禁断の恋に落ちた帝領伯令嬢と皇帝陛下の運命

夜桜

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ローガン皇帝陛下

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「ステラ、君のことは今後、僕が守る。誰に何を言われようと、君を傷つける者は許さない」

 ローガン陛下の言葉に、わたしは心から安心した。彼がわたしを守ってくれるのなら、どんなことがあっても大丈夫だろう。特殊な立場であるわたしを選んでくれたことが、なによりの誇り。宝物と言っても過言ではない。しかし。


「陛下、恐れながら……わたしはカイルに捨てられた女です。こんなわたしが陛下のお側に……それは罪深いことなのです」


 わたしは陛下に自分を“捨てられた憐れな女”だと告げると、彼は凛とした表情で言った。

「君に何の罪がある? それに、君はただの女ではない。数多いる貴族令嬢の中から、君を見出し、お城に招いたのだから、それだけで君は僕にふさわしい。そう、特別なんだよ」

 そう言われて、わたしはカイルとの日々を思い出した。カイルは、わたしを罵倒し、肉体的にも精神的にも傷つけた。愛がいつしか暴力にすり替わっていた。

 ……ああ、そうだった。

 あの時の自分はどうかしていた。

 盲目的になりすぎて、そのことを意識しないようにしていた。真実から目を逸らしていたんだ。

 それを気づかせてくれたのがローガン陛下。

 わたしは救われたんだ。
 辛かった。
 とても、辛かった。


 ――それから、わたしと陛下の新しい生活が始まった。


 陛下は毎日、わたしに会いに来てくれた。
 部屋でお話をしたり、美味しい料理を振舞ってくれたり、楽しい日々が続いた。


 さらに三日後。


 事態は急変した。

 皇女のカルラが現れた。
 カルラは、腹違いの妹らしい。
 兄であるローガン陛下を慕うあまり、他の者には冷たく当たるという。特に女性が陛下に近づこうものなら、カルラが執拗なまでの意地悪をしてくるという。


 廊下で彼女は足を止め、わたしを見下し、汚い言葉で罵った。


「あんたみたいなゴミがローガン様の側にいるなんて、許せないわ」


 わたしは彼女に負けずに言い返した。


「陛下がお城に住んでよいとおっしゃったのです」


 しかし、カルラはわたしを軽蔑しているようで、ますます攻撃的になっていく。「黙れ」だの「醜女しこめ」だの返ってくる言葉は悪口ばかり。意思疎通は不可能と判断した。話にならない。

 わたしは軽い会釈だけ済ませ、立ち去ろうとした。
 その直後、わたしの頬を叩こうとする動作が見えた。わたしは咄嗟とっさの判断でカルラの手をかわした。


「……ぐッ! 避けられるとは……! あんた、本当に女なの。不気味ね!」
「たまたまです。それでは」

「今に見てなさい、ステラ。あんたを徹底的に追い詰めてやるから。地獄を見せてあげるわ」


 とんでもない人に目を付けられた。
 これからどうすればいいのだろう。

 不安に陥りながらも、部屋の前まで戻るとそこには陛下の姿があった。


「ローガン様……」
「待っていたよ、ステラ。……おや、元気がないね。どうしたんだい?」


 わたしは、カルラと会って酷いことを言われたと打ち明けた。
 ローガン陛下は、わたしを守るために対策を講じてくれると約束してくれた。どうやら、カルラの横柄な態度によって側近が苦しんでいることを、つい最近知ったようだった。
 このままでは周囲の人々が不幸になってしまうと、陛下も懸念を抱いていたようだ。


「どうして、カルラはあんなに意地悪になってしまったんですか?」
「……覚えがあるとしたら、父上が亡くなってからだな。今や僕が継いで皇帝となった。忙しくなってしまってカルラの相手をできなくなった。それが原因かもしれない」

「でも、あれは酷いです」

「ああ。直せるかどうか見極めたいところだが……。そんな時間はないのかもしれない」
「どういうことですか?」

「まだ確証はない。けど、カルラは裏でなにかをしているようなのだ。もし、それが明らかになれば……彼女はもう皇女としてもいられなくなるだろう」


 裏で何かを……?
 調べてみる価値はあるかもしれない。
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