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婚約破棄

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 インペリアル城内の一室で、わたしは侯爵であるカイルと向き合っていた。彼は怒り狂っていて、わたしの手首を強くつかんで力を込めた。


「もういい。お前とは婚約破棄だよ、ステラ」


 わたしは思わず身体を引っ込め、彼の手から逃れようとした。けれどカイルは私の手首を離さず、力を加える一方だった。


「痛い……お願い、やめてください……」


 彼に訴えても、カイルはわたしの言葉を無視。そのままわたしを床に引き倒し、恐ろしい形相で見下ろしてきた。

「お前はつまらん女だ。ただペットのように愛想を振りまくくらいしか出来ないのか!」
「そんな、酷いです! そんな言い方はないでしょう!?」
「黙れ。それにな、陛下のご好意でインペリアル城内に住まわせて貰っているのだぞ。俺が侯爵であるおかげでな!」

 わたしは彼の暴力的な言葉にショックを受け、深い悲しみを感じた。
 幼い頃から将来を約束していた人、愛していた人が、実はわたしを嫌っていたなんて。
 酷い眩暈と震えのせいで、その場から立ち上がることができず、ただ床に横たわって泣き崩れるしかなかった。


「カイル……わたしを愛していないのですね」
「そうだ。お前にもう用はない。だが、陛下にはお前が一方的に婚約破棄したと伝えておこう」

 悪魔のように笑うカイルは、部屋から出ていこうとした。

 けれど。

 その時だった。
 部屋の扉が開くと、そこには青年が現れた。
 あの人は……誰なんだろう?

「全て聞かせて貰ったよ、侯爵。君はなんて酷い男なんだ」
「な!? なぜ、あなたが!!」

 驚いて腰を抜かしかけるカイル。
 そんなに驚く相手って……まさか。


「この城の主だからね。どこへ行こうと僕の勝手さ。それより、カイル。お前はステラを捨てるのかい?」

「そ、それは……違います。これはステラが私を捨てようと……」

「くだらない言い訳だ。カイル、お前は多くの女性に暴力を振るい、泣かせてきたようだな。なんて最低な男だ」

「違うのです!!」

「口答えするな、カイル。お前はこのインペリアル城に住みたいだけだろう。もういい、お前をこの城から追放する」

「なッ!?」


 やっと分かった。
 彼こそが皇帝陛下ローガン。

 彼はずっと謎に包まれていて、滅多に人前に姿を現さないことで有名だった。なのに、今はこうして姿を晒していた。

 もしかして、わたしを助ける為に……?

「ステラ、安心するといい。この悪逆非道の男、カイルは地下牢へ放り込む。後日、灼熱の砂漠にでも捨てておくさ」
「陛下、やっぱり陛下なのですね」
「そうだ、僕はずっと侯爵の悪行に気づけなかった。……どうか、許してくれ」
「いいのです! 助けていただいて、わたしは嬉しいのですから」

「良かった。衛兵、そのカイルを捕らえよ!」


 陛下の命令により、カイルは捕らえられた。彼は最後まで抵抗し、発狂していた。


「ステラ、ステラあああああ!! くそおおおおお!!」


 ……もう二度とあの男には会いたくない。
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