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01 自己紹介
しおりを挟むぼくの名前はファーブニル。れっきとしたドラゴンだ。
父さんは竜騎士ゴートの騎竜として何年も彼を乗せて、戦場を飛び回っていたらしい。
その父さんは天に還り、今度はぼくがゴートの騎竜になった。
彼は王国で一番強い竜騎士として有名だったけど、ぼくが騎竜になってからは弱くなったと言われている。
これが、とっても悔しい!
ゴートが空中から射る弓は百発百中だったし、槍だって敵をまたたく間に粉砕していった。
ぜんぶ父さんがゴートを乗せていた頃だけど。
(ぼくだって一人前のドラゴンだって認められたい!)
特にゴートに!
真新しい羽で宙を叩く。
「どうした? 何か気になるものでもあったか? ファーブ」
ゴートが首のうろこをかいてくれる。気持ちイイ。
しかも『ファーブ』だ。ゴートだけに許した呼び名で呼んでもらえて、気分がいい。
三十の半ばを過ぎたゴートは、人間でいう男盛りというらしい。
屈強な肉づきに整った顔立ちから、王国でも人気が高い。
特に男や女みんな彼にねっとりとした視線を送ってる。
ゴートはぼくのものなのに!
そんな彼と久しぶりに二人きりで、王国の国境を監視することになった。
部下の人たちもついて来ようとしたけど、ぼくに遠慮したのか、今日から一週間ゴートと二人きりで過ごせる。
その事実にお城を飛びだってからずっと、ワクワクしていた。
『ねえねえ。ゴートなにかお話して。ぼくがワクワクするやつ』
ドラゴンが人をしゃべる時、念話を送る。
これが通じやすいものが竜の乗り手にふさわしいとされてきた。
ゴートは特に敏感なのか、ぼくのあくびにだって反応してくれる。
「気になるものは特にないのか?」
『まったくないよ。魔法の気配もないし、精霊たちも静か。お散歩に最適だね』
「遊びじゃないんだぞ。まったく」
苦笑するゴートの声が聞こえた。
でも怒ってるわけじゃない。
(ぼくはゴートの機嫌に詳しいんだ!)
ふとゴートが身を乗り出して、耳元に顔を近づけてきた。
「結界の気配もないか?」
ゴートの呼吸まで聞き取れる。
やけに心臓がドキドキした。
(なんだこれ……!)
しっぽがばたついてしまうが、なんとか彼を落とさないようバランスを保つ。
『だ、だいじょうぶだよ! それより突然、顔を近づけないで。ゴートの呼吸聞くと、ドキドキする』
角のつけねに生えてる耳をぺたんと犬みたいに寝かせた。
「おまえ……ドキドキするって心臓がか?」
『うん』
「っ。そうか。すまなかった……」
あわててゴートが顔を離してくれたけど、その言葉になにかひっかかるものを感じた。
何がというわけじゃないけど、こうなった原因を彼は知っている。
そんな気がした。
『ねえ。ゴートも似たようなこと、経験あるの?』
「っ!! い、いや、ない。まったくない!」
怪しい。
彼は嘘がつけない性格だ。
絶対なにかを隠している。でも空を飛んでる時に聞いて、動転させた彼を地面に落としたくない。
(休憩の時に聞いてみよ)
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