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冒険者っぽいごはん

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 特訓から戻った僕は、家の敷地端にキッチンをつくることにした。
 いちからつくっていると特訓の時間がなくなるから、土魔法でつくっていく予定だ。

 まずはバーベキュー炉。
 大きさはとりあえず縦横1メートルくらいで、高さもそれくらいでいいだろう。
 土壁っぽいのまるだしじゃ味気ないから、本物のバーベキュー炉みたいにレンガっぽい見ためにしておこう。
 そうイメージを固めたら土魔法を発動させて実際につくっていく。

「──これ、で……完成だ!」

 そうしてできたのは、プロがレンガでつくったかのような本格的なバーベキュー炉だった。
 くぼみとか細かいところもきれいにできたし、いい感じだ。

 細かいとこをつくるときにちょっと危なかったけど、しっかり魔法をコントロールできてよかったよ~。

 つぎは料理をするためのキッチンカウンター。
 大きな魔物を料理したりするだろうし、キッチンカウンターは広めにつくることにする。
 広さは縦2メートル横3メートルくらいで、高さはこっちも1メートルくらいでいいだろう。

 あと、ものを置けるように下へ段もつけよう。
 こちらも土っぽさまるだしじゃ味気ないからレンガっぽくして、模様をいれたり色を白くしたりしてみる。

「ここをこうして……うんうん、こっちもいい感じ」

 なんかカフェのカウンターみたいでおしゃれだね。

 つぎはシンク。
 ここもいろいろ洗ったりするだろうし、キッチンカウンターと同じ広さでつくる。
 場所はキッチンカウンターの反対側でいいだろう。

 デザインも同じく、レンガっぽくして色を白くした。
 あとはお風呂場と同じで、排水溝を汚水専用の無限収納へつなげておくことを忘れない。

「──よし、これでできあがりっと」

 水が排水溝へ流れやすいようにしっかりとできたし、完璧だ。

「あとは雨がふっても大丈夫なように屋根をつくって……キッチンの完成だーっ!」

 バーベキュー炉にキッチンカウンターにシンク。
 全部レンガっぽくつくったからか、統一感もあっていい感じだ。

 こんなキッチンなら、きっと料理もはかどるね。

「さっそく料理の下準備に取りかかるか」

 そう気合いを入れて、キッチンからすこし離れた敷地の外で解体の準備をはじめる。

 敷地が血とか色々なもので汚れるのはいやだからねぇ。

 家の敷地は時空の円盤でおおっているから、解体中に僕のあふれでる魔力に怯えない強い魔物が近よってきても安心だ。

 守護の壁があるから怪我の心配はしてないけど、襲われたときに焦って魔法を使ったせいで森林破壊とか、もうしたくないからね。

 そう心のなかでぼやきつつ、無限収納から特訓で狩った30センチほどの魔鳥を取りだしていちど手を合わせる。

「無駄に苦しめちゃってごめんね。ちゃんと美味しくいただきます」

 そうして手を合わせたあとさっそく魔鳥の解体をはじめるけれど、ふんわりとした解体の知識しかなかったから知識の書で解体のしかたを見ながらしていくことにした。
 通常の手順だと血を抜いたりお湯に入れたりと時間がかかりそうだったから、いろいろな魔法を使って手早く解体をすすめる。

 そうして丸裸になった魔鳥の身体を、創造の槌でつくった解体用ナイフで切っていく。
 すると、途中からやけにスルスルと解体が進むようになった。

 この感じは──

 もしかしてってある考えが頭をよぎるけれど、いまは手が離せないからそのまま解体作業をつづける。
 それから数十分後、魔鳥はきれいに解体することができた。

 はじめる前は解体作業で気分が悪くなったりしないかすこし不安だったけれど、精神苦痛耐性があるからか、それとも病気のせいで血とかに慣れていたおかげか大丈夫だった。

 よかったよかった、ひと安心だね。

 そうしたらつぎは、いよいよ調理開始だ。
 解体やらなんやらで汚れた服と身体をクリーンできれいにして、さっそく料理にとりかかる。

 今回つくるのは魔鳥の丸焼き。

「魔鳥の丸焼きとか、まさに冒険者っぽいごはんだよね!」

 30センチほどの鳥の丸焼きじゃ冒険者っぽいごはんというよりただのバーベキューのようだったけれど、そんなこと気づきもしないで機嫌よく鼻歌を歌いながら手早く器用に料理をしていく。
 家事スキルLv.5は伊達じゃなかった。

