4 / 9
04 再会
しおりを挟む「っ。どうしてあなたがここに?」
レオンハルトは予想外の来客に困惑した。
もっと話がしたいと思っていたが、もうそれは叶わないと思っていた。
当の本人がいま、目の前に客として椅子に腰かけている。
ダーナ・フォン・アルブレヒトその人は、
レオンハルトの当惑もそしらぬ顔で優雅にティーカップを傾けている。
あの夜とはちがい、今日の彼女は栗色のまっすぐな髪に純朴な白い花飾りをつけて、愛らしい緋色のドレスをまとっていた。
舞踏会で身につけていた藍色のドレスは肩を出していて、少し大人びて見えたが、今は十三歳の少女相応に見えた。
「お座りになってはどうです? 王太子殿下」
晴れやかな笑みを浮かべたダーナに着席を勧められる。
「ああ、そうだな……」
今日は近衛隊長がむかし世話になった人物が、自分との茶会を求めていると聞いていた。
(まさか彼女だったとは――)
近衛隊長も事前に言ってくれれば良いものを、とかたわらに立つ青年をにらむ。
クスクスと笑う声が聞こえた。
「近衛隊長どのを責めないでやってください。私が無理を聞いて頂いたのです。
きっと――私だと知ったら殿下はお会いになってくださらないでしょう?」
ぐうの音も出なかった。
「すまない」
「ふふっ。あのような事があった後では、私に会うのも気まずいでしょう。だからです」
年齢に比して大人びた物言いが懐かしい。
彼女とデートしたのがずいぶん前のように思えてきてしまう。
レオンハルトは勧められるまま、椅子に腰かけた。
近衛隊長に部屋から下がるよう命じる。
このティーサロンは自分の寝室とつながっている。
プライベートな空間の近くに他人を招くということ、すなわち心を許しているという証だった。
そうやって今までの王族も親しくなる相手を選び、獲得してきたのだ。
(私は苦手だが……)
他人をえり好みしているようでどうにも好かない。
そのため相手の地位にかかわらず、近しい相手と話す時は必ずこのティーサロンを使ってきた。
ダーナが訪れるのも初めてではない。
「君はあいかわらずイタズラ好きだな」
苦笑して、すでに用意されていたティーカップを口に運ぶ。
(少し苦いな……)
渋みを感じたのは彼女への負い目からか。
レオンハルトには分からない。
「それで今日来たのは、どういった用向きかな?」
白いカーテンから西日がこぼれ、彼女の栗毛を赤く照らす。
緋色のドレスが深みを増した。
(怒っているのだろうな……)
自分の身勝手な考えから婚約破棄したのだ。
こんな男にかける言葉など決まっている。
苦しげに眉根を寄せて、彼女が怒りを発するのをじっと待つ。
だがいくら待てども、彼女がなじる声は聞こえてこなかった。
「はぁ。またその顔。婚約破棄を宣言した夜も、そんな顔をしてらっしゃいましたね。
まるでそう――ぜんぶ自分が悪いと思い込んでるお顔」
ダーナの声にぎくりとした。
テーブルの下で握っていた手のひらが汗をかく。
(なぜ……どうして?)
顔をあげると、彼女は悠然とした表情で頬杖をついている。
「私も馬鹿じゃありません。今回の婚約破棄が何者かの意向がはたらいている。その程度のことは察しがつきます」
「―そんなことはない! あれは私の意思で……っ」
彼女を守るために行ったことだ。
それだけは決して悟られてはならない。
知られれば彼女の身に危険が及ぶ。
叔父の毒牙にかかった彼女の姿を見たくはない。
「殿下ご自身がお決めになられたことなら、どうしてあの夜あんなにも暗いお顔で婚約破棄を宣言されたのです?」
「それは……」
「曲がりなりにも殿下と一年はつきあった身。あれが殿下ご自身の意思で行ったようには到底見えませんが?」
彼女は追撃の手をゆるめない。
「私がそうだと決めたのだ。まだ幼い君には分からないだろうが!」
むんずと襟首をつかまれた。
少女の力とは思えない強さに驚く。
「その年下扱いされるの、ぼく、死ぬほど嫌いなんですよね」
「え……? ぁ……、ぼく……?」
1
お気に入りに追加
624
あなたにおすすめの小説
【短編/R18】親友からホワイトデーにお返しもらったけど全く心当たりない
ナイトウ
BL
モテモテチャラ男風巨根イかせたがりDD攻め×平凡攻め大好き全肯定系DD受け
傾向: 両片想いからのイチャラブ、イかせ、前立腺責め、PC筋開発、精嚢責め、直腸S状部責め、トコロテン、連続絶頂、快楽漬け、あへおほ
両片思いだった大学生ふたりが勘違いの結果両思いになり、攻めの好きゲージ大解放により受けがぐちゃぐちゃにされる話です。
【R18/短編】政略結婚のはずなのに夫がめちゃくちゃ溺愛してくる
ナイトウ
BL
溺愛王弟攻め、素直第2王子受け
政略結婚、攻めのフェラ、乳首責め、本番無し
〈世界観の雑な補足〉
何か適当な理由で同性の政略結婚がある。
R18短編/転生したら親の顔より見てきた追放イベが目の前で始まった!(もっと親の顔を見ろ)
ナイトウ
BL
ゲス?なろう系主人公攻め、なろう好き転生冒険者受け
傾向: あほエロ、受けフェラ、イラマ、顔射
なろう系小説の世界にモブ冒険者として転生してしまったなろうオタクの受けが、どうにかざまぁ展開を回避しようとなろう主人公の攻めに言われるまま性奴隷になっちゃう話。
※なろう語を知らないと読むの大変かもしれません。
妻を寝取られた童貞が18禁ゲームの世界に転生する話
西楓
BL
妻の不倫現場を見た後足を滑らせ死んでしまった俺は、異世界に転生していた。この世界は前世持ちの巨根が、前世の知識を活かしてヒロインを攻略する18禁ゲームの世界だった。
でも、俺はゲームの設定と違って、エッチに自信なんかなくて…
※一部女性とのエッチがあります。
悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話
四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。
※R18はタイトルに※がつきます。
悪役令息は楽したい!
匠野ワカ
BL
社畜かつ童貞のまま亡くなった健介は、お貴族様の赤ちゃんとして生まれ変わった。
不労所得で働かず暮らせるかもと喜んだのもつかの間。どうやら悪役令息エリオットに転生してしまったらしい。
このままじゃ、騎士である兄によって処刑されちゃう!? だってこの話、死ぬ前に読んだ記憶があるんだよぉ!
楽して長生きしたいと処刑回避のために可愛い弟を演じまくっていたら、なにやら兄の様子がおかしくなってしまい……?(ガチムチ騎士の兄が受けです)
「悪役令息アンソロジー」に寄稿していた短編です。甘々ハッピーエンド!!
全7話完結の短編です。完結まで予約投稿済み。
性的に奔放なのが常識な異世界で
霧乃ふー 短編
BL
幼い頃、ふとした瞬間に日本人の男子学生であることを思い出した。ファンタジーな異世界に転生したらしい俺は充実感のある毎日を送っていた。
ある日、家族に成人を祝ってもらい幸せなまま眠りについた。
次の日、この異世界の常識を体で知ることになるとは知らずに幸せな眠りに微睡んでいた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる