君がくれた日常

青ムギ

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駄菓子屋

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父さんの地元に引っ越してから数日ー。町の雰囲気に慣れるため、ばあちゃんが町の案内をしてくれた。魚が釣れる川、雪が積もっている田んぼ、近所の子供たちに人気の小さな公園、毎年祭りが行われるという神社、賑わいが絶えない商店街、どの環境も景色も、一瞬で目を奪われてしまう程綺麗だった。
「どうだい、圭祐。少しは気に入ってくれたかい?」と尋ねてくるばあちゃんに俺は「うん」と心から頷いた。田舎だからだろうか…。舗装されていない道が多く、ガタガタだった。
「………。」
転入の話以降、ばあちゃんから学校の事について何も聞いてこなくなった。それはそれでとても有難かった。
何も聞かれない方が何倍もマシだ。


「圭祐…。私は今から夜ご飯の買い物をしてくるけど一緒に来るかい?」とばあちゃんから聞かれ、俺は「家に帰る道は覚えたから少し散歩して帰るよ。」と言った。
「あまり、遅くならない様にね?」と言われ笑顔で頷く。そして、ばあちゃんと商店街の近くで別れた。
「……。」
コートのポケットに手を入れながら、ゆっくりと歩く。まだ雪景色が残った田舎はとても綺麗だった。舗装されていない道を歩きながら、ふと考え事をする。
「父さん達、元気かな……。」父さん達は仕事の都合で離れられない為、俺だけが来てしまった。初めての環境で最初はとても怖かったが、今はその環境に少しだけ慣れてしまい、安堵する。今此処に来た事への後悔はない。学校に行く事への不安はまだ大きく、転入する日が近づけば近づくほど、その不安は加速する。
「転入まで後5日……か…。」ぼそりと呟いてみる。心臓の鼓動が少しだけ上がる。視界がグニャリと曲がりだし、慌てて別のことを考えた。
 景色を見ようと俯いた顔を上げると、ある小さな一軒家が建っていた。その家の前には、アイスやお菓子、雑貨などが売られていた。俺はその家に興味を引かれ、近づいた。
「だ……が…し…や…?」店の前の看板には「駄菓子屋」と大きな文字で書かれていた。
俺はその店のお菓子を見ようと、扉を開けた。
ガラガラガラッ
「あら、いらっしゃい…。」とレジの前で新聞を広げて読んでいた眼鏡をかけた優しそうなお婆さんがいた。
「ゆっくりしていってね。」と声をかけられ、コクンと静かに頷いた。
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