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特訓の再開

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 後片づけも終わらせてさっそく特訓のつづきをしようと思ったけれど、問題は解決されないまま残っている。
 それをなんとかしないかぎり、特訓は気まずさで満ちあふれたものになってしまうだろう。

「どうしようかな」

 若干途方に暮れながら、腕を組んでふたたび考えこむ。

 気配遮断でわからないようにしても、気配遮断は攻撃などをして相手に気づかれると効果が切れてしまうから意味がないし、試しに溢れでてる魔力を操作して止めようとしたけれどすぐどうにかできそうもなかった。

 これも特訓が必要だね。
 なにか、溢れでる魔力をずっと隠しておけるようなスキルがあればいいんだけどなぁ。

 そう思ったとき、頭にひとつのスキルが思い浮かんだ。

「あった……あったよ! あれだ、隠蔽スキルだっ!」

 隠蔽スキルは異世界ものを見ていた僕にとって馴染みの深いもので、物語のなかでは高すぎるステータスや姿を隠したりするのに使用していたスキルだ。

 さっそく知識の書で隠蔽スキルを調べはじめる。
 そうしたらこの世界にも隠蔽のスキルがあることがわかって、同時にそのスキルの取得方法もわかった。

 取得方法は『なにかを故意におおい隠すこと』で、どれだけその行為をすればスキルを得られるのかは個人差があるみたいだけれど、解体のスキルを得たときのことを考えれば簡単に得られるだろうと思って、すぐに行動へ移す。

「なにかを故意におおい隠す……えーと、これでいいかな?」

 そうやって僕がしたのは、狩った魔物の死体を土のなかに埋めることだった。
 ただの埋葬だと判断されないか不安だったけれど、解体スキルを取得したときと同じように途中で埋めるのが楽になったからステータスを確認すると、無事に隠蔽スキルを取得していた。

「やった、隠蔽スキルゲット! じゃあ、スキルを使ってみよっか」

 すぐに隠蔽スキルを発動させて、知識の書で調べて知った、駆けだし冒険者くらいのレベルに感じるよう魔力を隠す。

「よし、これで魔物に怯えられなくなったよね」

 これなら魔物に怯えられることなく特訓もスムーズにいくだろう。
 やっと隠蔽できた魔力に安心して、ふたたび特訓相手の魔物を探しはじめる。
 そうすれば魔力を隠したのがさっそく功を奏したのか、すぐに魔物を見つけることができた。

 見つけたのは、消し炭にしてしまった魔物と同じウサギ型の魔物だ。
 鑑定してみたら名前はグロッスコルンラビットで、訳すと大きい角兎。

 特徴をとらえたとってもわかりやすい名前だね!

 ちなみにステータスはこんな感じだ。

 名前/グロッスコルンラビット
 種族/ラビット
 HP/1000000
 MP/100000

『攻撃スキル』
 威嚇/Lv.5、噛みつき/Lv.4、後ろ蹴り/Lv.6、突進/Lv.6

『魔法スキル』
 風魔法/Lv.4

 普通このレベルを退治するなら騎士団長や宮廷魔法士長クラスの力を持つ人間が必要だけれど、神みならいの僕には関係ない。

 前は慌てて消し炭にしちゃったけど、今度こそしっかり仕留めるぞっ!

 そう気合いを入れて、気配遮断をしながら気づかれないようにグロッスコルンラビットの近くまで行って、それから無詠唱で最初の一撃。

 いけっ!

