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◆私と結婚しなさいよ
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婚約の件を考えておいてくれとドノヴァンは言って去った。
悪くない話だとは思った。
思い悩みながら廊下を歩いていると、お父様が現れた。
「どうした、ティア。難しい顔をしているな」
「お父様……。なぜドノヴァンを?」
「ああ、彼か。ドノヴァンは元騎士。ワルキューレ騎士団の副団長であった。彼ほど好青年は他にはいない。若くして伯爵となったから、その力は本物だ」
へえ、元騎士だったのね。
それであんなに堂々としていたんだ。
ちょっと興味が湧いてきた。
「なるほど」
「ダニエルの件は残念だったな。アレはお前を裏切った愚かな男。当然の報いであった」
「はい。わたくしを騙すだなんて言語道断。死罪は必然でした」
その通りだ、とお父様は頷く。
そして書斎へ戻っていった。
わたくしも部屋へ戻ろう。今日は少し疲れた。
その日以来、わたくしはドノヴァンと関わるようになった。
婚約の件は保留にし、まずはお互いを知ることに。
街中にある噴水中央広場で話をすることに。
「今日は会っていただき感謝しますよ、ティア」
「わたくしもそろそろ前へ進まなければと思っていましたので」
「そうか。でも安心してくれ。私は君だけに惚れている」
「嬉しいですわ」
真っ直ぐな瞳でウソはなさそうに見えた。
彼なら信じられるかも。
騎士という経歴に偽りはなく、女性との付き合いもないと復讐代行の情報をもらった
ならきっと大丈夫。
今度こそ信じられる。
そう思った……時だった。
「ドノヴァン! どうしてここにいるの!」
彼の名を叫ぶ女性が現れた。……誰?
「……リーシャ」
「私との結婚は……?」
……え。どういうこと……?
突然のことに、わたくしは脳の処理が追い付かなかった。これはいったい、なにが……。
「結婚? なんのことだい?」
「誤魔化さないで! 私とは幼馴染でしょう!? 子供のころから約束してくれたじゃない!」
そうなんだ。彼女は幼馴染なんだ。
でも、ドノヴァンは明らかに嫌そうにしていた。……どういうことなの?
「違う。それは君の一方的な好意だ」
「ヒドイ! あんなに好きって言ってくれたじゃない。ていうか、この女は誰よ!」
「失礼だぞリーシャ。この方は侯爵令嬢のティアだ。君よりも上の存在だ」
「……っ! だから何よ! そんなことよりドノヴァン! 私と結婚しなさいよ!」
ドノヴァンの腕を掴もうとするリーシャだったけれど、わたくしが止めた。これ以上は見るに堪えない。
せっかくの空気が台無しよ。
「見苦しいわね」
「なんですって!?」
「ドノヴァンは嫌がっていますわ。それが分からないの?」
「そんなことないわ! 彼は私が大好きなのよ! 愛しているの!」
チラッとドノヴァンの顔を伺うけれど、彼はまったくといって興味がなさそうだった。どうやら、ドノヴァンを信じてよさそうね。でも一応真意を確かめておく。
「ドノヴァン、彼女のことを愛しているの?」
「……愛してなどいない。私はリーシャが嫌いだ」
ハッキリとそう言った。
その言葉に嘘偽りはなさそうだった。
「………………う、うそ」
ショックを受けるリーシャは、その場に泣き崩れた。……お馬鹿さんなのかしら。いえ、でも恋は盲目ともいいますし、豆粒ほどの気持ちなら理解できる。本当にその程度だけど。
ドノヴァンは指を鳴らす。
すぐに衛兵が寄ってきてリーシャを連行した。
「連れていけ」
「分かりました」
彼女はどこかへ。
なんだか知らないけど、わたくしをにらんでいたような。……嫌な予感がした。リーシャはきっとわたくしを恨んでいる。それを肌で感じた。
「大丈夫だったかい、ティア」
「ドノヴァンこそ」
「私は平気さ。君のおかげでね」
「いえ、わたくしは何も」
「それより、助かったよ。子供のころのリーシャは素直で可愛かった。でも、私が副騎士団長を務める頃にはストーカーになってしまってね。何度も何度も手紙を出し、呼んでもいないのに家に来たり……酷いときは包丁を向けられたよ。散々だったんだ」
予想以上に重症だったか。
これは今後がちょっと怖い。
でもきっとドノヴァンが守ってくれる。彼は元騎士だから。
「残念でしたね」
「ああ……。でも君は最高だよ。まさか私を守ってくれるとは感激だ!」
「そんな、たいしたことでは」
「遠慮することはない。誇っていいんだ」
「ありがとうございます」
ここまで褒められるとは。
悪い気はしない。
