテンを開けて窓から月を見ると中途半端に欠けていて願いは叶いそうになかった。私は再び大きな溜め息を吐いてカーテンを閉めるとベッドに倒れ込んだ。
 スマホで天気予報を確認すると土曜日はくもりのち雨となっていて中途半端な希望を与えてくるのが余計にモヤっとした。
 もういっそのこと土曜日なんて来なければいいのに…
 そんな気持ちも虚しく土曜日は順調にやってきて朝を迎えてしまった。
 当日の朝の空は濁った雲に覆われていたが雨は降っていなくて、ゆるキャラフェスタをギリギリ受け入れているような天候だった。
 私は友香と駅で待ち合わせて電車に乗った。
 友香は黒いヒラヒラとしたワンピースに白地のクロスボディバッグを肩に掛けて、シックな黒のレザーシューズを合わせた出立ちだった。メイクは変わらずブラウンのアイシャドウと赤いリップをしている。
 私は野外イベントのためベージュのカットソーにデニム生地のロングスカートとコンバースのスニーカーを履いて、アイボリーのショルダーバッグを持ってきた。メイクはやり方がいまいち分かっていないため、友香の真似をして赤いリップを買ってつけてみたが似合わなかったので慌てて落としてスッピンのまま家を出た。
 友香は電車に乗っている間は静かだったが時折、私につるピカちゃんの呟きを見せたり、他のゆるキャラを教えてくれたりした。私は彼女とどう接していいのか分からなくて、彼女の話を聞いて何となく質問をしてみたり相槌を打ったりしてその場を凌がせた。
 電車を降りて自然公園に辿り着くと会場は微妙な天候にも関わらず多くの人々で賑わっていた。
 人の波でごった返した会場内で友香は私の腕を掴むと上手に人混みをかき分けて、ゆるキャラたちが音楽に合わせて踊るステージの前に私を連れて行った。
 私は友香に腕を引かれたまま一歩引いた状態で彼女と一緒にゆるキャラたちがダンスしている姿を眺める。
 ほとんどが見たことないゆるキャラだったが、いくつか電車内で友香が教えてくれたゆるキャラが踊っていて既視感を覚えた。ダンスしているゆるキャラたちの中につるピカちゃんは入っていなかった。
 どこにいるのかな?と友香に尋ねると、つるピカちゃんやその他のゆるキャラたちはその辺を適当に歩いているから見つけたら写真撮影が出来ることを教えてくれた。
 友香と一緒に人通りの少ないところを探して歩いていると、たまたま、つるピカちゃんが通りかかったため思わず私達は顔を見合わせて笑顔になった。
 つるピカちゃんの側に寄って写真撮影をお願いするとつるピカちゃんは写真撮影の時に毎回やっていると思われる決めポーズをして写真撮影に応じてくれた。
 つるピカちゃんがいなくなった後に二人で写真を確認すると何だか嬉しくて興奮した。写真に写っている私の顔は素朴で美人な友香よりも劣っているけれど楽しそうにしているのが自分でも分かった。
 その後、私達はB級グルメの出店をいくつか堪能して会場を後にすると、帰りの電車に乗ったが友香が急に、韓国料理が食べたい!と言い出したので途中下車して韓国料理のお店に入った。
 友香はカムジャタンという骨付き肉の入った鍋料理とチーズボールを注文して私はそれを一緒にシェアして食べることにした。
 「私はね、辛いものとチーズが好きなの。あと甘いものだと一番好きなのはアイスクリーム!あとハチミツとかも大好き。紅茶も白い砂糖よりハチミツ入りの紅茶が好きなんだ。」
 そう言ってさっき食べたばかりにも関わらず韓国料理をばくばく食べる友香の胃袋に驚きながら私も彼女の言葉に同意した。
 「私もチーズ大好き。食パンにスライスチーズを乗せて食べるの好きなんだ。あとチーズケーキとかも好きでレアチーズケーキが特に好き。」
 「チーズケーキ美味しいよね!私はレアチーズも好きだけど一番好きなのはベイクドチーズケーキだなぁ…あっ、でも前にバスクチーズケーキを食べたらそれもすごく美味しかった!」
 この細い体に一体どれほどの食事を入れる容量があるのだろうか…そんなことを考えながら友香の話に耳を傾けていた。
 一緒に食事している間、友香は終始笑顔で楽しげで声も高かった。