 集中してグロッスコルンラビットに向かって魔法を放つと、こぶし大のウォーターボールがグロッスコルンラビットの後ろ足に当たった。

「よっし!」

 料理などで魔法を使っていたおかげか、集中すれば理想の威力と場所に魔法が打てた。
 でも、問題はこれからだ。
 急に攻撃されたことに驚いて逃げようとしたグロッスコルンラビットの前へおどり出て、威嚇用に杖をかまえて立ちふさがる。

「キュッ!」

 急に出てきた僕に驚いたのか、グロッスコルンラビットは小さく鳴き声をあげるけれど怯えた様子はない。

 よかった、魔力の隠蔽はしっかりと効いてるみたいだね。

 そうホッとしたのが悪かったのか、グロッスコルンラビットは隙ありとばかりに怒りの鳴き声をあげながら角を突きだして突撃してきた。

「おっと……そこだ!」

 ものすごい速度だったけれど僕にとっては遅く感じる突撃をさけて、その背中にふたたびウォーターボールを放つ。
 今回もグロッスコルンラビットに見事命中したけれど、大きさがゴルフボールくらいになってしまってあまり効いていないみたいだ。

 けれど当たりどころが悪かったのか、グロッスコルンラビットはバランスを崩して地面に倒れこむ。
 それでもすぐに体制を立てなおして、僕にむかって威嚇をしてきた。

「ちょっとイメージが小さすぎたかぁ……まぁ、でもそんな簡単に上手くいかないよね」

 しっかりと集中していれば失敗しなくなってきているけれど、やはり戦闘中となると気が散ってしまって上手くいかない。

「よし、もう一度だ」

 だけどめげることなくそうやってなんども調整をくり返しながら魔法を打ちまくり、無事にグロッスコルンラビットを倒すことができた。

◇◇◇

「これで最後っと」
「グギャッ!」

 とどめを刺して黙祷したあと、倒した魔物を無限収納に入れながら戦闘が終わったことにホッと一息つく。
 あれから何十匹もの魔物を倒したおかげか、魔法の制御はだいぶ上手くなった。

 そうしたら、つぎは武器の制御だ。
 持っている武術スキルは全部で8種類。

 こっちも早く使いこなせるように頑張らないとね。

 さっそく杖と剣を取りかえる。
 ちなみに剣のステータスはこうだ。

 名前/ロングソード
 種類/剣
 持主/齋部 和
『性能』
 鋭さ/Lv.3、自動帰還、破壊不可

 スキルを制御するためにつくった剣だから、よけいな性能をつけずシンプルに仕上げた結果だ。
 ほかの武器もだいたい同じ性能にしてある。

 シンプルイズベストって感じだね。

 剣も確認したし、軽く素振りをしたあと魔物を探しはじめる。
 もう魔物を探すのは慣れたもので、すぐに鋭い爪が目立つオオカミ型の魔物を見つけることができた。

 さて、こいつのステータスはどんなものかなぁ~。

 名前/ナンギルウルフ
 種族/ウルフ
 HP/1500000
 MP/150000
『攻撃スキル』
 威嚇/Lv.4、遠吠え/Lv.4、噛みつき/Lv.5、引き裂き/Lv.6
『魔法スキル』
 風魔法/Lv.6

 鋭い爪が特徴なだけあって引き裂きと、風魔法のスキルレベルが高い。
 でも魔法制御のときにも倒したし、相手にはちょうどいいだろう。

 よし、行くぞ!

 心のなかでつぶやくと同時に時空の円盤でナンギルウルフの背後に転移して、そくざに首を狙って剣を振る。

「ギャイッ──…」
「……っ」

 剣はかすかな抵抗を手のひらに伝えながらきれいにナンギルウルフの首を切りとばし、その瞬間、生温かい血が僕に飛びちった。
 手に残る切りとばしたときの感触や飛びちった血に、魔法をつかって魔物を倒したときよりさらに殺したということを強く感じて、なんとも言えない気持ちになりながらそれをはらうようにゆっくりと息を吐く。
 
 精神苦痛耐性があってこれだ。
 もしなかったらこんなもんじゃすまなかっただろう。

 てか、吐いてた自信があるよね!

