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序章 追放されt…えっ違う?
これからどうしよう
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「さぁて、これからどうしようか」
僕、エリーアス・フラハティはどこにでもよくいる狐獣人の冒険者だ。
狐の獣人というだけで嫌な顔を向けてくる人もいるけど、見た目がほとんど人間の僕は、自分から名乗らなければ基本的にそういった面倒なことに巻き込まれない。
イタズラやじゃれあいは大好きだけど争い事や戦いなんてものがあまり好きでなくて、一日生きられるだけの賃金さえあればあとはどうでも良いという自分ながらカラッとした性格をしている。
何事にも頓着はなく、出来ることなら一日中青空を眺めながら青々と茂る野原の上で寝転がっていたい。
そんな僕が今何に頭を悩まされているかというと、今後の衣食住についてだ。
いや、着る服も住むところもあるにはある。
食べ物も人に属するとはいえ獣に近いものだから、狩ればネズミでも虫でも食べることができる。
僕が悩んでいるのはそれらを揃えるための金をどうやって稼ぐかということである。
全部揃っているのに、なぜこれから揃えなければいけないようなことを言うのか。
それはこれから説明しよう。
ことは今からおよそ20時間ほど前、昨日の出来事にまで遡る。
「え、追放?」
「いやいやいやいや、なんっでそうなる!?お前をんなことした日にゃ、俺は頭が身体から消えちまうよ!」
この愉快なおっさn…いや、年齢的にはまだお兄さんだったっけ、彼の名はエリック・リヴィア。僕がいたパーティーのリーダーだ。
「じゃあなんでパーティーから出ていけなんて…」
「んなことも言ってない!このパーティーじゃ、お前を持ち腐らせてしまうから、一旦別れた方が良いと言ったんだ」
「何でそんな倦怠期のカップルみたいなの」
「……とにかく、俺たちに期間をくれ」
エリックは悔しそうな、泣きそうな顔で目をそらした。
本当は彼が僕をパーティーから離そうとしている理由なんてわかっている。
今いる宿の三階からでも外の喧騒が伝わってくる。明日になればこのパーティーはお縄につく。その前に僕を無関係にしたいんだ。
そんなこと僕が望んでいないことはエリックだって分かっているはず。
だけれど、それでも僕を守ろうとしてくれているのは、僕が獣人だから。獣人は刑が重いから。
獣人嫌いの王様は他国の体裁のために獣人を平等に扱うけど、他国から見えないところじゃ獣人は奴隷も同然。エリックみたいに僕を人として扱ってくれる者はこの国では少数だ。
そんな国で獣人の僕が罪なんて犯したらどんなに軽い罪でも罰金刑じゃすまない。良くて拷問、悪くて犯罪奴隷か…死刑、だろう。
でも、それでも、
「僕は君たちと一緒にいたい」
「…………エリィ」
「僕は、仲間だよ」
「エリィ、」
「僕も、君たちと同罪だ」
「エリーアス!」
備え付けのテーブルにエリックの拳が落ちる。上に乗っていた花瓶が揺れた。
「5年、いや、3年でいい。そうしたら俺たちはお前を迎えに行くから」
エリックはかぶりを振って決心を新たにしたような顔を見せた。この顔になったら彼は絶対に意見を変えようとはしない。
それは僕がパーティーに入るときも見せた顔だった。
僕は服の裾を強く握り締めた。
「君の気持ちは分かった……、それでリックが笑顔になるなら、僕は君たちから離れよう」
「……っああ、3年後を楽しみに待っていてくれ」
「もちろん!その時のために話をたくさん用意しておくよ」
外はどんどん騒がしくなっていく。
それは僕らの別れの時が近づいていく音だった。
とまあ感動的な別れだったんだけど、端的に言えば僕は服すべき刑に処されず、仲間を売って自由の身となった薄情者。それに結局仲間たちは5年やそこらで釈放されるようなものではなく、向こう20年は強制労働させられる鉱山奴隷となった。
指折り数えて再び会えるその日を想像して。一通り現状について振り返って、僕は思った。
なんかこの結果って、
「面白くないなあ」
僕の好きなものは面白いものや驚く顔。そして嬉しそうに笑う笑顔だ。
最後に見た仲間の顔は僕に笑顔を向けていたけれど、それは喜びではなく安堵。過保護な彼らが僕だけでも逃がそうと画策していたことはそれだけでよく分かった。
でもそれは僕の好きなものじゃない。
僕はこんなんじゃ、喜べないよ。
頭が熱い気がする。歯を食い縛ると喉の奥から何かが押し上げてきて、鼻がツンと痛んだ。
僕は顔を拭うと俯いていた顔を上げた。
国を出よう。
この国に執着する必要はない。
鉱山には仲間がいるけど、法的に立場の弱い僕じゃどうすることもできない。
だけれど、彼らの仇を打つことならできる。僕が、僕らがこうなってしまった原因に、制裁を加える程度なら。
だからそのためにも獣人を差別するこの国じゃなくて、他国で新たな仲間を見つけよう。