 まずは鶏肉を水魔法できれいに洗ったあと風魔法で乾かして、創造の槌でつくった塩と、和製ハーブといわれる春菊の味がする毒消し草を錬金術で乾燥、粉砕させたものを混ぜあわせて、鳥肉にまんべんなく擦りこむ。
 調味料は内側まできっちりと、油と一緒に流れてしまうからすこし多めに擦りこむのがポイントだ。

 それが終わったらバーベキュー炉に火起こしだ。
 薪だと火が安定しなくて料理しにくいから時空の円盤と魔法スキルで炭をつくって、それに火魔法で火をつけて創造の槌でつくった串を鳥肉に刺して焼いていく。
 あとは適度に回しながら焼きあがるのを待つだけだ。

「魔鳥の丸焼きはこれでよし」

 待つあいだに、肉ばかりではあれだから昨日みたいにサラダをつくる。
 けれど今回は特訓のとちゅうで柑橘系の果物を見つけたから、それを使ったドレッシングにした。

「サラダも完成っと」

 果汁を絞ったときに爽やかないい匂いがしたから、これも食べるのが楽しみだ。
 けれどこうやってサラダをつくっても、魔鳥の丸焼きの完成にはまだまだ時間がかかる。

「ご飯前にお風呂でも入ってくるか」

 料理をする前にクリーンできれいにしたけれど、動きまわって疲れたしちょうどいいだろう。
 時間も充分あるしせっかくだから一息してから食べることにしようと決めて、完成したサラダを無限収納に入れて鳥肉を回したあと、さっそくお風呂へと向かった。

 それから数十分後、お風呂にゆっくり浸かりさっぱりとした気分でバーベキュー炉まで戻ってきた。
 焼いている途中の鳥肉はいい感じに焼けてきていてとても美味しそうだけれど、完成にはもうすこしかかりそうだ。

「どうしようかな…あ、そういえば解体してるとき途中でやけにスムーズに進むようになったんだよね。やっぱり、あれかな?」

 あの異世界ものでよく見るやつじゃないかと、自分のスキル欄を見てみる。
 そうしたらやっぱり『解体』のスキルが増えていた。

「やっぱりだ。肉とか力入れてないのにスッて切れはじめてたもんなぁ」

 けれどこんな簡単にスキルを手に入れられるなんて、とふたたび疑問に思う。

 ふつうなら生まれついてのもの以外は努力の末に得られたりするみたいなんだけど……これも神みならいの特権みたいなものなのかな?

「──十中八九そうだろうな。まぁ、悪いことじゃないしいっか」

 異世界ものでよく見た、成長補正のようなものだろう。

 前も思ったけど本当、調子に乗らないように気をつけないと。

 魔鳥の肉を回しながら改めてそう決意した。

「それにしても、お腹空いたな~」

 こうして待つのも醍醐味だと思うけれど、すこしだけ丸焼きにしたのを後悔しそうだった。
 だけど、異世界らしく冒険者っぽい感じのご飯を食べたかったんだから仕方がない。
 ここは大人しく我慢だ。

「あ、そうだ。森で取ったものでも焼いて食べよう!」

 たしか、キノコとかあったはずだ。

 さっそく無限収納のなかを確認しはじめる。
 塩と醤油もあるし、ちょうどいいだろう。

 そうと決めたら火を調整したあと、魔鳥の肉を奥に移動させて手前に創造の槌でつくった網を置き、無限収納から出した食べられるキノコを適当な大きさに裂いて、網に乗せて塩を軽く振りかけていく。
 そのあとは、バーベキュー炉のすぐ近くに土魔法で簡単な机と椅子をつくって、焼きあがるのをさっきつくったサラダを食べながら待つことにした。

「ん…このドレッシング香りはすごい爽やかで酸っぱいけど、果実にほんのり甘みがあるからか酸味がまろやかで美味しいな」

 黄緑色のみかんくらいの大きさの果実で、鑑定したところアマスという名前だった。
 鑑定結果に日本名がなかったから、この世界独特のものだろう。

 にてる味はスダチかな?

