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婚約破棄
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「婚約破棄だ、アリス」
「……え」
「すまない。恨むなら君の姉アイリスを恨め。僕は何度も彼女を説得したが、無理だった。本当にすまない」
申し訳なさそうにそう告げ、去っていく。
すれ違うようにやってくる姉。
「アイリス姉様、これはどういうこと!?」
「アリス、あんたと辺境伯サマの関係はおしまいよ」
「どうして!」
「どうして? ずっと狙っていたエルヴィス様を取ったのはあなたじゃないっ!! アリス!! だからどうしても許せなかったし、奪ってやろうと隙を狙っていたの」
ニヤニヤと笑い、近づいてくる姉。
「酷い、こんなの酷過ぎます!」
「酷い? どっちが! この裏切者! アリス、お前なんか妹じゃないッ」
わたしの髪を掴み、強くひっぱるお姉様。わたしはそのまま引きずられ、馬車に乗せられた。
「い、いたいっ、放して!!」
「黙りなさい、アリス。お前を今から氷の大地に捨てる」
「ど、どうして……どうしてそこまで」
「言ったじゃない。あんたが嫌いだって」
馬車はわたしとお姉様を乗せ、走り出す。逃げ出そうとしても、強く押さえられ逃げ出せない。わたし……このまま捨てられるの?
気づけば氷が広がる大地に到着。わたしは投げ捨てられ、氷の上を滑っていく。
「いたっ……乱暴しないで」
「あははは、ざまぁないわね! あんたにはこの何もない氷がお似合いよ!」
散々笑って姉は馬車へ戻っていく。
……昔は仲が良くて支え合っていたのに。これがお姉様の正体だったというの。
……悪魔。
わたしは、あまりの寒さに体温を一瞬で奪われバタッと倒れた。もう意識が……。
「…………いえ、こんなところで死ねない。お姉様に復讐するまでは!!」
自力で這い上がり、氷の上に立つ。
絶対に許せない。
なにか方法は……。
氷に映る自分の顔を見つめていると、ハッと気づく。わたしとお姉様は双子。髪型こそ違うけれど顔はそっくり。そうよ、お姉様はロング。わたしは髪をシニヨンにしているから、解いてしまえば……いける。
◇
なんとか辺境伯エルヴィスのお屋敷に辿り着く。手も足も凍傷でどうかなりそう……でも、それ以上にお姉様が許せなかった。
もうあれから一日が経ったし、身も心もボロボロ。……それでも。わたしの生活を奪ったお姉様に一泡吹かせたい。
こっそり庭に隠れていると、お姉様が散歩に出てきた。
「~♪ う~ん、少し寒いけどいい天気だわ。妹のアリスもくたばったかしら……それとも、氷漬けにでもなってカチコチかな」
……そう、もう容赦はしないわ。
幸い、今は『冬』であり、氷柱も多くあった。近くにあった氷柱を手にしていたわたしは、それを武器に走っていく。
「お姉様、覚悟!!」
「……えっ、アリス! ま、まさか生きて……や、やめ……!」
「死んでちょうだい!!」
不意をつき、わたしはアイリスお姉様の右目に氷柱を突き刺す。
「いやああああああああああああああああああ…………っ」
更に抜き取り、左目に。
おびただしい量の血を流し、アイリスお姉様は倒れた。
「……さようなら、お姉様。辺境伯サマはいただきます」
◇
妹のアリスを殺した犯人は見つかっていない。凶器も見つかっていない。なぜなら武器は『氷柱』だから、溶けて消えてしまった。故に特定もされていない。
「……嫌な事件だったね、アイリス」
「ええ」
「妹さんのアリスは残念だよ。お悔やみを」
「はい、アリスは殺されるような女の子では無かった。優しかったのに……どうしてこんな事に」
「可哀想にアイリス。僕は気が変わったよ、ひとりぼっちになってしまった君を幸せにする」
「嬉しい……」
もちろん、わたしはアリス。
髪型を変え、見事に姉を演じていた。
でもそれは永遠の秘密。