「はぁ……さっさときれいにしよっと」

 すこしでも早くすっきりしたくて、すぐにクリーンを発動させる。
 戦うたびにクリーンをかけるのも面倒だし、つぎからは守護の壁で血がかからないようにしておこう。

 そうして、武術スキルを制御するために魔物を倒していった。
 慣れたら武器を変えなんども魔物を倒すうち、徐々に自信が出てくる。

「この調子なら、明日にでも人のいる場所に行けそうだね!」

 僕はそう確信して、機嫌よく鼻歌をうたいながらつぎの特訓相手を真実の目で探しはじめる。

 そうしたら、僕の目に人型で子供くらいの大きさの魔物が2匹映った。
 その魔物は、異世界ものでもよく登場したゴブリンだ。

「初めての人型だ……2匹だし、試してみるか──って、なんかいっぱい出てきた!」

 初めてにはちょうどいいなと足を進めかけたけれど、その後ろから3匹ほど現れて思わずうわぁと顔をしかめる。

 さすがにいきなり5匹はやめておこう。

 すぐにそう決めて、ふたたび真実の目を使ってほかの獲物を探しはじめた。
 けれど──

「なんか、このへんゴブリンの集団しかいないんだけど……」

 結果は残念なものだった。
 右を見ても左を見ても5匹以上のゴブリンの集団ばかりで、どうしようと頭を抱える。

「──よし、なにごとも経験だ。もしなにかあっても守護の壁があるんだし、戦ってみよう」

 そう決めて気配遮断を発動させたあと、最初に見つけたゴブリンの集団に近づく。
 数は最初に見たときから変わらず5匹だ。

 どれくらいの実力かわからないから、隠れて様子をうかがいながらゴブリンを鑑定する。
 そうするとこう出てきた。

 名前/ゴブリン
 種族/ゴブリン
 HP/50000
 MP/2500
『武術スキル』
 棒術/Lv.3、不意打ち/Lv.2

 ほかのゴブリンたちも鑑定してみたけれど、似たりよったりのステータスだった。
 ただのゴブリンにしては高いステータスなんだけれど、僕よりはだいぶ低い。

 最初は避けちゃったけど、これなら本当にちょうどよかったな。
 さてっと、どうやって倒そうか……よし、初めての人型だし複数だから一気にやっちゃおう。

 そうと決めたらすぐに行動へ移す。

 水魔法と風魔法を合成して、ゴブリンたちをまとめて氷漬けだ!

 無詠唱で発動された魔法は無警戒なコブリンたちに襲いかかって、5匹のゴブリンは悲鳴をあげる間もなく氷漬けになった。

「おぉ~、コッチコチだ」

 隠れていた場所から出て、氷漬けになったゴブリンに近づいてじっくり見る。
 初めて人型の魔物を殺したけれど、魔法を使ったし精神苦痛耐性のおかげか泣きたくなったり吐きそうになったりとかはしなくて、思っていたよりこの心は落ちついていた。

 まぁ、人型っていっても人間とはまったく違うし、凶悪なたちなのを知っているから罪悪感はほとんどないな。
 嫌悪感も、魔法で氷漬けにしたからほとんど感じていない。

 今の気持ちを例えるなら、速くて黒光りしてる例の虫をつぶしたときみたいな感じだね。
 
 ウサギさんを消し炭にしちゃったときのほうがよっぽど感じたよ……人型の生きもの殺しといて、酷いかな?

 そう思いかけるけれど、ゴブリンは魔物のなかでも本当に凶悪なたちの魔物なので、すぐにそんなことないかと思いなおす。

 なぜなら出会った生きものは男なら嬲って殺し、女なら嬲って犯して飽きたら殺し、同種族でも仲間意識はなく力での支配で、いじめや虐殺などが横行してるのがこの世界でのゴブリンっていう種族だ。
 僕が知っているゴブリンより酷いたちなのは、この世界の神様が魔物の心を悪に傾けて創ったせいかな?

 まぁ、僕が罪悪感を感じなくてもしょうがないと思うのは当然だろう。

「さて、人型の魔物も大丈夫なのがわかったし続けるか!」

 暗くなるまでまだ時間はある。
 僕は武術スキルと魔法スキルの制御をもっとよくするために、またつぎの特訓相手を探しはじめた。
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