僕の家の永遠の家政夫

沙羅

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「ただいまー!」
 元気な声を響かせて玄関を開けたのは、今大人気のトップ俳優をしている湊さん。実は僕と湊さんは従兄の関係で、幼い頃に両親が他界をしたことを機に、この家に住まわせてもらっている。中学校を出たあたりからは親戚に金銭面の支援だけをしてもらって1人で生きていくという道もあったが、湊さんは「ちょうど家事をしてくれる人がほしかったから」という理由で僕のことを引き取り続けてくれた。
「おかえり、湊さん」
「今日もいい子にしてた?」
 これはいつもの会話。湊さんは帰ってくると開口一番に、こう聞いてくる。
「うん、今日もずっと家にいたよ。ゲームはたくさんしちゃったけどね。あ、湊さんの好きな肉じゃがは作った!」
 いい子にしてたか、という質問は、家を出なかったかどうかの確認を兼ねている。湊さんは僕が家から外に出るのをとても嫌がるのだ。だから義務教育である中学校を出てからは、学校にも通っていない。湊さんは有名なモデルなのだから、絶対に彼が行くよりも僕が買い物に行った方がいいはずなのに、それも許してくれない。理由はあんまり分かっていないけれど、僕と一緒に暮らしていることがバレて湊さんに何か悪いイメージがついてしまうのは嫌だったし、何より湊さんが悲しむのが嫌だったから、そもそもあまり家から出ようとは思わないようになった。
「ほんと? 奏斗は天才だね。じゃあもうご飯にしよっか」
 時間は20時半。不規則な時間で生活している湊さんには珍しく、今日はまともなご飯の時間に帰ってくることができた。昨日から「今日は早く帰って来れそうだからご飯作って待っててほしいな」とうきうきしていた湊さんは可愛くて、喜んでもらえるように好きなメニューを作ることにした。
「ん、じゃあ着替えてきて。その間に用意しておくから」
 この家には、同じ食器あるいは色違いの食器が2種類ずつ置かれている。湊さんと過ごしてきた証拠が詰まったこの食器棚を開けるのが、僕は好きだった。肉じゃがとみそ汁とサラダをそれぞれ盛り付けて、机へと運ぶ。ラフな格好をした湊さんが部屋に戻ってきたのと同時に、夕ご飯の用意も終わった。

「もー、ほんとに天才。奏斗は僕好みのご飯を作るプロだね」
「世界で一番おいしいよ。シェフになれちゃうんじゃない? まぁ他の人にこのご飯を振る舞わせる気はないんだけどね」

 湊さんは一口食べるごとに「おいしい、おいしい」と言ってくれて、ふとした瞬間にこんなオーバーな褒め方をする。目をまっすぐに見て褒められるのは少し恥ずかしいけれど、本当に幸せそうに言うから悪い気はしなかった。僕は家事くらいしかできないけれど、いつも忙しく仕事をしている湊さんを少しでも癒せたらと思っている。
「はー、ほんと体重制限うざい。奏斗のご飯ならいくらでも食べられるのに……」
「何回でも作ってあげるから。僕はかっこいい湊さんが好きだよ」
「うぅ……、奏斗がそういうなら我慢する……。太って嫌われたくない……」
これもいつものお約束だ。名残惜しそうに食器を片付ける湊さんは見ていて可愛い。本当は僕だって好きなだけ食べさせてあげたいけれど、湊さんが自分の仕事に誇りを持っているのは知っているからその信念も守ってあげたかった。

「お風呂いれてくるね。今日は早いし一緒に入ろうか」
 トップ俳優というだけあって、この家はめちゃめちゃ広い。お風呂だって、2人で入っても余裕くらいの大きさだ。あまり物などのハイブランドにはこだわらないくせに、お風呂が広いというのは湊さんの中の家のこだわりだ。それがこの家を選んだ理由と言っても過言ではないほどらしい。
 その癖に1人で入るのは少し寂しいらしく、一緒に入れる時間帯に湊さんが帰ってきたときは一緒に入るのが恒例になっていた。思春期の頃は少し恥ずかしい気持ちもあったけれど、「家族兼恋人」みたいになろうと湊さんに提案されてそれを受け入れてからは、これが普通のことになっていた。
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