さようならお姉様、辺境伯サマはいただきます

夜桜

文字の大きさ
上 下
1 / 1

婚約破棄

しおりを挟む
「婚約破棄だ、アリス」
「……え」

「すまない。恨むなら君の姉アイリスを恨め。僕は何度も彼女を説得したが、無理だった。本当にすまない」

 申し訳なさそうにそう告げ、去っていく。
 すれ違うようにやってくる姉。

「アイリス姉様、これはどういうこと!?」
「アリス、あんたと辺境伯サマの関係はおしまいよ」
「どうして!」

「どうして? ずっと狙っていたエルヴィス様を取ったのはあなたじゃないっ!! アリス!! だからどうしても許せなかったし、奪ってやろうと隙を狙っていたの」

 ニヤニヤと笑い、近づいてくる姉。

「酷い、こんなの酷過ぎます!」
「酷い? どっちが! この裏切者! アリス、お前なんか妹じゃないッ」


 わたしの髪を掴み、強くひっぱるお姉様。わたしはそのまま引きずられ、馬車に乗せられた。

「い、いたいっ、放して!!」
「黙りなさい、アリス。お前を今から氷の大地に捨てる」
「ど、どうして……どうしてそこまで」
「言ったじゃない。あんたが嫌いだって」


 馬車はわたしとお姉様を乗せ、走り出す。逃げ出そうとしても、強く押さえられ逃げ出せない。わたし……このまま捨てられるの?


 気づけば氷が広がる大地に到着。わたしは投げ捨てられ、氷の上を滑っていく。


「いたっ……乱暴しないで」
「あははは、ざまぁないわね! あんたにはこの何もない氷がお似合いよ!」


 散々笑って姉は馬車へ戻っていく。
 ……昔は仲が良くて支え合っていたのに。これがお姉様の正体だったというの。

 ……悪魔。

 わたしは、あまりの寒さに体温を一瞬で奪われバタッと倒れた。もう意識が……。


「…………いえ、こんなところで死ねない。お姉様に復讐するまでは!!」


 自力で這い上がり、氷の上に立つ。
 絶対に許せない。


 なにか方法は……。


 氷に映る自分の顔を見つめていると、ハッと気づく。わたしとお姉様は双子。髪型こそ違うけれど顔はそっくり。そうよ、お姉様はロング。わたしは髪をシニヨンにしているから、解いてしまえば……いける。


 ◇


 なんとか辺境伯エルヴィスのお屋敷に辿り着く。手も足も凍傷でどうかなりそう……でも、それ以上にお姉様が許せなかった。

 もうあれから一日が経ったし、身も心もボロボロ。……それでも。わたしの生活を奪ったお姉様に一泡吹かせたい。


 こっそり庭に隠れていると、お姉様が散歩に出てきた。


「~♪ う~ん、少し寒いけどいい天気だわ。妹のアリスもくたばったかしら……それとも、氷漬けにでもなってカチコチかな」


 ……そう、もう容赦はしないわ。


 幸い、今は『冬』であり、氷柱つららも多くあった。近くにあった氷柱を手にしていたわたしは、それを武器に走っていく。


「お姉様、覚悟!!」

「……えっ、アリス! ま、まさか生きて……や、やめ……!」

「死んでちょうだい!!」


 不意をつき、わたしはアイリスお姉様の右目に氷柱を突き刺す。


「いやああああああああああああああああああ…………っ」


 更に抜き取り、左目に。
 おびただしい量の血を流し、アイリスお姉様は倒れた。


「……さようなら、お姉様。辺境伯サマはいただきます」


 ◇


 妹のアリス・・・・・を殺した犯人は見つかっていない。凶器も見つかっていない。なぜなら武器は『氷柱つらら』だから、溶けて消えてしまった。故に特定もされていない。


「……嫌な事件だったね、アイリス」
「ええ」
「妹さんのアリスは残念だよ。お悔やみを」
「はい、アリスは殺されるような女の子では無かった。優しかったのに……どうしてこんな事に」

「可哀想にアイリス。僕は気が変わったよ、ひとりぼっちになってしまった君を幸せにする」
「嬉しい……」


 もちろん、わたしはアリス。
 髪型を変え、見事に姉を演じていた。

 でもそれは永遠の秘密。

 これからはお姉様の存在を借り――アイリスとして生きて行く。大丈夫、今がとっても幸せだから。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。 その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。 自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……

初夜に「私が君を愛することはない」と言われた伯爵令嬢の話

拓海のり
恋愛
伯爵令嬢イヴリンは家の困窮の為、十七歳で十歳年上のキルデア侯爵と結婚した。しかし初夜で「私が君を愛することはない」と言われてしまう。適当な世界観のよくあるお話です。ご都合主義。八千字位の短編です。ざまぁはありません。 他サイトにも投稿します。

〖完結〗仮面をつけさせられた令嬢は義姉に婚約者を奪われましたが、公爵令息様と幸せになります。

藍川みいな
恋愛
「マリアは醜くて、見ていられないわ。今日から、この仮面をつけなさい。」 5歳の時に、叔母から渡された仮面。その仮面を17歳になった今も、人前で外すことは許されずに、ずっとつけています。両親は私が5歳の時に亡くなり、私は叔父夫婦の養子になりました。 私の婚約者のブライアン様は、学園ダンスパーティーで婚約を破棄して、お義姉様との婚約を発表するようですが、ブライアン様なんていりません。婚約破棄されるダンスパーティーで、私が継ぐはずだったものを取り戻そうと思います! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 現実の世界のお話ではないので、細かい事を気にせず、気楽に読んで頂けたらと思います。 全7話で完結になります。

愛するひとの幸せのためなら、涙を隠して身を引いてみせる。それが女というものでございます。殿下、後生ですから私のことを忘れないでくださいませ。

石河 翠
恋愛
プリムローズは、卒業を控えた第二王子ジョシュアに学園の七不思議について尋ねられた。 七不思議には恋愛成就のお呪い的なものも含まれている。きっと好きなひとに告白するつもりなのだ。そう推測したプリムローズは、涙を隠し調査への協力を申し出た。 しかし彼が本当に調べたかったのは、卒業パーティーで王族が婚約を破棄する理由だった。断罪劇はやり返され必ず元サヤにおさまるのに、繰り返される茶番。 実は恒例の断罪劇には、とある真実が隠されていて……。 愛するひとの幸せを望み生贄になることを笑って受け入れたヒロインと、ヒロインのために途絶えた魔術を復活させた一途なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25663244)をお借りしております。

処理中です...