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しおりを挟む「ところで」
少しだけ場の雰囲気が柔らかくなったところで、天先輩は俺たちがこんなことになったきっかけを思い出したらしい。
「君と、ハルキって人とはどういう関係?」
真っすぐ向けられる瞳に、今度こそ逃れることはできないと悟る。
「もともと聞く気はなかったんだけどさ。少し君のこと気になってきちゃった」
それは良い意味なのか、悪い意味なのか。それは分からないけれど、天先輩に隠し事が無駄だってことはこの数時間で十分に分かった。それに、天先輩はおそらく朝陽先輩たちの言っていたような異常な性癖を持っているわけではない。
だから、そういう意味では信頼に足るような人なのだろうと信じて、思い切って打ち明けることにした。
「ハルキは……池井春樹は、俺、池井秋弥の兄です」
俺にとっては一世一代の告白のつもりだったが、先輩の反応は薄い。「なるほどね」と小さく呟くだけだった。何が「なるほど」なのかと聞きたくて目を向けると、それを察した先輩が言葉を紡ぐ。
「ハルキ、って言葉の響き、興味が無さ過ぎて忘れてたけど今思い出したよ。真の『サポーター』やってる奴だ」
「真、先輩って」
「さっき君に声をかけた男だよ。現生徒会副会長」
そんな気はしていた。朝陽先輩たちとした会議でも、もし兄を『サポーター』にしている人がいるのであれば必ずこちらに接触があると考えていたから。でも、そうかもしれないという可能性と、実際にそうという証言をもらうのとでは、現実味が全然違う。
「兄は……どういうことをさせられているんですか」
朝陽先輩たちの話では、『サポーター』というのはとても口には出せないような制度だった。でも天先輩のように、『サポーター』がイコール性欲の対象でない人もいる。
そんな一縷の望みをかけて問うも、その希望は無残に打ち砕かれた。
「真はある意味まっとうな『サポーター』の使い方をしてるよ。君の兄は授業に出てないし、なんなら俺たちの前にもそうそう現れない。囲ってるって表現が一番適切だろうね。……そんなんだから、もちろん体の関係だってある。合意かどうかは分かんないけど」
「そ、んな……」
合意なら、自分に口が出せることはない。連絡がないのも、兄が愛する人を見つけて俺たちのことが煩わしくなったらそれでいい。
……でも本当に、無理やりにされているだけだったら?
そう考えると居てもたってもいられなくなって、自分の立場も忘れて彼に縋った。
「助けることは、できないんですか」
「できるよ」
彼が端的に肯定の意を示す。
「俺が今この学園で一番権力を持ってるわけだから、俺なら『サポーター』制度自体をぶち壊すことだってできる」
「じゃあ、」
それで全部解決じゃないか。天先輩の一言で、兄を助けることができるしこれ以上の犠牲者も出なくなる。
そんな簡単なことだったのかと思った矢先、俺は現実を思い知った。
「でも俺に、そうするメリットがないよね」
何を言っているのかと耳を疑う。でもそれは、幻聴なんかではなかった。
「むしろ旧生徒会の先輩たちの怒りを買うことになって、俺にとってはデメリットしかない。そこまでして君のお願いを聞くほど、君に価値があるの?」
少しだけ信頼できるところもあると思ったのに、やっぱりこの人はおかしい。
でも、一切の道徳心を無視するのであれば、天先輩の主張はその通りだった。損得の問題じゃないだろなんて、身内の俺だから言えることに過ぎない。きっと俺だって、兄じゃなかったら見逃している。
今の俺じゃ、説得なんて出来っこない。だから……
「会長にとって、価値のある人間になってみせます」
なんて、宣言をしてやった。
「……そ。期待してるよ」
それは少しも期待してなさそうな、こちらをバカにするような声色だった。
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