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その1
しおりを挟む古くからエルフは他の血族と交わることを嫌い、同族のみと交わってきた。
そのため千年に一度、多種族の血を受け入れなくてはならない。
これは遙か昔より定められた戒律だ。
決して破ることはできない。
だが――。
「なぜ、王たる私がオークなんぞと交わらねばならんのだ!」
女性のように美しい顔立ちの青年エルフが、玉座から見下ろしてくる。
冬の冷たい海を思わせる青い瞳に、皺ひとつない美しく白い肌。
そして白金の髪は美しい髪飾りで一つに束ねられている。
最初見た時は女性かと思った。
けど、張りのある声は確かに青年のものだった。
(この人が……ぼくの……嫁さんになるのか?)
どぎまぎしながら少年オーク――マルメは、青年エルフの顔にぼうっと見とれていた。
オークとして生まれた自分は、本来なら一生洞窟でその生涯を終える。
それが何の因果か自分は千年に一度、純エルフが迎え入れる『外の血』として選ばれた。
連れてこられたのが、一万年近い古木の上に造られたエルフの居城である。
傍らに立つ、老エルフが青年を諫めた。
「ルシェ王。これはいにしえより定められた戒律でございます。この法は何人たりとも破ることはできず、もし殿下が破れば我らの安寧は潰えますぞ」
片膝をつき、かしこまった態度を取ってはいるが、その眼光は玉座に座るルシェをも唸らせる力があった。
広間に集まったエルフたちも老エルフの言葉は無視できないようで、辺りがしんと静まりかえる。
マルメはおそるおそるルシェを見上げると、美貌の青年は眉宇をしかめ、苦虫をかみつぶしていた。
「……っ……」
そんな表情さえも美しい。
天井からこぼれ落ちる日の光が、ルシェの顔にかかる。髪飾りがきらめいて、そのまぶしさに目を細めた。
頬杖をつきながら、ルシェが自分を見た。
時おり洞窟の奥で暗闇でも煌々と光る石が見つかることがある。あの宝石みたいだった。
その瞳にいま、ずんぐりとした自分の体が映っているのかと思うと、心臓がドキドキする。
皆が固唾を呑むなか、青年王は玉座から立ち上がった。
「分かった。長老どのの諫言、受け入れよう」
ほう、とその言葉に広間の空気がやわらいだ。そばに立つ老エルフも安堵の息を吐く。
金のふちどりがなされたローブをたぐり寄せ、ルシェが近づいてくる。
「ついてこい。子豚」
「殿下! マルメ殿はこのようなお姿でも、我らに血を分けて下さるお方ですぞ。そのような言葉づかいはお控えなされ!」
長老の叱咤が飛んだが、ルシェは我関せずだった。そのまま玉座の間を出て行く。
どうすべきか少し悩んだ末、ルシェの後を追った。
だって一番近くまで歩み寄ってくれた時、彼の手が震えているのが見えた。
あれは父の帰りが遅いと、いつも怯えていた弟たちの震えにそっくりだった。
(――なんだか放っておけない人だ)
ルシェの足は速かった。
それも当然、成人した男の足と彼の腰にやっと頭が届く程度の自分では、足の長さがまったく違う。
息が上がるが、それでもなんとかついていく。
「あの……ちょっと、待ってください……!」
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