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◆復讐の続き
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わたくしを裏切ったダニエルの死刑執行は果たされた。
最後まで見届け、ようやく胸がスッとした。
会場は散開となり、人はまばらに。
復讐代行の彼はいつの間にかいなくなっていた。
自分も立ち去ろうと踵を返す。
けれども、あの女はそうではなかった。
「……よくも。よくもダニエルを……!」
涙をボロボロと流しながら、女はわたくしをにらむ。
「ご冗談でしょう? 裏切られたのはわたくし。あなたがダニエルを奪ったのでしょう。知っていますのよ」
「……そ、それは。違うわ! 私と彼は真剣だったの。決して、あなたから奪うだなんて……」
その割には弱弱しい口調だった。
きっと後ろめたいことがあったからだ。
「もういいでしょう。さようなら」
「……くっ。ティア……私はあなたを許さない!」
「そのセリフ。そっくりそのままお返しいたしますわ」
そう、わたくしの復讐はまだ終わっていない。
彼女の存在が邪魔。
名前も知らないこの女を消さない限り平和はないのだ。
またこの女に取られてなるものですか。
広場から立ち去り、我が家・ブレナム邸宅へ戻る。
玄関の前で老執事が手紙を寄越してきた。
「お嬢様。こちらを」
「ありがとう。……これは復讐代行からね」
手紙に目を通すと、そこにはダニエルとあの女のことが書いてあった。
調査によるとダニエルは……あの女、ニーナの他にも複数の関係を持っていたという。……なんてことなの。信じらんない。
けれど、最近ではニーナとの関係が特に深かったらしい。
だからあんな必死に……。
わたくしはダニエルを誰よりも愛していた。
一筋だと言ってくれたから全てを捧げるつもりだったのに。
初めての恋も、愛しているという言葉も、何もかもが偽りだった……。お父様の反対を押し切ってまで彼を選んだというのに……なのに。
本当に許せなかった。
悲しみよりも怒りが勝り、復讐を選んだ。
後悔は微塵もない。
そして、まだわたくしの復讐は完璧に終えたわけではない。ダニエルと深い関係だったニーナだけは許せない。
あの女はわたくしの……亡くなったお母さまが大切に育てていた“黒ユリ”を踏み荒らしていた。
一度ならず二度までも、わたくしに屈辱を与えてきた。これは万死に値する。
ダニエルから貰ったプレゼントを全て換金して、再び復讐代行を使うことにした。
――翌日。
買取業者を呼びつけ、すぐに貴金属を換金。
ダニエルのことを忘れたかったし、彼から貰ったモノは置いておきたくはなかった。
かなりのお金を手に入れた。
これでまた依頼できる。
すぐに馬車を走らせ、復讐代行の元へ。
再びあの男を頼ることになるなんて。
でも彼はいい仕事をしてくれた。
そうだ。
そろそろ名前を聞いてみよう。
復讐代行の家に到着。
扉をノックする前に彼が現れ、赤い瞳をこちらに向けた。正直、この何を考えているか分からない眼差しにはゾクっとする。
「どうやら手紙を読んだようだな」
「ええ。ダニエルの件、ありがとうございました。おかげでスッキリしました」
「そのうえで更なる復讐を望むか」
「そうです。その為にわざわざ大金を運んできたのです。嫌とは言わせませんわよ」
「普段から安請け合いはしていない。相応の依頼料でなければ俺は動かない」
「大丈夫です。家が建つほどのお金を準備しましたので」
「……いいだろう。相手の名は?」
「ニーナです。確か……どこかの田舎令嬢です。詳しいことは知りません」
あの女のことなんて興味がない。
早く消えてくれればそれでいい。
「名前だけで十分さ。俺は元探偵でもあるからな」
そうか。それであの手紙を。
きっと“おまけ”で調査してくれるのだろう。助かるけどね。
「では探偵さん。今回もよろしくお願いします」
「任せてくれ。ただし、前回のようなでっちあげは難しいだろう。アレは地位の高いダニエルが相手だからできたこと」
「分かりました。何日でも何週間でも待ちます」
「話が早くて助かる。でも、そんなに待たせるつもりはない」
「毒殺でもしてくれるのですか?」
「そんな単純な話ではないよ。俺は証拠を残さない主義でね。依頼主に迷惑が掛からないよう完璧に依頼をこなす」
「それは助かります。でも万が一にもあなたが捕まるようなことがあったら?」
「そのような事はないと思うが、俺が全ての罪を被ろう。それが復讐代行の最後というわけさ」
へえ、面白い殿方。ほんの少しだけれど彼のことが気になり始めた。よく見れば、とても良い顔立ち。仕草にも品位がある。きっと元貴族に違いない。
