経験値獲得クエスト

夜桜

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モンスターを倒しても経験値はゼロ

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 モンスターを倒しても経験値はゼロ。
 何も得られない。
 よってレベルもアップしない。

 この世界の人達は、レベルなんて上りはしない。全ての人達は『Lv.1』からまったく数字が上がっていない。だから、Lv.1で冒険する者だらけだ。

 でも、あまりにステータスが強くならないから、大半は逃げだしてしまう。冒険を途中で諦め帝国スティグマに戻ってくる。


 諦めた表情の初心冒険者――いや、何度も見た顔が肩を落とし、今日も舞い戻ってくる。俺はその度に、彼らにこう言葉を送る。


『お疲れさん』


 俺だってレベルは『1』のままだ。
 人生十六年間、まったく微動だにしていない。おいおい、世界さんよ、いい加減にモンスターへ経験値を与えてやってもいいんじゃないか。

 冒険者はスライムやゴブリンを倒すので精一杯だ。それ以上のドラゴンとかゴーレムとか強いヤツは討伐できないでいた。圧倒的なレベル差があるからだ。


「辺境伯様! 辺境伯のソレム様!!」


 ぼうっと湖で釣り・・をしていると、銀髪のメイドが現れて俺の体をユサユサと揺らす。そんなに揺らされると魚が逃げるだろう。

 この腰まで伸びる長い髪の少女は『アドア』と言って、長年屋敷に仕えてくれているメイドだった。とても可愛らしく、従順。俺の癒しのような存在であり、片想いでもあった。


「どうしたアドア。そんなに慌てて」
「今日もオークによる被害が出たんです」
「またオークか……」


 スティグマ帝国の周辺に出現している高レベルのオークの事だ。ヤツ等は『Lv.30』ほどもあるらしく、人間とは『29』の差もある。向こうの方がステータスが上だから、剣で交えても一方的にやられて負ける。

 実際にそんな被害が頻発していた。

 平民の男たちは無惨に殺され、中には女性が襲われたという被害もあるとか何とか。まあ、酷い噂が絶えない。このままでは、国はどんどん被害が増えていく一方だろう。


 俺は、釣りをしている場合ではないかもしれない。……辺境伯としての仕事はしていかないとかな。――少なくとも、皇帝陛下には『何とかしてくれ』と頼まれてもいた。だが、どうやってレベルを上げる?


 そもそもの手段がなかった。


「どうなされますか、ご主人様」
「今のところ俺に出来る事はないかな。まー…、レベリングが出来ればなぁとは思うよ。でもさ、いくらモンスターを倒しても人類のレベルは『1』のまま。勝てっこないよ」

「諦めるんですか」
「人間、諦めも肝心だよ?」

「……【経験値獲得クエスト】があるとしてもですか?」


 俺はそのままアドアの言葉をスルーした。特に疑問も抱かず、自然に。だが、ハッと頭が巻き戻る。


「経験値獲得クエスト!? なんだそれは、詳しく」
「実は……」


 どうやら【経験値獲得クエスト】は、辺境の地にある小さな教会『シンシア教会』で受けられるらしい。何故、そこだけそんなクエストが受けられるのか分からない。分からないが、行ってみる価値はありそうだぞ、これは。


「凄いな、それが本当ならついに人類は初めてレベルアップ出来るワケか」
「ええ、本当ならですが……確証はありません」

「まあ、物は試しだろう。アドア、屋敷は任せるよ。俺は釣りでもしながら、そこを目指してみるさ」


 シンシア教会は、徒歩でも一日は掛かるらしいからな。ゆっくり、のんびり向かって行こうじゃないか――。
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