15 / 18
辺境伯令嬢の地位を活かして
しおりを挟む「俺達に話を聞きに来たんですか?」
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
268
お気に入りに追加
618
あなたにおすすめの小説

ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。

彼が愛した王女はもういない
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。
どちらも叶わない恋をした――はずだった。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全11話です。


あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。

婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
奏音 美都
恋愛
「こちら、妹のマリアンヌですわ」
妹を紹介した途端、私のご婚約者であるジェイコブ様の顔つきが変わったのを感じました。
「マリアンヌですわ。どうぞよろしくお願いいたします、お義兄様」
「ど、どうも……」
ジェイコブ様が瞳を大きくし、マリアンヌに見惚れています。ジェイコブ様が私をチラッと見て、おっしゃいました。
「リリーにこんな美しい妹がいたなんて、知らなかったよ。婚約するなら妹君の方としたかったなぁ、なんて……」
「分かりましたわ」
こうして私のご婚約者は、妹のご婚約者となったのでした。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる