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12話

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「残り物しかなくてすいません…」

買い物に行く時間がなかったので、おつまみ等は冷蔵庫の残り物を使って簡単に作った。皿に移し替えたおつまみを机の上に何皿か置くと、お腹がすいていたのか伊崎はすぐに箸を持ち「いただきます!」と言い口の中に放り込んだ。

口に合うかな……?そんな事を思いながら伊崎の顔色を伺っていると勢いよく俺の方を向いてきた。

「蓮見…!!これめっちゃ美味い!」箸を持つ手が止まらない伊崎は別のおつまみにも手を出して頬張っていた。

「…喜んで貰えてよかったよ」伊崎の言葉に思わず笑みが零れる。こんなに喜んで貰えたのは何時ぶりだろうか。

「部長、食べないんですか?」伊崎が部長に尋ねる。部長は箸にも手をつけず正座した状態で黙り込んでいた。

「口にあいませんか?」少し不安げな気持ちで聞いてみる。

「いえ…。ただ、食べた事ないものばかりなので少し見入っていました。」そう淡々と語る部長に少し興味が湧いた。

「部長は…普段は何を食べているんですか?」普段の食生活が気になった俺は、部長に尋ねてみる。

「普段は、デリバリーばかりを頼んでいますね」少し考え込んだ後に出た言葉に俺は驚いた。それは伊崎も同じで…

「部長料理とかしないんですか?!」隣から伊崎の驚いた声が耳に響く。

「料理は苦手なんです」少し体勢を引き気味にしながらも伊崎の質問に答える。

「最後に料理をしたのはいつですか??」

「小学生の頃の調理の時間ですね」

━━━そんな会話をしながら盛り上がった。伊崎は酒の力を借りて普段は聞けないような事を沢山部長に質問していた。部長は、最初は緊張した面持ちだったが話が盛り上がっていくうちに安心した様子で素の表情を時折見せていた。俺は、そんな2人の会話をおつまみにお酒を少しずつ飲んだ。


未婚で彼女はいない。父母と姉一人。タワマンに一人暮らし。家事全般が苦手。趣味はカメラ。好きな食べ物はピザ。嫌いな食べ物は特になし。普段は厳しく対応しているが内心後悔している。

部長の情報をメモを取りながら書いていく。すると、段々と部長の人物像が出来上がってきた。

「何を書いているんですか?」部長が俺のメモ用紙に顔を覗かせた。

「ん…部長の人物像を作ってるんです」お酒が弱い俺はヘラヘラ笑いながら部長にメモ用紙を見せる。

「部長は会社では寡黙になるけど、真面目で仕事に真正面から向き合っているカッコイイ人だというのは分かりました」部長の事を少しずつ分かってくると面白いと感じる。

「恥ずかしいのでこれは没収させてください」紙を丁寧に折り畳みながらスーツの胸ポケットに入れると、俺が作った料理を黙々と食べ進めた。

その様子を見て、俺は気に入ってくれたんだと思い嬉しくなった。
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