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団長が公爵家のご令嬢と結婚した。
しかも政略結婚ではなく、ご令嬢に申し込まれてのことらしい。
世間では団長が気取ったプロポーズを送ったと信じられているが、実際は奥様に求婚されて成立した結婚したらしい。
まあ、そこまではいい。
問題はそのあとだ。
ライ・ゼルニコフという騎士は戦場であれば輝かしい武功をいくつも立てられる人物だったが、あっち方面はからっきしの御仁だ。
娼館に足を踏み入れたことすらなく、下ネタの話をしている暇があれば戦術書や世界各国の剣術指南書に目を通す変わった人物だ。
だからこそ俺も他の連中も生き残っている訳だが、いかんせん女の抱き方すら知らない御仁にいきなり初夜は難しすぎる。
天然の要塞を一日で落とせというようなものだ。
団長なら嬉々としてやるかもしれないが、いかんせんやるべきことは要塞攻略ではなく女体の攻略である。
朴念仁を地で行く団長には荷が重すぎる。
かといってこのまま公爵家の血が絶やされる事があっては一大事だ。
王国南部に広がる肥沃な平野の持ち主が不在となってしまえば、国内にいらぬ紛争が巻き起こる。
それは団長も避けたいはずだ。
だからこうして俺にお鉢がまわってきた。

『──副官として付き合いの長いお前にしか頼めんのだ……』

まさに悩みに悩み抜いた末、恥を忍んで俺に「指南」を頼み込む団長のお姿は、戦場で見せる凶悪さが嘘のように消えていた。
御年三十三歳。俺より四つ年上だ。
眉間にシワを刻んだ顔はまさに不覚……!と言わんばかりで、納得していないのが口元からありありと見て取れた。
団長はエルフの血がほんの少し混じっているせいか、肌は血管が透けて見えるほど白い。とがり気味の耳にかけられた金髪は絹糸のように柔らかく、顔を寄せられるとほんのり甘い香りがした。
ただこの外見に騙されたら最後、戦場で悲惨な目に遭うことを俺、いや俺たちは嫌という程知っている。
普段の訓練で身をもって経験しているからだ。

しかし戦場では悪鬼となろうとも、女の前では形無しであることに変わりはない。
なんでも結婚以来、公爵家ご令嬢とは手つなぎのひとつすらまともにできていないという。
そんな女経験ゼロ、むしろマイナスに振り切っている団長に何が哀しくて、平民出の娼館通い独身男が手ほどきしてやらねばならないのか。

(あの時なんでああ言っちゃったかなぁ)

今思い返してみても頭を抱えたくなる。
小首を傾げ、不安そうに俺を見つめる眼差しにクラっと来てしまったのだ。
いつもキビキビと動き、戦場ではみずから先陣を切る男にお前だけだと頼られるのは、ものすごく心のそそられる体験だった。
俺が団長に教えこんだことが全て団長の中の常識となる──
こんなに男心をくすぐられる体験があるだろうか? いいや、無い!
絶対に優位に立つことは一生ないと思っていた人物に一から手ほどきし、無知であることを利用して、思いのままにエロいことを教え込む。それは俺の雄を嫌でも刺激した。
結果、

『誠心誠意教えこませて差し上げますっ』

そう答えて、今夜団長と二人きり過ごすこととなった。
仕方がない。
男とは誘惑に弱い生き物なのだ。
そう割り切ることにして、俺は今夜のための準備を始めている。
用意すべきものは色々あった。

例えばスライムオナホ。
男が女に挿入することがどんなに気持ちいいことなのか学んでもらう。あの堅物の団長がどんな顔をしてこれを入れるのか考えただけで楽しくなってきてしまう。

続いて尿道プラグ。
男という体の気持ちよさも学んでもらうべきだろう。
尿道という敏感で繊細な細い管をトロトロの柔らかいコイツでいじられたら、あの悪鬼も簡単に陥落するだろう。

さらにオーク型バイブ。
ドリル型の一物を持つオークの形を模したバイブだ。こいつはクルクルとねじれた螺旋がちょうど男の前立腺に当たるようにできている。小さな段差で前立腺を挟んでやると簡単に男でもメスイキできる。
女をイカすならその気持ちよさを自分で先に味わっておかないといけない。

「最後はやっぱり喘ぎ声だな」

愛のこもった喘ぎは夫婦の初夜に絶対必要だ。
情がこもるからこそ真実の愛も育まれるのだ。
いまだ結婚できておらず、恋人すら作れていない甲斐性なしだが、セックスの時に互いの息づかいで愛おしさは簡単に伝えられるのは事実だ。

(まあ、団長の息づかいは聞いたことあるけど)

耳をつんざく魔力砲の砲撃が行きかい、悲鳴と怒号が響きわたる戦場で、だったが。
自室の机に必要なアイテムをきちんと並べ終えて、もう一度使用に問題ないか入念なチェックをする。
今夜のためにどれも新品を集めた。
スライムオナホは伸縮性の高い高級品にしたから、きっと団長のお気に召すことだろう。
「よし、頑張るぞ俺」
皮袋に準備した品を詰めこみ、団長の寝所へと向かった。

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