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◆幽霊のような女

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「どうも」

 短い言葉でわたくしを見つめるルーク。
 いえ、バルバトスかしら。
 どちらが本当の名前なの。
 それとも両方とも偽名なのかな。
 まあ……いいわ。
 復讐さえ果たされるのなら、名前はそれほど重要ではない。

「はじまして……バルバトスさん。わたくしのことはティアとお呼びくださいませ」
「よろしく、ティア」

 ……!
 はじめて、まともに名前で呼ばれた気がする。ていうか、呼び捨て……。彼なら構わないけれど、ちょっと驚いた。
 動揺しているとドノヴァンは顔を覗いてきた。

「どうしたんだい、ティア」
「い、いえ……。なんでもありません」

 妙に胸が高鳴った。
 なんなの、これ。
 自分でも信じられないと思った。
 なぜ、どうして。

「さて、バルバトス。例の情報を頼む」

 ドノヴァンはお酒を注文しながら言った。
 この二人はいったい、どういう仲なの……?
 詳しいことは後で聞くとして、ひとまず情報を。

「対象者であるリーシャだが、彼女はティアのブレナム邸宅を放火した後は、ドノヴァンを狙って動いていたようだ」

「やはり、最近の不審火はリーシャか」
「目撃者も多数いる。だけどね、なぜか潜伏先だけは分からないんだ」

「どうしてだ?」

「リーシャは幽霊のように消えてしまうんだ」
「なんだって……?」
「このところ、この辺りでの幽霊の話が絶えなくてね。特徴がリーシャと一致するんだ」

 わたくしも驚いた。
 幽霊のように消える? 幽霊のような女というわけなの?
 それともルークはもしや、遠回しにリーシャが死んでいると言いたいの? いえ、そんなわけがない。あの女はわたくしを相当恨んでいるはず。
 簡単に自ら命を絶つなんてことしないでしょう。

 向こうも復讐のために燃え上がっているはず。
 でも、それはこちらも同じ。

 だから。

「バルバトスさん。彼女は生きているでしょう」
「おそらくな。なあに、目撃情報がそのような怪奇なものばかりでね。自分ではまだ見たことがないんだ」

「そうでしたの」

 ということは、あまり復讐はまだ成し遂げられていないのね。
 リーシャはずる賢く生きているというわけか。
 けれど、まっとうな生活はできていないはず。
 今までのような優雅な暮らしはないでしょうね。

「引き続き調査は進めるよ」
「頼むよ、バルバトス」

 話はそこで終わった。
 確かに、情報は得られたけど……そうか、それほどは進展していなかったか。

 あとでもう一度ルークに聞いてみよう。


 * * *


 お店を去った。
 有益な情報とは言い難いけれど、どれくらい進んでいるのか状況が知れただけでも良かった。

「……」
「落ち込まないで、ティア。大丈夫さ、そう遠くない日にはリーシャを見つけ出してみせる」
「お願いします」

 このままではダメね。
 今回ばかりは自分で動く必要がある。
 幽霊のように消えるだなんて、そんなオカルトはありえない。
 きっと奇術師のような技を使い、上手く身を隠しているのでしょう。

 その方法をわたくしが暴く。
 そう決心した。

 もし、自力でリーシャを見つけられれば、その時はルークに動いてもらう。
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