これからはお姉様の存在を借り――アイリスとして生きて行く。大丈夫、今がとっても幸せだから。
「……え」
「すまない。恨むなら君の姉アイリスを恨め。僕は何度も彼女を説得したが、無理だった。本当にすまない」
申し訳なさそうにそう告げ、去っていく。
すれ違うようにやってくる姉。
「アイリス姉様、これはどういうこと!?」
「アリス、あんたと辺境伯サマの関係はおしまいよ」
「どうして!」
「どうして? ずっと狙っていたエルヴィス様を取ったのはあなたじゃないっ!! アリス!! だからどうしても許せなかったし、奪ってやろうと隙を狙っていたの」
ニヤニヤと笑い、近づいてくる姉。
「酷い、こんなの酷過ぎます!」
「酷い? どっちが! この裏切者! アリス、お前なんか妹じゃないッ」
わたしの髪を掴み、強くひっぱるお姉様。わたしはそのまま引きずられ、馬車に乗せられた。
「い、いたいっ、放して!!」
「黙りなさい、アリス。お前を今から氷の大地に捨てる」
「ど、どうして……どうしてそこまで」
「言ったじゃない。あんたが嫌いだって」
馬車はわたしとお姉様を乗せ、走り出す。逃げ出そうとしても、強く押さえられ逃げ出せない。わたし……このまま捨てられるの?
気づけば氷が広がる大地に到着。わたしは投げ捨てられ、氷の上を滑っていく。
「いたっ……乱暴しないで」
「あははは、ざまぁないわね! あんたにはこの何もない氷がお似合いよ!」
散々笑って姉は馬車へ戻っていく。
……昔は仲が良くて支え合っていたのに。これがお姉様の正体だったというの。
……悪魔。
わたしは、あまりの寒さに体温を一瞬で奪われバタッと倒れた。もう意識が……。
「…………いえ、こんなところで死ねない。お姉様に復讐するまでは!!」
自力で這い上がり、氷の上に立つ。
絶対に許せない。
なにか方法は……。
氷に映る自分の顔を見つめていると、ハッと気づく。わたしとお姉様は双子。髪型こそ違うけれど顔はそっくり。そうよ、お姉様はロング。わたしは髪をシニヨンにしているから、解いてしまえば……いける。
◇
なんとか辺境伯エルヴィスのお屋敷に辿り着く。手も足も凍傷でどうかなりそう……でも、それ以上にお姉様が許せなかった。
もうあれから一日が経ったし、身も心もボロボロ。……それでも。わたしの生活を奪ったお姉様に一泡吹かせたい。
こっそり庭に隠れていると、お姉様が散歩に出てきた。
「~♪ う~ん、少し寒いけどいい天気だわ。妹のアリスもくたばったかしら……それとも、氷漬けにでもなってカチコチかな」
……そう、もう容赦はしないわ。
幸い、今は『冬』であり、氷柱も多くあった。近くにあった氷柱を手にしていたわたしは、それを武器に走っていく。
「お姉様、覚悟!!」
「……えっ、アリス! ま、まさか生きて……や、やめ……!」
「死んでちょうだい!!」
不意をつき、わたしはアイリスお姉様の右目に氷柱を突き刺す。
「いやああああああああああああああああああ…………っ」
更に抜き取り、左目に。
おびただしい量の血を流し、アイリスお姉様は倒れた。
「……さようなら、お姉様。辺境伯サマはいただきます」
◇
妹のアリスを殺した犯人は見つかっていない。凶器も見つかっていない。なぜなら武器は『氷柱』だから、溶けて消えてしまった。故に特定もされていない。
「……嫌な事件だったね、アイリス」
「ええ」
「妹さんのアリスは残念だよ。お悔やみを」
「はい、アリスは殺されるような女の子では無かった。優しかったのに……どうしてこんな事に」
「可哀想にアイリス。僕は気が変わったよ、ひとりぼっちになってしまった君を幸せにする」
「嬉しい……」
もちろん、わたしはアリス。
髪型を変え、見事に姉を演じていた。
でもそれは永遠の秘密。
これからはお姉様の存在を借り――アイリスとして生きて行く。大丈夫、今がとっても幸せだから。
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