信頼できる仲間が目的を達成する第一歩だってリックが教えてくれたから。
その第一歩を踏み出してみよう。
僕、エリーアス・フラハティはどこにでもよくいる狐獣人の冒険者だ。
狐の獣人というだけで嫌な顔を向けてくる人もいるけど、見た目がほとんど人間の僕は、自分から名乗らなければ基本的にそういった面倒なことに巻き込まれない。
イタズラやじゃれあいは大好きだけど争い事や戦いなんてものがあまり好きでなくて、一日生きられるだけの賃金さえあればあとはどうでも良いという自分ながらカラッとした性格をしている。
何事にも頓着はなく、出来ることなら一日中青空を眺めながら青々と茂る野原の上で寝転がっていたい。
そんな僕が今何に頭を悩まされているかというと、今後の衣食住についてだ。
いや、着る服も住むところもあるにはある。
食べ物も人に属するとはいえ獣に近いものだから、狩ればネズミでも虫でも食べることができる。
僕が悩んでいるのはそれらを揃えるための金をどうやって稼ぐかということである。
全部揃っているのに、なぜこれから揃えなければいけないようなことを言うのか。
それはこれから説明しよう。
ことは今からおよそ20時間ほど前、昨日の出来事にまで遡る。
「え、追放?」
「いやいやいやいや、なんっでそうなる!?お前をんなことした日にゃ、俺は頭が身体から消えちまうよ!」
この愉快なおっさn…いや、年齢的にはまだお兄さんだったっけ、彼の名はエリック・リヴィア。僕がいたパーティーのリーダーだ。
「じゃあなんでパーティーから出ていけなんて…」
「んなことも言ってない!このパーティーじゃ、お前を持ち腐らせてしまうから、一旦別れた方が良いと言ったんだ」
「何でそんな倦怠期のカップルみたいなの」
「……とにかく、俺たちに期間をくれ」
エリックは悔しそうな、泣きそうな顔で目をそらした。
本当は彼が僕をパーティーから離そうとしている理由なんてわかっている。
今いる宿の三階からでも外の喧騒が伝わってくる。明日になればこのパーティーはお縄につく。その前に僕を無関係にしたいんだ。
そんなこと僕が望んでいないことはエリックだって分かっているはず。
だけれど、それでも僕を守ろうとしてくれているのは、僕が獣人だから。獣人は刑が重いから。
獣人嫌いの王様は他国の体裁のために獣人を平等に扱うけど、他国から見えないところじゃ獣人は奴隷も同然。エリックみたいに僕を人として扱ってくれる者はこの国では少数だ。
そんな国で獣人の僕が罪なんて犯したらどんなに軽い罪でも罰金刑じゃすまない。良くて拷問、悪くて犯罪奴隷か…死刑、だろう。
でも、それでも、
「僕は君たちと一緒にいたい」
「…………エリィ」
「僕は、仲間だよ」
「エリィ、」
「僕も、君たちと同罪だ」
「エリーアス!」
備え付けのテーブルにエリックの拳が落ちる。上に乗っていた花瓶が揺れた。
「5年、いや、3年でいい。そうしたら俺たちはお前を迎えに行くから」
エリックはかぶりを振って決心を新たにしたような顔を見せた。この顔になったら彼は絶対に意見を変えようとはしない。
それは僕がパーティーに入るときも見せた顔だった。
僕は服の裾を強く握り締めた。
「君の気持ちは分かった……、それでリックが笑顔になるなら、僕は君たちから離れよう」
「……っああ、3年後を楽しみに待っていてくれ」
「もちろん!その時のために話をたくさん用意しておくよ」
外はどんどん騒がしくなっていく。
それは僕らの別れの時が近づいていく音だった。
とまあ感動的な別れだったんだけど、端的に言えば僕は服すべき刑に処されず、仲間を売って自由の身となった薄情者。それに結局仲間たちは5年やそこらで釈放されるようなものではなく、向こう20年は強制労働させられる鉱山奴隷となった。
指折り数えて再び会えるその日を想像して。一通り現状について振り返って、僕は思った。
なんかこの結果って、
「面白くないなあ」
僕の好きなものは面白いものや驚く顔。そして嬉しそうに笑う笑顔だ。
最後に見た仲間の顔は僕に笑顔を向けていたけれど、それは喜びではなく安堵。過保護な彼らが僕だけでも逃がそうと画策していたことはそれだけでよく分かった。
でもそれは僕の好きなものじゃない。
僕はこんなんじゃ、喜べないよ。
頭が熱い気がする。歯を食い縛ると喉の奥から何かが押し上げてきて、鼻がツンと痛んだ。
僕は顔を拭うと俯いていた顔を上げた。
国を出よう。
この国に執着する必要はない。
鉱山には仲間がいるけど、法的に立場の弱い僕じゃどうすることもできない。
だけれど、彼らの仇を打つことならできる。僕が、僕らがこうなってしまった原因に、制裁を加える程度なら。
だからそのためにも獣人を差別するこの国じゃなくて、他国で新たな仲間を見つけよう。
信頼できる仲間が目的を達成する第一歩だってリックが教えてくれたから。
その第一歩を踏み出してみよう。
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