だって僕は君だけのモノ

沙羅

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2週目 [告白]

第19話

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ピリリリリリ……。
拓海の手を振りほどき、騒々しい目覚ましの音を消して起き上がる。案の定、彼は隣ですやすやと寝息をたてたまま。
「拓海が起きろって言ったんだろ……」
一向に起きる気配のない拓海に少しだけイラつき、鼻をきゅっとつまんでやる。
「ん~~」
彼は苦しそうに顔を歪めながらパタパタと手を動かし、僕の手を払おうとした。
さすがの拓海もここまでされたら起きるようで、ゆっくりと目を覚ます。

「おはよう……?」
「おはよ。大丈夫か? 目、赤いけど」
「目? あぁうん、大丈夫」
そう言って彼は軽く目を擦ったあと、フラフラと階下へ降りていった。5分も経たないうちに、先週と同じ朝食を持って戻ってくる。
「食べ終わったら行こう」と言われ、9時半には家を出た。

「寒っ」
思わずそんな声が出てしまうほど、外の風は冷たい。
「上着いる? 僕のがもう1着ならあるけど」
「いいの? できれば借りたい」
どうぞと渡された上着を羽織って、僕たちは旭公園へと向かった。

休日の朝の公園。寒さも影響していたのだろう、そこには誰もいなかった。
拓海はさっきから隣でチラチラと、なぜかずっと時計を気にしている。
「久しぶりにブランコでもやるか?」
そう聞いても、彼は首を振って「少し待ってて」と答えるばかり。

一体何を待っているのだろうかと思っていると、拓海が僕に向き直った。
「千秋ちゃん」
そのまま名前を呼ばれて――なんの前触れもなく口が塞がれる。一瞬、何が起こっているのか分からなかった。
「なに、す……んっ」
それはどんどん深くなっていき、考える力がなくなっていく。体からも力が抜けていくような、そんな感覚さえした。
それでも拓海が離れていくときにはなんとか理性を取り戻し、抵抗の意を示す。

「こんなところで何してんだよ! 誰かに見られたりしたら……!」

そんな僕の怒りの声に、彼は妖艶という言葉の似合いそうな笑みで返した。
美しく勝ち誇ったような、そんな笑み。

「……見せつけてるんだよ」
彼の視線に誘導されるようにして後ろを向けば、そこには「彼女」の姿。

「千秋、くん……?」
「な、んで……」
驚きを含んだ僕らの声が、重なった。

どうして美穂ちゃんがここに? それに、見られた……?
状況を整理できる容量を超えパニックになる。何も見てないと言ってくれと、縋るように彼女を方を見つめることしかできなかった。
そんな僕に比べて彼女は極めて冷静で、拓海の方を向きながらこんなことを言う。

「拓海くんは、千秋くんのことが好きなの……?」

ジャリ、と砂を踏む音が聞こえて、拓海が彼女に近づいた。僕らを結ぶとちょうど三角形になるような位置で立ち止まって、僕の方を見る。

「好き? ……そんな言葉で表せるくらいの、軽い気持ちだったらよかったのにね」
彼の口から紡がれたのは、突然すぎる告白で。

「愛してるよ。千秋ちゃんの一番で居たいし、千秋ちゃんを独占したい。……だから選んでよ。僕か美穂ちゃんか。千秋ちゃんにとって、どっちが大切なのか」

驚く余裕もなく、拓海は僕に選択を迫る。
そんなの選べないと瞬間的に思ったから、僕はこう返した。

「なんで選ばなきゃいけないんだよ。拓海は親友で、美穂ちゃんは彼女で。それで……」

「それで満足できなかったからこう言ってる。ほら、言ってよ。美穂ちゃんを選ぶって。僕の前でハッキリ言ってよ。……いい加減、僕に諦めさせて」

その声はどこか切羽詰まっていて、本当に「選べない」なんて言ってられる状況ではないのだと分かった。思えば、彼が美穂ちゃんまでいる状況でこんなにも本心を曝け出すなんて、普通なら有り得ない。それくらい彼は必死なんだ。
軽く目を閉じて、彼の言葉通り「どっちが大切か」を考えようとする。考えようとして、考えるまでもなかったことに気が付いた。

愛してるのか、と聞かれたら即答はできない。ただ、どっちを手放せないかと聞かれたら、僕は迷わず拓海の方だと答える。
それは彼女のことを好きじゃなかったからとかそういう理由ではなくて、好きとかそういう枠に入らないくらい、僕の中で拓海は特別なんだ。

「拓海」

でも、そう彼に伝える前に彼女に謝らなくては。これはきっと、しっかりけじめを付けなきゃいけないことだから。

「拓海は先に、家に帰ってて」

そう言えば、彼は苦しそうな顔をした。これは多分勘違いさせてしまっているなと思いつつも、止める前に彼は駆けていってしまう。

後に残された静寂は、少しだけ重苦しく感じた。
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