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18話
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「んで、何か悩んでるのか?」
伊崎が選んだ居酒屋へ入ると、俺達はテーブル席へ座りおつまみ等の注文をする。注文を終えると、伊崎は真剣な顔で俺の方へ向き直り目を合わせてくる。
「別に…何も悩んでないよ」
自分の問題だから他人に迷惑はかけたくない、そう思いながら笑顔で答える。
「嘘だな。」
伊崎は店員が先に運んで来たお冷を飲みながら言う。
「最近、蓮見仕事でボーッとしてる事が増えてるぞ。それに、日に日にクマが酷くなってるし眠れてないのが明らかなんだよ。この前、有給明けの仕事の時目を腫らして出社してきただろ?こんなんでも俺が気づかないと思うか?」
ズバズバと最近の体調不良を言い当てる伊崎に、俺は無言で目を逸らすしかなかった。何もかも見透かしているんだな…と改めて伊崎の観察眼に感心してしまう。
「……ごめん。」
「なんで謝るんだ?」
謝罪の言葉しか出ない俺に、伊崎は首を傾げる。
「心配ばかりかけて…」
「そうは思った事ないよ。ただ、悩みがあるなら一人で抱え込むなて言いたいんだよ俺は。」
「……。」
伊崎の言葉がド正論過ぎて口から言葉が何も出てこない。
「んで?…何を悩んでるんだ?」
また、改めて伊崎から悩み事を聞かれた。
「…………。」
「言えない事なのか?」
下を俯いている俺の隣に伊崎が移動してくる。そして、背中を優しくさすってくる。
「いつか…聞いとかないとなと思ってたんだよ。蓮見は無意識だろうけど一人で抱え込もうとする癖があるから、周りからなんでも出来る人だって思われてるだろ?…だから、無意識にストレスを溜め込んで我慢してる。なぁ、蓮見…、俺にだけでも、本音で話してくれないか…?」
伊崎の言葉に俺は俯いていた顔を上げた。
「…。気にかけてくれてありがとう。」
ありがとう。と感謝の言葉を伊崎に伝える。面と向かって、本音を伝えるのは恥ずかしいので、俺はテーブルに置いてあるビールをゴクゴクと飲み、ほぼ一気をした。空になったグラスをテーブルに置き、伊崎の方へ視線を向ける。
そして━━、
「俺……会社辞めようと思ってる。」
そう言った後、俺は直ぐに視線を逸らした。
「……え?」
伊崎は驚いた様子で、俺の方をずっと向いている。
「…………病気…なんだ。」
誰にも言わないでおこうと、秘密にしておこうとしていた事を初めて人に話す。
「……。」
チラリと伊崎の方へ顔を向けると、身体が固まっていた。心配になった俺は、軽く肩を揺する。
「……死ぬ…のか…?」
ハッとした表情で伊崎は俺に質問をする。
「治療をすれば治るって……言ってた。時間はかかるけど…」
「そっか。」
「だから、仕事は辞めようと思ってる。」
「……。ごめん。頭が混乱してて…整理しながら聞いていい?」
頭に手を置きながら表情をコロコロと変える伊崎に俺は、「うん…。」と静かに頷く。
「病気で治療が必要だから仕事を辞める…、で合ってるのか?」
「うん。」
「何の病気か聞いていいか?」
「急性の……白血病だって言ってた。」
「急性……、」
「もし治ったらまた会社に戻ってくる?」
「…………。まだ、分からない」
治療だって必ず治るものでは無い。副作用の症状が悪化すれば死ぬかもしれない。だから、完治した後の未来なんて期待はしていない。それに…、
「この事は他の誰かにも言ったのか?」
「……伊崎にしか話してない。だから、誰にも言わないで欲しい…」
もし病気だっていうのが会社にバレると変に気を使われてしまうから、それだけは絶対に嫌だ。
「……分かった。」
「…ありがとう。」
笑顔で伊崎に感謝をする。病気のことを打ち明けたことで少しだけ心が軽くなった気がする。
「おつまみ、冷めちゃったね…」