 私はもっとクールで低音な声を想像していたから友香の意外な姿に面食らっていた。
 どうしてこの子はこんなに明るい子なのに友達をつくらないのだろう…
 彼女がこの姿を他の人にも見せればいくらでも友達が出来るだろうにそれをせずに一人でいる理由が私にはわからなかった。
 食事を終えた私達は再び電車に乗って最寄り駅に向かった。
 帰路につくための車内で窓を覗くと雨がぽつぽつと降っていて私は傘を忘れたことを思い出した。車窓に透明な雨粒が少しずつ増えていくのをぼーっと眺めていると、あっという間に駅に着いた。
 駅に着く頃には雨は本降りとなっていて傘がなければびしょ濡れになるほどの雨量となっていた。
 「私、今日、傘忘れちゃったんだよね…」
 ぼそっと呟くと友香が私の顔を見て大きな瞳を見開きながら、私も!と呼応した。
 「そしたら二人で濡れて帰ろうか…あっそうだ!良かったら私の家に泊まらない⁇祐美の家よりも私の家の方が近いし…風邪引いちゃったら心配だから私の家に来てよ。」
 良いこと閃いたとでも言いたげに友香が私に屈託なく笑う。
 「え⁉︎いいよ!大丈夫だから‼︎」
 慌てて断る私に友香は頑として引かず、「いいから、いいから‼︎今日は泊まっていって!…ね?」と私の腕を掴んで離さない。
 初めて一緒に遊んだ友達の家に泊まるなんて経験のない私は気を遣うから避けたかったが何度、断っても友香が聞き入れないため結局、押しに負けて彼女の家に一泊することになった。
 私の住むアパートは駅の東口から徒歩二十分ほど掛かるが、友香の住むアパートは西口から徒歩十分ほどの距離で、そのことはラインのやり取りで互いに把握していた。
 降り頻る雨の中、傘を持たずに駅を出た私達は小走りで友香のアパートに向かう。
 私は友香の雨に濡れて無数の小さな束が出来た後ろ髪を眺めながらあとをついていった。
 「ここだよ。」
 そう言って友香が赤いレンガ調の小さなアパートの中へと足を踏み入れて私を誘導する。
 彼女の住んでいるアパートは私のアパートよりも駅から近い代わりに築年数が古そうなアパートだった。
 二階に上がって一室の鍵を開けた友香が電気を点けて私を中に招き入れる。
 外見は違えど中は典型的な学生向きのワンルームアパートで間取りは私とほとんど同じだった。
 玄関を開けると小さなユニットバスとささやかなキッチンスペースがついていて、キッチンにはシンクとIHコンロが一台付いているのみで料理をするには狭すぎるおまけみたいなスペースだ。私はその為、それを言い訳にして料理を一切していないが彼女のキッチンスペースにはコンロの上に小さな鍋が置かれていたりフライパンやお玉、フライ返しなどが粘着フックで壁に掛けられていて、日頃から料理をしているのが一目瞭然だった。
 その先には六畳ほどの部屋が広がっているのだが、彼女の部屋は私が予想していたものとは違っていた。
 私の中で友香の住む家は服装と同じモノトーンでシンプルな部屋を想像していたが、実際は無数のゆるキャラグッズが飾られていて物が多めの部屋だった。
 「風邪引いちゃうから先にシャワー浴びて。服はあとで私がまとめて洗うから…今ならまだ明日には乾くんじゃないかな。」
 友香に言われてユニットバスの中に案内されると服を脱いで扉の隙間から濡れた服を友香に渡した。生温かいシャワーを浴びて雨水の汚れを流し切ると頭と体を洗って置いてくれたバスタオルで拭いた。
 友香が用意してくれた部屋着を来てユニットバスを出る。彼女の部屋着は背の低い私には大きくて本来は半袖半ズボンなのに私が着ると七分袖と膝下の丈となった。
 私がユニットバスから出ると友香が交代してシャワーを浴びる。
 シャワーを浴び終えた友香は私達の濡れた服をバスタオルと一緒に洗濯機にかけていた。互いに体の汚れをリセットさせた私達はベッド横の小さなテーブルスペースでお互いのことについて話すことになった…。


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