 きっと、スダチにすこし甘みが加わったらこんな感じだろう。

「スダチっぽいし、キノコにも合うかな?」

 どんな味になるか気になって、いい感じに焼けて美味しそうな匂いのするエリンギっぽいきのこに、アマスをすこしだけ絞ってかけてみる。
 そうしたら果汁が網にでもこぼれ落ちたのかジュウジュウと音がして、食欲を誘う美味しそうな匂いが僕の鼻を刺激した。

「ん~、いい匂い!」

 きのこのが焼ける匂いと果実のさわやかな香りがあわさってすごく美味しそうだ。
 さっそく熱々のそれを箸でとって軽くふうふうと冷ましてからぱくりと食べる。

 その瞬間、口のなかに広がったのは旨みがぎゅっと詰まったシイタケのような味。
 それにすこしの塩気とさわやかなまろみのある酸味が合わさってものすごく美味しい。

「すっごい美味しいけど、前に食べたシイタケってこんな味だったっけ?」

 このキノコには、まるで干しシイタケのような凝縮された濃い旨みが感じられた。
 味がにているだけでシイタケとは違うから、比較するのはおかしいかもしれないけれど不思議だ。

「まぁ、いっか。他のも食べてみよっと」

 つい食欲に負けて考えを放棄したあと、いくつか焼いていたほかの種類を食べたり調味料を変えたりしてキノコの素焼きを楽しんでいく。
 そうやってキノコを食べつくした僕は、もうそろそろ魔鳥の丸焼きもできている頃だろうと火にかけてある魔鳥の肉の様子を見た。

「表面は……うん、いい感じに焼き色がついてパリッと焼けてる。なかは……うん、こっちもオッケー! ちゃんと火が通ってるね」

 完成までだいぶかかったけれど、それも美味しくいただくためのスパイスになるだろう。
 さっそく食べようと網を無限収納のなかに入れて、手前に魔鳥の丸焼きを持ってきたところでハッと気づきたくなかったことに気づく。

 ちょっと待てよ?
 これ、時空の円盤を使えばもっと早くでき──いや、今は考えるのをやめておこう。
 ま、待つのも醍醐味だいごみだからね、うん。

 精神衛生上よくないと思って考えるのをやめて、美味しく焼けた魔鳥の丸焼きに向きなおる。

「よーし、さっそく食べるぞー!」

 やっぱり最初はモモ肉! といきたいところだけど、それはあとの楽しみに胴体から食べていくことに決めて、創造の槌でつくった食事用のナイフを魔鳥の肉に入れると、皮がパリッと切れてそこから肉汁がジュワッとあふれ出した。

「うわぁ~、すっごい美味しそう……」
 
 さっそく一口サイズにそぎ落として、パクリと食べる。

「ん~っ!!」

 その瞬間、僕はその美味しさに目を見開いて思わず声をあげた。

 鳥の旨みがすっごい。
 ハーブ代わりの毒消し草もいいアクセントになってるし、直火だったから美味しい肉汁が流れてパサパサしちゃうかなって思ったけどそんなことなかった。
 やわらかくてしっとりしててすっごく美味しいよ!

 鳥肉ってこんなに美味しかったっけ? なんて思いながら、あまりの美味しさにどんどん食べすすめていく。
 そうやって胴体の肉を堪能したあとは、楽しみに取っておいたあの部分。

「つぎはお待ちかねのモモ肉だ!」

 そう言うやいなやナイフで胴体からモモ肉を切りとって、大きく口を開いてそのままモモ肉に思いっきりかぶりついた。
 その瞬間、かぶりついたところから肉汁がブシュリとあふれ出す。

「あっ、もったいない」

 あわててそれをすすって、またモモ肉にかぶりつく。

「う~、すっごい美味し~」

 モモ肉は胴体よりもやわらかくしっとりジューシーで、本当に美味しかった。
 これを食べるためにあの長い時間があったんなら、待ったかいがあったって感じられるくらいの美味しさだ。

「はぁ~、幸せだ~」

 モモ肉を堪能しつくした僕はごちそうさまをして、椅子にもたれ掛かりながらお腹いっぱいになった身体を幸せな気分で休ませる。
 念願の冒険者っぽいご飯を美味しく食べられたことはもちろんのことだけれど、なにも気にしないで思う存分食べられたことがすごく嬉しかった。

「前は塩分とか気にしたり、食べたくてもすぐお腹がいっぱいになって思うように食べれなかったからなぁ」

 そうつぶやいて、僕はあらためて思う。

「転生して、異世界に来てよかった……」

 できなかったことができるたび、僕は本当にしみじみそう思う。
 こちらの世界に送ってくれた女神様に感謝の気持ちでいっぱいだ。

「よっし! この恩を返すためにも、早くひとの居るところに行けるように頑張るぞ~!」
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