テーブルの方へ視線を向けると、俺は二、三品ほどおつまみを口の中へ放り込む。
伊崎が選んだ居酒屋へ入ると、俺達はテーブル席へ座りおつまみ等の注文をする。注文を終えると、伊崎は真剣な顔で俺の方へ向き直り目を合わせてくる。
「別に…何も悩んでないよ」
自分の問題だから他人に迷惑はかけたくない、そう思いながら笑顔で答える。
「嘘だな。」
伊崎は店員が先に運んで来たお冷を飲みながら言う。
「最近、蓮見仕事でボーッとしてる事が増えてるぞ。それに、日に日にクマが酷くなってるし眠れてないのが明らかなんだよ。この前、有給明けの仕事の時目を腫らして出社してきただろ?こんなんでも俺が気づかないと思うか?」
ズバズバと最近の体調不良を言い当てる伊崎に、俺は無言で目を逸らすしかなかった。何もかも見透かしているんだな…と改めて伊崎の観察眼に感心してしまう。
「……ごめん。」
「なんで謝るんだ?」
謝罪の言葉しか出ない俺に、伊崎は首を傾げる。
「心配ばかりかけて…」
「そうは思った事ないよ。ただ、悩みがあるなら一人で抱え込むなて言いたいんだよ俺は。」
「……。」
伊崎の言葉がド正論過ぎて口から言葉が何も出てこない。
「んで?…何を悩んでるんだ?」
また、改めて伊崎から悩み事を聞かれた。
「…………。」
「言えない事なのか?」
下を俯いている俺の隣に伊崎が移動してくる。そして、背中を優しくさすってくる。
「いつか…聞いとかないとなと思ってたんだよ。蓮見は無意識だろうけど一人で抱え込もうとする癖があるから、周りからなんでも出来る人だって思われてるだろ?…だから、無意識にストレスを溜め込んで我慢してる。なぁ、蓮見…、俺にだけでも、本音で話してくれないか…?」
伊崎の言葉に俺は俯いていた顔を上げた。
「…。気にかけてくれてありがとう。」
ありがとう。と感謝の言葉を伊崎に伝える。面と向かって、本音を伝えるのは恥ずかしいので、俺はテーブルに置いてあるビールをゴクゴクと飲み、ほぼ一気をした。空になったグラスをテーブルに置き、伊崎の方へ視線を向ける。
そして━━、
「俺……会社辞めようと思ってる。」
そう言った後、俺は直ぐに視線を逸らした。
「……え?」
伊崎は驚いた様子で、俺の方をずっと向いている。
「…………病気…なんだ。」
誰にも言わないでおこうと、秘密にしておこうとしていた事を初めて人に話す。
「……。」
チラリと伊崎の方へ顔を向けると、身体が固まっていた。心配になった俺は、軽く肩を揺する。
「……死ぬ…のか…?」
ハッとした表情で伊崎は俺に質問をする。
「治療をすれば治るって……言ってた。時間はかかるけど…」
「そっか。」
「だから、仕事は辞めようと思ってる。」
「……。ごめん。頭が混乱してて…整理しながら聞いていい?」
頭に手を置きながら表情をコロコロと変える伊崎に俺は、「うん…。」と静かに頷く。
「病気で治療が必要だから仕事を辞める…、で合ってるのか?」
「うん。」
「何の病気か聞いていいか?」
「急性の……白血病だって言ってた。」
「急性……、」
「もし治ったらまた会社に戻ってくる?」
「…………。まだ、分からない」
治療だって必ず治るものでは無い。副作用の症状が悪化すれば死ぬかもしれない。だから、完治した後の未来なんて期待はしていない。それに…、
「この事は他の誰かにも言ったのか?」
「……伊崎にしか話してない。だから、誰にも言わないで欲しい…」
もし病気だっていうのが会社にバレると変に気を使われてしまうから、それだけは絶対に嫌だ。
「……分かった。」
「…ありがとう。」
笑顔で伊崎に感謝をする。病気のことを打ち明けたことで少しだけ心が軽くなった気がする。
「おつまみ、冷めちゃったね…」
テーブルの方へ視線を向けると、俺は二、三品ほどおつまみを口の中へ放り込む。
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