今回のことは非常に驚いたけれど、彼はわたくしに本気なんだって少しだけ感じられた。でも、まだ知らないことも多い。
悪いのだけどもう少しだけ疑いたい。
悪くない話だとは思った。
思い悩みながら廊下を歩いていると、お父様が現れた。
「どうした、ティア。難しい顔をしているな」
「お父様……。なぜドノヴァンを?」
「ああ、彼か。ドノヴァンは元騎士。ワルキューレ騎士団の副団長であった。彼ほど好青年は他にはいない。若くして伯爵となったから、その力は本物だ」
へえ、元騎士だったのね。
それであんなに堂々としていたんだ。
ちょっと興味が湧いてきた。
「なるほど」
「ダニエルの件は残念だったな。アレはお前を裏切った愚かな男。当然の報いであった」
「はい。わたくしを騙すだなんて言語道断。死罪は必然でした」
その通りだ、とお父様は頷く。
そして書斎へ戻っていった。
わたくしも部屋へ戻ろう。今日は少し疲れた。
その日以来、わたくしはドノヴァンと関わるようになった。
婚約の件は保留にし、まずはお互いを知ることに。
街中にある噴水中央広場で話をすることに。
「今日は会っていただき感謝しますよ、ティア」
「わたくしもそろそろ前へ進まなければと思っていましたので」
「そうか。でも安心してくれ。私は君だけに惚れている」
「嬉しいですわ」
真っ直ぐな瞳でウソはなさそうに見えた。
彼なら信じられるかも。
騎士という経歴に偽りはなく、女性との付き合いもないと復讐代行の情報をもらった
ならきっと大丈夫。
今度こそ信じられる。
そう思った……時だった。
「ドノヴァン! どうしてここにいるの!」
彼の名を叫ぶ女性が現れた。……誰?
「……リーシャ」
「私との結婚は……?」
……え。どういうこと……?
突然のことに、わたくしは脳の処理が追い付かなかった。これはいったい、なにが……。
「結婚? なんのことだい?」
「誤魔化さないで! 私とは幼馴染でしょう!? 子供のころから約束してくれたじゃない!」
そうなんだ。彼女は幼馴染なんだ。
でも、ドノヴァンは明らかに嫌そうにしていた。……どういうことなの?
「違う。それは君の一方的な好意だ」
「ヒドイ! あんなに好きって言ってくれたじゃない。ていうか、この女は誰よ!」
「失礼だぞリーシャ。この方は侯爵令嬢のティアだ。君よりも上の存在だ」
「……っ! だから何よ! そんなことよりドノヴァン! 私と結婚しなさいよ!」
ドノヴァンの腕を掴もうとするリーシャだったけれど、わたくしが止めた。これ以上は見るに堪えない。
せっかくの空気が台無しよ。
「見苦しいわね」
「なんですって!?」
「ドノヴァンは嫌がっていますわ。それが分からないの?」
「そんなことないわ! 彼は私が大好きなのよ! 愛しているの!」
チラッとドノヴァンの顔を伺うけれど、彼はまったくといって興味がなさそうだった。どうやら、ドノヴァンを信じてよさそうね。でも一応真意を確かめておく。
「ドノヴァン、彼女のことを愛しているの?」
「……愛してなどいない。私はリーシャが嫌いだ」
ハッキリとそう言った。
その言葉に嘘偽りはなさそうだった。
「………………う、うそ」
ショックを受けるリーシャは、その場に泣き崩れた。……お馬鹿さんなのかしら。いえ、でも恋は盲目ともいいますし、豆粒ほどの気持ちなら理解できる。本当にその程度だけど。
ドノヴァンは指を鳴らす。
すぐに衛兵が寄ってきてリーシャを連行した。
「連れていけ」
「分かりました」
彼女はどこかへ。
なんだか知らないけど、わたくしをにらんでいたような。……嫌な予感がした。リーシャはきっとわたくしを恨んでいる。それを肌で感じた。
「大丈夫だったかい、ティア」
「ドノヴァンこそ」
「私は平気さ。君のおかげでね」
「いえ、わたくしは何も」
「それより、助かったよ。子供のころのリーシャは素直で可愛かった。でも、私が副騎士団長を務める頃にはストーカーになってしまってね。何度も何度も手紙を出し、呼んでもいないのに家に来たり……酷いときは包丁を向けられたよ。散々だったんだ」
予想以上に重症だったか。
これは今後がちょっと怖い。
でもきっとドノヴァンが守ってくれる。彼は元騎士だから。
「残念でしたね」
「ああ……。でも君は最高だよ。まさか私を守ってくれるとは感激だ!」
「そんな、たいしたことでは」
「遠慮することはない。誇っていいんだ」
「ありがとうございます」
ここまで褒められるとは。
悪い気はしない。
今回のことは非常に驚いたけれど、彼はわたくしに本気なんだって少しだけ感じられた。でも、まだ知らないことも多い。
悪いのだけどもう少しだけ疑いたい。
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