依頼は完了した。
あとは結果を待つだけ。
最後まで見届け、ようやく胸がスッとした。
会場は散開となり、人はまばらに。
復讐代行の彼はいつの間にかいなくなっていた。
自分も立ち去ろうと踵を返す。
けれども、あの女はそうではなかった。
「……よくも。よくもダニエルを……!」
涙をボロボロと流しながら、女はわたくしをにらむ。
「ご冗談でしょう? 裏切られたのはわたくし。あなたがダニエルを奪ったのでしょう。知っていますのよ」
「……そ、それは。違うわ! 私と彼は真剣だったの。決して、あなたから奪うだなんて……」
その割には弱弱しい口調だった。
きっと後ろめたいことがあったからだ。
「もういいでしょう。さようなら」
「……くっ。ティア……私はあなたを許さない!」
「そのセリフ。そっくりそのままお返しいたしますわ」
そう、わたくしの復讐はまだ終わっていない。
彼女の存在が邪魔。
名前も知らないこの女を消さない限り平和はないのだ。
またこの女に取られてなるものですか。
広場から立ち去り、我が家・ブレナム邸宅へ戻る。
玄関の前で老執事が手紙を寄越してきた。
「お嬢様。こちらを」
「ありがとう。……これは復讐代行からね」
手紙に目を通すと、そこにはダニエルとあの女のことが書いてあった。
調査によるとダニエルは……あの女、ニーナの他にも複数の関係を持っていたという。……なんてことなの。信じらんない。
けれど、最近ではニーナとの関係が特に深かったらしい。
だからあんな必死に……。
わたくしはダニエルを誰よりも愛していた。
一筋だと言ってくれたから全てを捧げるつもりだったのに。
初めての恋も、愛しているという言葉も、何もかもが偽りだった……。お父様の反対を押し切ってまで彼を選んだというのに……なのに。
本当に許せなかった。
悲しみよりも怒りが勝り、復讐を選んだ。
後悔は微塵もない。
そして、まだわたくしの復讐は完璧に終えたわけではない。ダニエルと深い関係だったニーナだけは許せない。
あの女はわたくしの……亡くなったお母さまが大切に育てていた“黒ユリ”を踏み荒らしていた。
一度ならず二度までも、わたくしに屈辱を与えてきた。これは万死に値する。
ダニエルから貰ったプレゼントを全て換金して、再び復讐代行を使うことにした。
――翌日。
買取業者を呼びつけ、すぐに貴金属を換金。
ダニエルのことを忘れたかったし、彼から貰ったモノは置いておきたくはなかった。
かなりのお金を手に入れた。
これでまた依頼できる。
すぐに馬車を走らせ、復讐代行の元へ。
再びあの男を頼ることになるなんて。
でも彼はいい仕事をしてくれた。
そうだ。
そろそろ名前を聞いてみよう。
復讐代行の家に到着。
扉をノックする前に彼が現れ、赤い瞳をこちらに向けた。正直、この何を考えているか分からない眼差しにはゾクっとする。
「どうやら手紙を読んだようだな」
「ええ。ダニエルの件、ありがとうございました。おかげでスッキリしました」
「そのうえで更なる復讐を望むか」
「そうです。その為にわざわざ大金を運んできたのです。嫌とは言わせませんわよ」
「普段から安請け合いはしていない。相応の依頼料でなければ俺は動かない」
「大丈夫です。家が建つほどのお金を準備しましたので」
「……いいだろう。相手の名は?」
「ニーナです。確か……どこかの田舎令嬢です。詳しいことは知りません」
あの女のことなんて興味がない。
早く消えてくれればそれでいい。
「名前だけで十分さ。俺は元探偵でもあるからな」
そうか。それであの手紙を。
きっと“おまけ”で調査してくれるのだろう。助かるけどね。
「では探偵さん。今回もよろしくお願いします」
「任せてくれ。ただし、前回のようなでっちあげは難しいだろう。アレは地位の高いダニエルが相手だからできたこと」
「分かりました。何日でも何週間でも待ちます」
「話が早くて助かる。でも、そんなに待たせるつもりはない」
「毒殺でもしてくれるのですか?」
「そんな単純な話ではないよ。俺は証拠を残さない主義でね。依頼主に迷惑が掛からないよう完璧に依頼をこなす」
「それは助かります。でも万が一にもあなたが捕まるようなことがあったら?」
「そのような事はないと思うが、俺が全ての罪を被ろう。それが復讐代行の最後というわけさ」
へえ、面白い殿方。ほんの少しだけれど彼のことが気になり始めた。よく見れば、とても良い顔立ち。仕草にも品位がある。きっと元貴族に違いない。
依頼は完了した。
あとは結果を待つだけ。
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